第7話:命の見世物市
市民区の大通りは、鮮やかな光の幕で飾られていた。
ビルの壁面には巨大な広告が映し出され、そこには「今月の新種ペット」「家庭に癒しを!」という文字と共に、小さな生き物たちの映像が流れていた。
露店の前に立つフォージャーは、丸顔の中年男。
背は低く、丸めた背中にだぶついた緑の上着を羽織り、額の第三の眼は宝石のように装飾されていた。
彼の名はモルク。
短い赤褐色の髪を乱しながら、笑みを浮かべる。
「さあ見ていっておくれ! 新配合の“しっぽ光ネズミ”! 子どもに大人気だよ!」
ケージの中には、小さなネズミのような生き物が跳ね回っていた。
尾が光を放ち、振るたびに虹色の残光が揺れる。
子どもたちは歓声を上げ、親たちは財布を取り出す。
「命を買って、持ち帰る……か。」
クオンは市場の片隅に立ちながら、灰色の瞳を細めた。
彼の装いは旅人らしい黒い外套に長靴、額の第三の眼は淡い光を宿していた。
周囲の浮かれた人々と対照的に、その姿は場違いに冷ややかだった。
群衆の中には、若い女性のフォージャーの姿もあった。
明るい桃色の髪をツインに結び、黄色の短いワンピースを纏った少女──リュナ。
第三の眼は小さく輝き、軽やかに客に語りかけていた。
「見てください! “花咲き鳥”です! 羽ばたくたびに花粉を撒き、家の中が花畑になります!」
鳥かごの中で、小さな鳥が羽を震わせ、鮮やかな花粉を舞わせる。
客たちは拍手を送り、笑顔で契約端末に指を走らせていた。
だがクオンの瞳には、その光景が歪んで映った。
命が“商品”として流通し、人々は疑問なく楽しんでいる。
それは国家が掲げる秩序よりも軽い、だが同じように残酷な現実だった。
リュナがクオンに気づき、首を傾げる。
「お兄さんもどう? きっと心が和むよ?」
クオンは灰色の瞳を彼女に向ける。
声は淡々としていた。
「和むために命を造り、売り物にする……それを正義と呼ぶのか?」
リュナの笑顔がわずかに揺らぐ。
だが周囲の市民はざわめき、クオンを冷ややかに見た。
「また異端者だ……」
「命のありがたみを分からないのか?」
喧騒の中、クオンはただ静かに立ち尽くしていた。
灰色の瞳の奥では、苛立ちと孤独が燃えていた。
「命は……飾りでも玩具でもない。」
彼の言葉は群衆には届かない。
しかし、確かにその信念は揺らぐことなく、孤独に光り続けていた。
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