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(何やってるんだろう……)
また会えたって、そう心の底から喜んでくれている人が目の前にいて、私は、その人に抱きしめられていて。彼への感情は、恋愛でも、親愛でもなくて、もっと大きな言葉で表せないもの。私が抱きしめられたいのは、黄金の彼だけなのに、それでも、心地いいと感じてしまう。また、モアンさん達の家にいたときのような、このまま平穏な日々に甘えて、浸って、それでも良いかもしれないと思ってしまう。それだけはダメだと、身体が拒絶しているのに、アルベドは離してくれない。
「ちょっと、いつまで抱きしめてんのよ」
「生きてるんだなって思って」
「生きてるわよ。まあ、元のからだじゃないけれど」
「まあ、そこがおかしいんだよな。不思議だ」
「私も、アンタのことが不思議よ」
そう言って、アルベドは離れると、私を上から下へと見て、顎に手を当て頭を捻った。まあ、アルベドからしたら、死んだはずの私が、違う姿になってあらわれて、会話している、と不思議な状況なのだろう。私も、アルベドが何で覚えていて、私だって分かったのかよく分からない。まあ、アルベドと長いこと一緒にいたから、ステラの身体の中に居る私の存在に気づいたのかも知れないけれど。
「てか、ほんとよく私だって分かったわね」
「俺が、お前を間違えるとでも?」
「ま、まあ……そう、なの、かな?」
「まー何だ。お前みたいな奴そうそういねえだろうが。いきなり、貴族に舐めた口利いて、慌てて謝ったかと思えば、失礼なこと言う奴なんて、そうそういねえよ」
「えっ、ちょっと待って、今私のことディスった?」
アルベドは、何のことだか、と肩をすくめていたが、完全に私のことを悪く言ったというか、私の印象がそもそもよくないことを彼は暴露した。自分でも、その自覚はあるけれど、それを実際に口に出されると、くるものがある。辛い。
もし、アルベド以外にこんなこと言われたら怒っていただろうが、アルベドだから許す。私は、彼の足を踏んでにこりと笑った。
「ってえな、怒ってんだろ。お前」
「別に?というか、それだけでよく私だって……まあ、一緒にいたから、私だって感じたのかも知れないけど」
「まあ、そこは思いの問題だな。でも、姿がちげえから、お前じゃないかも知れねえって、すぐに声をかけることが出来なかった。お前も、すぐに、エトワールだって言わなかったからよ」
「私のせい!?」
アルベドを見れば、うんと、頷く。頭にきた。私だって、エトワールだって言いたかったけれど、アルベドが、私のことを覚えていてくれているかなんて分からなかったし、下手に行動が出来なかった。アルベドの方が、私に、エトワールか、と聞いてくれればよかったのに、私のせいにして。
一旦落ち着け、と自分に言い聞かせて、私は前を向く。こんなことを話すためにここに来たのではないだろう。
「それで、私だって分かってここに連れてきたんだろうけど。アンタは、何をしたいの?」
「何をしたいって、何だよ」
「私は、今、聖女という肩書きも、貴族という肩書きもないの。そんな私が、公爵邸に居座り続けたら、アンタの評判がおちるんじゃないの?」
「別に?俺は自分の評判なんて気にしねえし、お前がいたいだけ、いればいい」
「……」
「それとも、あの村に戻りてえか?」
と、アルベドは質問してきた。あの村にいたいか、といわれたら痛くないわけじゃ無い。でも、この世界に戻ってきた意味がない。貰った愛も、幸せもある。けれど、それを手放してでも、皆の記憶を取り戻したかった。アルベドはきっと、その手伝いをしてくれると、遠回しに言っているんだろう。
「私の、手伝いをしてくれるっていうこと?」
「まあ、お前が頼めば」
「何よそれ」
「いいんだよ、俺は。このままでも……皇太子殿下はお前の事忘れてるし、俺が、お前をここに監禁して、二人きりってのも出来る」
「冗談でも面白くない」
そう言うと、アルベドは、冗談じゃねえよ、とヘラリと笑った。満月の瞳に影が差して、少し怖い。監禁なんて、彼が言う台詞だろうか。いや、一度聞いたことがあった気がしたけれど、今のアルベドからは、そんな言葉が出てくるとは思っていなかった。だから、驚いてもいる。
(監禁って、何でよ……)
彼の顔が見えなくなって、視線を下に落とす。そう言えば、アルベドは、私のことが好きだと言ってくれた。でも、私は、リースが好きだと公言しているし、婚約者だった。それを、今更どうこう何て言わないだろうと、何処かで思っていた。
リースが私を覚えていない今、自分とくっついた方が幸せになれるってそう言いたいのだろうか。私は少し考えてから、もう一度彼の顔を見る。満月の瞳は、光を取り戻しており、外から差し込む光が、彼の紅蓮を引き立てる。
「ごめん。私は、皆の記憶と、あの世界を取り戻すために戻ってきたの。アンタと二人っていうのも楽しいかも知れない。でも、私が望んでいるのはそれじゃない。だから、アンタに監禁為れるわけにはいかないの」
「そうかよ」
「アンタだって分かってるでしょ」
「そーだな」
アルベドは、そう冷たく返してため息をついた。ダメだか、と小さな声で聞えた気がしたが、気のせいだろう。
「まあ、これは惚れた弱みだな。分かった、お前に協力してやるよ」
「ありがとう。アルベド、ごめん」
「だから、謝るなって。俺がやりたくてやってることだ。それに、お前ならそう言うと思って、覚悟はしてたんだよ。俺だって、あれだけ頑張ったもの全部なかったことにされたのは、腹が立ったしな」
「そっか……ラヴィ」
アルベドがそう口にしたことで思いだしたが、全てまき戻ったと言うことは、ラヴァインとの関係も、また一からやり直しになってしまったのだろう。ようやく、兄弟わかり合えたと思ったのに、それもリセットされてしまった。アルベドからしたらたまったものじゃないだろう。
ということは、ラヴァインはまたヘウンデウン教に……?
(めっっっちゃ面倒くさくない!?)
記憶が封印されているだけじゃなくて、そう言えば、世界丸ごとまき戻っているのだから、まあ、混沌とかもそうだし、これまで倒した魔物とか、そもそも、まだトワイライトも召喚されていないんじゃないかって。
「……あ、あ、めん、面倒くさい」
「おーい、大丈夫か。エトワール」
「大丈夫じゃないわよ。てか、アンタも大丈夫なの?ラヴィのこと、とか」
「まーどうにかなるだろう。彼奴が、思い出すかどうかは、俺よりお前の行動に掛かってるんじゃねえか?」
「人任せな……」
確かにそうかも知れないけれど、と心の何処かで同意して、私はソファに座り込む。
でも、ヘウンデウン教の活動が活発だった時期に戻ってしまったと考えると、辛いものがある。エトワール・ヴィアラッテアが、ヘウンデウン教と繋がっているかどうかも分からない状況だし。攻略キャラとの接触も……
ヘウンデウン教とはわかり合えないことが分かっているので、ラアインをこちら側に引き戻さなければならないのだけれども。
「色々あって疲れただろ。今日はゆっくり休めよ」
「ちょっと、まだ話は終わってないんだけど?」
そう言って、アルベドを見れば、彼は何やら扉の外にいる人間に合図を出したようで、トントンと次の瞬間には、ノックの音が響く。アルベドの入って良いぞ、の声で、その扉が開かれ、メイド服のワインレッドの髪を持った女性が現われる。
「少しの間、お前の世話をしてくれるメイドだ」
「す、少しの間って何で」
「そりゃあ、まあ……んなこたぁ、その内分かるから、気にすんな」
「なんで濁すのよ」
「今回は先を越されないように、周りを固めるんだよ。フィーバス卿の元にいくまでのつなぎだ」
と、アルベドは不敵に笑った。