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「お、おい? テリア?」
「どうしたのよ?」
笑顔のまま微動だにしない黒髪の女性、ネフテリア。突然の出来事に、アリエッタ以外の全員が立ち上がり、それぞれの位置から恐る恐るのぞき込んでいる。
喋っている間に少し揺れた長い髪も、そのまま止まってしまっている為、異様な光景となっている。
(あれ? みゅーぜが説明してくれない? なんか思ってた反応と違う)
アリエッタも違う意味で、不思議そうに眺めていた。
「ねぇ総長、こういう変な能力持った人っています?」
「いや、わちもしらん。いちおうげんざいコウリュウのある、すべてのリージョンはハアクしてるのだが……」
驚き警戒して、今も魔力を感じていないミューゼが問いかけるが、ピアーニャとロンデルにも思い当たる種族がいない。
原因が全く分からず、これまでに例が無いという現象に、この異変の原因特定は……一瞬で終わった。
『アリエッタ!?』
「ひゃうっ!?」(びっくりした!!)
一斉に名前を呼ばれ、座ったままちょっと飛び上がりそうになったアリエッタ。
「え~っと……アリエッタ? 何したの?」
(え、もしかして怒ってる? 何か嫌な事されてたんじゃないの?)
「いったいこんどはどんなエをかいたのだ!?」
「ご、ごめなさい」(ぴあーにゃも怒ってる! もしかしてこの人って、りりみたいにジュース持ってきてくれる人だったのか?)
怒られたと思ったアリエッタは、慌てて謝りながら、つい手に持った小さな木の板をミューゼに差し出した。
「ん? これ何?」
木の板を渡したアリエッタは、これ以上説明しようがない為、シュンとして俯いてしまった。
ミューゼの受け取った木の板には、丸が2つ描いてあり、その中には三角と、縦棒が2本だけ、それぞれ描かれていた。そして側面には1つだけ小さな点がある。
「何を手渡されたのよ?」
「なんか絵が描いてある木の板……って、アリエッタ、なんで落ち込んでるの~」
アリエッタの様子を見たミューゼは、木の板をパフィに渡して、慌ててアリエッタを抱き寄せ撫で始めた。
木の板を渡されたパフィは、ピアーニャとロンデルと共にそれを見る。
「……見えない壁を作ったあの絵と似ていますね。きっと何か不思議な力があるのでしょう」
「テリアがとまったのはコレのせいか。またわけのわからんのうりょくを……」
「でもおかしいのよ。絵から離れてるのに、今も止まったままなのよ」
今までに見たアリエッタの絵の力は、絵のある場所に壁を作る力、絵を中心に発光する力、謎の破壊光線の3つである。どれも絵そのものが発生源となっているが、今回は絵から離れた位置にいたネフテリア本人に直接発生している。そしてアリエッタが木の板を手放しても、その力は消えないでいた。
その共通点の無さが、ピアーニャ達を大いに悩ませる事になっていた。
「もしかして、アリエッタってなんでもできるのか?」
「どうなんでしょうね……ただ意志疎通が出来ないせいで、何をしでかすか分からないという事はハッキリしていますが」
「そんなアリエッタをトラブルの元凶みたいに……」
ラスィーテで酔った時以外は、どちらかというとトラブルを解決する方に力が向いている。しかし何をするか分からないという点では、ミューゼもパフィも否定出来ないでいた。
アリエッタ以外にとっては、一体どういう力が働いているのか見当もつかない。だからなのか、力の使い方を間違えないように、教育はしっかりしてあげたいと思う大人達4人だったが、その手前で止まっているという現実に、さらに頭を悩ませるのだった。
一方、自分自身がみんなを悩ませている事が分からないアリエッタは、そんな一同を見て慌てている。
(うぅ……やっぱりみんな怒ってる。うっかりみゅーぜに渡しちゃったけど、僕以外は使えないんじゃなかったっけ……)
アリエッタの絵には、アリエッタ自身が力を込めて発動させる必要がある。怒られたと思って焦ってミューゼに渡してしまった為に、自分しか使えない事を一瞬忘れていたのだった。
「とりあえず、この人を元に戻してもらうのよ。なんだか可哀想なのよ」
「そ、そうだな。さすがにこのままはよくない」
しばらく悩んでいたが、パフィがネフテリアを放置していた事を思い出し、能力の謎は後回しにする事にした。
「え~っと、アリエッタ。あの人を、元に、戻してほしいの。わかるかな」
ミューゼがジェスチャーをしながら、なんとか意志を伝えようとする。その過程で、木の板をアリエッタに渡し、ネフテリアを指差した後に、板をトントンと指で突いて、やって欲しい事を動きで見せた。
(え? わかったよ)
アリエッタはコクリと頷き、木の板をネフテリアへと向け、指で突く。すると……
「──ンデル・エるぅぇ──」
自己紹介の途中から始まり、急に驚いたところで再び停止した。
その動いている途中のポーズで止まったネフテリアを見て、5人の目が点になっている。
(えっと、これでいいのかな? 同じように2回押したけど……)
ミューゼは2回板を指差して、どうすれば良いかを教えようとしたのだが、アリエッタは単純に2回押すという意味で捉えてしまった。その結果、ネフテリアはもう一度止まってしまったのだ。変なポーズで。
「……ぶふっ。なんだこのカオとポーズ」
「ミューゼ、ちゃんと動かすように伝えたのよ?」
「大丈夫だと思ったんだけどなー……あはは」
意思疎通に失敗した事を実感する一同。ミューゼは乾いた笑いで誤魔化すしかない。
「何やってるのよミューゼ」
「貴女がアリエッタさんと通じ合わなくてどうするのですか」
「しっかりせんかミューゼオラよ」
「あたしが悪いの!?」
(なんかみゅーぜまで怒られた!?)
理不尽にも責められるミューゼ。もっとも、3人の冗談だが。
そんな光景を真に受けたアリエッタは、必死にミューゼを慰めようとする。
「えーん、アリエッタ~」
「みゅーぜ~」(みゅーぜも何かやっちゃったのか? えーっと、撫でたら元気でるかな?)
「ホントに何やってるのよ……」
その間にも、どうしてもその力が気になったピアーニャが木の板を手に取り、まじまじと見ている。しかしどこからどう見ても、少し絵が付いた普通の木の板である。
「なんだとおもう?」
「魔法陣に似ている気がしますね。以前の太線1本の印だと見えない壁、三角と線2本のどちらかが動きを止める……という事でしょうか」
ロンデルはアリエッタの能力を、『魔法陣』の様なものと仮説を立てる。しかし同じファナリア人のミューゼが疑問を抱いた。
「で、でも魔法陣の効力なんて、普通は陣の上じゃないと……」
「ええ、だから似ているとしか言えません。ラスィーテでの事は、それでは説明出来ませんし」
丸の中に印を描いて、魔法を発動させる『魔法陣』。魔法のリージョンであるファナリアにはその技術があり、様々な道具に組み込まれ、生活を豊かにしている。昼に空中を移動していたのも、その技術の一端である。
しかし、難しい制御ほど陣が複雑になり、大きくなっていく『魔法陣』に比べ、アリエッタの木の板は、単純かつ魔力が無い。『魔法陣』に詳しいロンデルとミューゼにとっては、不可解な物であった。
もちろんアリエッタは『魔法陣』の事は全く知らない。木の板に描いたのは、アリエッタが前世でよく使っていた日用品だった。
(それにしても、生き物まで止めちゃうリモコンなんて、アニメで見てた狸型ロボットのオモシロ道具みたいだなぁ。流石に早送りとかで年齢とか早送りしたら怖いから、一時停止と再生だけで十分だけど)
三角の再生ボタン、縦線2本の一時停止ボタン、そして側面にセンサーを模した絵を描いた木の板は、アリエッタの思惑通りの機能となっていた。むしろ思惑通り過ぎて、他の機能が怖くて付けられないでいる。そのうえ、危険な物を作って嫌われたくないという想いもあって、一応自重はしていた。今回のリモコンも本来なら、以前のように危険生物が出た時の為の保険として作った物なのだ。
少しの間考察していた一同だったが、大事な事を思い出した。
「って、それよりも、さっさとテリアをもとにもどさないとな」
「そうですね、いくらネフテリア様とはいえ、いつまでも王女をこのままにはしておけません」
「そうなのよ、ミューゼはやく……えっ?」
「……いまなんて?」
ロンデルの言葉に、耳を疑うミューゼとパフィ。
とりあえず聞き間違いという事にして、急いで木の板をピアーニャから奪い、アリエッタに動かす様に伝えようとする。
「ああああありえった! お願いあの人動かひちぇ!」
言葉が通じないのも忘れ、ちょっと噛むくらい慌てている。
そんなミューゼを見て、アリエッタはというと……
(あ、みゅーぜ元気になった。よかったね~)
当然事態を全く理解せず、リモコンを受け取りポーチに入れ、ミューゼの手を握って笑顔になった。
「そうじゃないのよおぉぉぉ!!」