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第8話:二つの正義
市民区の広場は、夕暮れの光に包まれていた。
ケージや水槽が並ぶ仮設の舞台の上に、ひとりのフォージャーが立っていた。
背の高い男──ダリオ。
長い黒髪を後ろに束ね、濃い紫の外套を纏い、鋭い赤茶の瞳を持つ。
額の第三の眼は強烈に光り、まるで「自分こそが創造主だ」と言わんばかりの威圧感を放っていた。
舞台上の水槽には、巨大な魚のような生き物が浮かんでいた。
尾は二つに分かれ、身体は緑と赤に光を放ちながら呼吸している。
市民たちは驚きと歓喜の声を上げた。
「これが……新しい命……!」
「フォージャーの力は未来を変える!」
ダリオは高らかに叫んだ。
「我らフォージャーは、人々の希望を造る者だ! 失われた命を惜しむ必要などない、新しい命を生み出せばいい!」
群衆が拍手し、子どもたちが舞台に近づこうとする。
そのとき、広場の端からクオンが姿を現した。
淡く光る灰色の瞳。
彼の額の第三の眼が静かに揺れ、夕陽を反射していた。
「……命は造るものじゃない。守るものだ。」
低く放たれた言葉に、群衆のざわめきが一瞬止まる。
ダリオの赤茶の瞳が鋭く光った。
「また異端者か。守る? 愚かだ。
消える命を惜しみ、過去に縋るお前らがいるから、社会は進まないんだ!」
「消えるはずの命を救うことに意味がある。」
クオンの灰色の瞳が強く光る。
「それが俺の正義だ。」
広場の空気が張り詰める。
市民たちは二人を囲み、耳を傾けた。
一方では「命を造る正義」、一方では「命を守る正義」。
社会はどちらが本当の未来を導くのか分からず、ただ傍観するしかなかった。
ダリオは腕を広げ、群衆に向かって叫んだ。
「見ろ! 新しい命は輝き、人を幸せにする! それが証明だ!」
クオンは一歩踏み出し、静かに言葉を返した。
「造られた光じゃ、人は救えない。」
灰色と赤茶の瞳が交錯する。
群衆の歓声とざわめきの中、二つの正義が真正面からぶつかり合った。