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「….本当に、なぜ人間にそこまで懐いている?」
男は、不可解そうな顔で烏を見つめる。
〖……〗
烏は、ぴっとりと岩本の肩から離れずにいる。
「大烏は、主人以外の人間に手を貸さないと聞いていたのだけどね….」
男の言う通り、式神は主人以外の人間に懐くことはない。
ましてや、この烏はあの伝説の大烏だ。
なぜここまで他の人間に懐いているのか、男には不思議でしょうがないのだ。
「…..はぁ、味方につく人間を間違えているようだ。」
男は大きなため息をつく。
「….どういう意味?」
ラウールが警戒心を強めながら言う。
「そのままの意味さ。君たちの味方をするなんて、馬鹿馬鹿しい。」
男は8人を見下すように答える。
「私が1番、大烏の力を上手く使えるというのに….」
男は、烏に哀れみの視線を向ける。
「は?ふざけんなよ。誰もお前の味方になんかなりたくねぇよ。」
渡辺は、鋭い口調で男を睨みつける。
だが、男はそんな渡辺を無視して….そもそも視界に映してすらいないのだろう。
今男に見えているのは、大烏だけだ。
8人など、これから戦う相手とも見ていない。
本当に興味が無いのだ。
興味が無いものと話している時間は無意味だ。
だから、話さない。
〖カァ〗
烏は、深澤のうつろな瞳を見つめて小さく鳴く。
「……….?」
烏の鳴き声で、初めて深澤の瞳の焦点があった。
「….っ!ふっか…」
それに気づいた岩本も、深澤の名前を呼ぶ。
「…..?」
深澤は、烏から少し視線を上に向けて、岩本の瞳を見つめる。
(….届いてる…!!)
7人も、深澤が反応を示していることに気づく。
「…….」
その様子に、男も気づいた。
瞳を鋭くする。
そして、深澤の身体を強引に自分の元へ抱き寄せ、視線をズラさせる。
(クソ…..いや、届いてはいるんだ。まだ間に合う。)
岩本の声は確かに届いていた。
なら、まだ間に合う。
微かな希望を胸に、ついに男との戦いが始まる。
「….作戦通り、行くぞ!」
岩本の掛け声で、動き出す。
「はぁ….無駄なのに….哀れだなぁ….」
男は、攻撃を仕掛けようとする8人を見て、ため息をこぼす。
そして、右足で地面を踏む。
「….?」
8人はその行動に違和感を持つが、迷わずに攻撃をしようとする。
〖カァ!!〗
だが、烏は大声で鳴く。
「どうし….」
カッ!!!
どうしたの?と聞く前に、空間が白く染まる。
最後に8人が認識できたのは、とんでもない攻撃が発動した、ということだけだった。
そのまま視界が暗転し、意識を手放した。
…….
「….は….?」
最初に目を覚ましたのは、向井だった。
「….え…?何、なん…?今の……?」
何が起こったのか分からないまま。
向井は、周りを見渡してみる。
「…..ここ…どこや….?」
目に映る景色は、見たことの無い場所だった。
「……ぅ….」
「いってぇ…..」
「!みんな!」
周りに、向井と同じように倒れ込んでいたメンバーも目を覚まし始める。
「…..何が、起こったんだ….?」
「俺ら、さっき攻撃を受けて….?」
佐久間と宮舘が、困惑しながら自分たちの身体を眺める。
あんなに大きな攻撃を受けたのに、傷一つないのだ。
「それに、ここは…..?」
ラウールが不思議そうに周りを見渡す。
「昔の日本…?」
目黒が、明らかに現代の日本ではないことに反応する。
「….ここ、数百年前の東京だと思う。」
阿部が、周りを見渡しながら言う。
「建物の並びとか、教科書で見たよ。」
「なんでこんなとこに…..」
渡辺がもういい、と言った顔で呟く。
阿部の説明を聞いたが、そもそもなぜ自分たちは過去の東京にいるのか。
疑問が尽きない。
自分たちの置かれている状況が分からない。
『来たぞ!!!』
「……?」
遠くから、誰かの叫び声が聞こえる。
不思議に思っていると….
「…..え?」
周りに並んでいた建物に、一気に火がつく。
「….何、これ…!?」
次に、洪水のような波が街を飲み込む。
飲み込まれたと思ったら、次には石の雨が降り注ぐ。
街を守るように、なにか結界が張られたと思ったが、すぐに砕かれ雷が降り注ぐ。
『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!』
『やめろ…!!!!』
『殺せ!!!!どいつもこいつも….!!!!』
『街を守るのよ!!!』
『逃げてくれ!!!!』
『いや…死にたくない…..』
『早く….殺して、くれ….』
『消えろ!!!!』
「……これ….まさか…..」
どこを見ても、地獄のような景色。
耳を塞いでも聞こえてくる叫び声。
この光景は、きっと…..
「数百年前の….能力者と非能力者の戦い….?」
信じられない、信じたくない光景を前に気づく。
ああ、これが…..
今も能力者の間で語り継がれる戦争だ。
そして、自分たちは過去を見ているのだ。
攻撃は当たらない。波に飲も込まれても苦しくもないし、流されもしない。炎の熱さも感じない。
だが
「なんや、これ…?!」
「ひど、すぎる……」
視覚的に、聴覚的に、感覚がなくても不快感のみが8人を襲う。
「もう、嫌や….」
「キツすぎるだろ….」
「….見て、られない….」
ずっと続く、終わりの無い攻撃と叫び声に、ついに向井が限界を迎えてその場に座り込む。
それにつられて、渡辺、ラウールもその場に座り込む。
「こーじ….!」
目黒はすぐに向井を抱き寄せて、耳を塞ぐ。
「大丈夫か?無理すんな….」
「見なくて、聞かなくていいよ….」
岩本はラウールを、宮舘は渡辺を、優しく抱きしめる。
『お願い….あなただけは逃げて…..』
「!見ろ!」
次に、聞こえたのは悲鳴でも、なにかの攻撃の音でもなかった。
景色は、微かに月の光が当たる森の中だった。
「…..っ!あれって!!」
佐久間の指さした先にいたのは、
大烏と1人の女性だった。
『このままじゃ、私は奴らに封印されてしまう…..』
〖…….〗
『あなたも、きっと封印されてしまうわ….』
〖……我は、そなたも連れていく。〗
『駄目よ。私はすぐに見つかってしまう。あなただけならきっと逃げ切れる。』
〖…..守りきる….我はこの命かけてそなたを守る。〗
『ええ、もう十分よ….あなたは私の事を守ってくれた….十分なの….』
〖….まだ、まだ守れる….〗
『….これは、命令よ….ここから逃げなさい。』
〖…..!〗
『あなたに….全てを託します。非能力者も、能力者も共存できる世界…..“あの子”が願った世界を….』
〖あの、幼い少年の願いか…..〗
『….私があの子に協力をする上で決めたじゃない。私は、この命をかけて”能力者も非能力者も幸せに暮らせる世界”を創るって。』
〖….知っている….〗
『あなたが….あなたが後世に繋ぐのよ…』
〖どういう意味だ….?〗
『….ふふ….この戦いで、きっと式神使いは全員封印されてしまうわ。でも、あなたは生きていける。』
〖…..〗
『いつか….あなたのことが視える….新たな式神使いに….あなたを、託すわ….』
〖…..っ…!主…!〗
『…..だから、それまで….逃げ、て…..』
〖……っ〗
『….生き……のこ…..っ….、て……』
「…..今のは….ふっかの烏の過去…?」
阿部が、飛び去る烏を見つめて呟く。
「式神使いは、ここで封印されたんだもんね…」
目黒も烏を見つめる。
「新たな式神使い….それが、ふっかだったんだ…..」
岩本は、今の烏の姿を思い浮かべる。
なによりも、深澤を優先する姿。
(….お前も、失った側だったんだな…..)
だからこそ、深澤を守りたいんだろ?
今度こそ、主人を救いたいんだろ?
岩本は、8人は、ようやく烏が自分たちの味方をしてくれている理由に気づいたのだ。
「……っ!!!!」
次に目を覚ますと、そこは……
「…ここ!!」
佐久間が叫ぶ。
いつも見ている景色。
間違いない…..
「…..東京…..」
8人で、呆然と呟く。
今いる場所は、”現代の”東京だった。
〖カァ!〗
「….!大…烏…!?」
烏は、大烏の姿に変わって空を泳いでいた。
「….そうか!」
阿部は、そんな大烏の姿を見て気づく。
「大烏が、さっきの攻撃から助けてくれたんだ。だから、俺らは大烏の魂に触れることができた…!」
「…!」
阿部の考えは当たっていたのだろう。
大烏は、首を縦に振った。
ぱちぱちぱち….
「….っ!」
上空から拍手の音が聞こえてくる。
8人は、上空を睨みつける。
「さすが伝説の大烏だ!8人全員無傷の状態で守るとは!!」
男は、声高々に賞賛を送る。
「….!?ふっかは!?」
岩本が、真っ先に叫ぶ。
その声で7人も気づく。
男の近くに深澤がいない….
「あぁ、”あれ”のことか。あれはおねんね中だよ。これからいっぱい働いてもらうんだ。しっかり力を回復してもらわないとね。」
笑顔で、狂気じみたことを平然と言う。
「頭、おかしいだろ…..」
渡辺が、男を鋭く睨みつける。
「ふっかさんは、今、どこに….」
ドォォン!!!
向井が男に問いかける前に、何かが”崩れる”音がした。
「…….ぇ…?」
8人は、ただ呆然と見つめるしか出来なかった。
近くに建てられていた高層ビルが、破壊された。
「なぜ、この場所なのかわかるかい?」
呆然とする8人を気にせずに、男はたんたんと話を進める。
「あの時の戦争の続きさ。この、東京で。」
「……っ!?」
ここで、ようやく理解する。
なぜ、東京にいるのか。
「ここが、まさしくあの戦争の場所なんだよ!!さぁ!始めようじゃないかっ!!!」
男は両手を広げて、狂気じみた笑顔を浮かべる。
絶望と焦りを滲ませる8人とは、対照的に。
(どうする?どうする!?ここは現代の東京だ…!!!人が、一般の方が沢山いる!!ビルの崩壊は!人は!?避難を優先?それじゃ間に合わない!!!今は夜中だ!!一般の方を、巻き込む…!!!!)
阿部は、頭の中で何とか作戦を考えていた。
だが、焦りで意見がまとまらない。
阿部だけでない、7人もそうだ。
ここは東京だ。
人口が集中している。
ここで暴れられたら、とんでもないことになる。
それこそ、あの戦争と同じように…..
だが、違和感を持ったのは、男の方だった。
「おかしいな。人の気配がしない。」
「……え…?」
男の発言に困惑する8人。
〖カァァ!!〗
違和感を持つ空気の中、大烏だけは空を泳ぎ続ける。
「…..空間転移….俺たち以外の、全ての….?」
ラウールが、大烏を見つめてぼんやりと、信じられない、と呟く。
大烏は、肯定するように空を泳ぎ続ける。
「…はは….はははははは!!!!!」
男が、笑い出す。
「これが、これが伝説の大烏の力!!!ああ!この力さえ手に入れば!!!!」
興奮しながら大烏を見つめる。
この男は、本当に大烏だけを求めていたのだ。
伝説の大烏。
私の理想を叶える存在。
私は、ずっと探し続けていた。
私の能力は、洗脳だ。
能力者と非能力者の戦い。
能力者側の中心となっていた者と同じ能力。
それを知った時、私は初めて心ときめいた。
能力者側は、敗北した。
非能力者に、だ。
そんなのおかしい、有り得るわけがない。
その、おかしいを実現したのが式神使いと大烏だった。
“伝説の大烏”
能力者側の人間が、最後に何とかして封印した式神使いが逃がした式神。
大烏の活躍は凄まじいものだった。
降り注ぐ能力者の攻撃から、多くの非能力者を守ったのだ。
被害を最低限に抑え、最後まで主を守り抜いた…まさに伝説。
この力さえ手に入れば、”能力者側の世界”を構築できるのでは?
忌々しい、非能力者中心の世界など美しくない。
かつてのように、能力者が中心にいるのだ。
今の世界はなんだ?
非能力者が中心となっていた、のうのうと生きている。
能力者は、なぜ裏でコソコソ非能力者の生活を守るのだ?
おかしいだろう?
私は、この世界に不満を抱いていたのだ。
なぜ、私が裏社会の指示を送る側になったのか。
非能力者を守るなど、吐き気がする。
だが、裏社会の頂点になることは、私にとってメリットしかなかった。
そのおかげで、私は私の理想を叶えるための道具を見つけたのだから!!
「…式神使い…?」
裏社会を管理するものとして、日々増えていく”非能力者を守りたい”と願うものの資料を見る。
その中にいたのが、君だったのだよ。
「深澤辰哉….」
最初は興味などなかったさ。
たしかに、封印された式神使いの能力を継ぐものだとしても、私が欲しいのは大烏だ。
伝説の大烏となれば、そう簡単に人間の味方につくものではない。
そもそも、数百年、誰も見つけられなかったのだ。
大烏がいるはずない….
そう思っていた。
〖カァァ!!!!〗
「大烏!お願い!!」
「….っ!」
少しの興味本位で、彼の任務の様子を見ていたのだ。
そしたら、現れたんだ。
私の理想が….!!
そこから、深澤辰哉を私の元へ呼び出したのだ。
「….失礼、します….」
少し不安そうに入ってきた。
それに、1人か…
私は大烏の姿を見たかったのだが…
まあ、いい。
まずはこれを手に入れればいい。
「君、素晴らしい能力を持っているようだね。」
できる限りの完璧な笑顔で、彼を見つめる。
「…そんな、素晴らしい、なんて….」
「こんな能力….全然….」
「なんで、俺みたいなのを呼び出して….?」
次々と口から出るのは、全て自分への否定に等しいもの。
そこで、私は気づいたのさ。
“利用しやすい”ことに。
彼は、自分に対する自己嫌悪や否定が大きい。
なら、私がその全てを肯定してあげよう。
彼の否定を、全て甘い言葉で肯定してあげるんだ。
いらない存在?
それはそうだ。私が求めているのは君じゃない。
でも、
「そんなことないよ。ふっかは頑張ってきたんだろう?私はふっかが必要なんだ。」
誰の役にも立たない?
当たり前さ。実際役に立つ人間の方が少数さ。君はもちろん選ばれていない側の人間。
でも、
「そんな事言わないで。ふっかは、私の役に立っているよ。」
消えたい?自分が嫌だ?目立ちたくない?
それがなんだ。興味もない。自分の好きなようにすればいいさ。
「大丈夫。私は全て受け入れるよ。安心していいんだよ。ふっか。」
「誰でも、いいから….俺の事、見て…..」
泣きながら、目の前でこぼした言葉。
心底どうでもいい。
それが、私の感想だ。
だが、これも伝説の大烏….私の理想の世界のため。
「私だけは、ふっかのことを見ているよ。」
この言葉が、欲しいんだろう?
そこからは簡単さ。
甘い言葉をかけ続けたら、自然とふっかの中は私だけになったんだから。
あとは、タイミングを図るだけ。
それだけだったが……
大烏だけは、私の前に現れなかった。
9人に手紙を送ったのも私だ。
ふっかにだけは、これからチームとしてやっていくことを伝えていたよ。
そのおかげで上手く他の8人が馴染めるように動いてくれたよ。
それに、最初に与えた任務。
あれは、ただの無茶ぶりだ。
会ったばかりの相手とチームを組んで戦え?
普通は無理だろう。
それに、あえて相手もかなりの強さを持つものにした。
なぜか?
簡単だよ。
大烏を呼び出すためさ。
『……え』
『なんか……寒くない?』
『——来い』
——バサッ
『……は?』
夜空を覆う、黒い影。
それは——
大烏
圧倒的な存在感。
『なんやこれ……』
『式神……!?』
——ドンッ!!
大烏が、地面ごと叩き潰す。
『……え』
視界が揺れる。
音が遅れて届く。
『……終わり?』
静寂。
さっきまで暴れていた敵は——
動かない。
最初の戦いも、もちろん見ていたさ。
予想通り、大烏は出てきた。
私の予想通りだ。
初対面の相手とチームを組むことで、大烏はたくさん呼び出される。
私は、何度も大烏の姿を見れる….!
ただ、想定外だったのは、私の想像以上に連携を取れたことだったな。
そして、成長速度も早かった。
そのせいで、大烏を目にする機会も少なくなっていた。
だが、それでいい。
そのおかげで、ふっかは壊れ始めたのだから。
自分の活躍する舞台が最初は多かった。
だが、どんどん成長する仲間たち。
自分の活躍する機会が無くなっていく。
私に、縋るしかないだろう?
おかげで、今の状況だ。
“これ”は完全に私の手の中。
….“君たち”がこれを壊したんだよ?
「あれを壊したのは私ではない。他でもない君たちだろう?」
男は、8人に平然と言う。
「…..違う….」
岩本は、視線を男の方へ向ける。
「たしかに、俺らが強くなることで、ふっかが前に出ることは少なくなった。」
「そうだ。だから君たちが…」
「でも!!ふっかは、言ってたんだよ….」
岩本は、少し前に深澤との会話を思い出していた。
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