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幼い頃から綺麗なものが好きだった。
世の中にある最も綺麗なものはと聞かれたら他の人は何と答えるのだろう。
この世にある全ての物から何を一番とするのだろう。
輝く宝石?誰かが送る愛情?どこかの景色?
僕は文が一番綺麗だと思う。
どれだけ歪でおかしくても文は美しい。
それはどんなに苦手な人間が書いたものだとしても。
だから、僕にとって水野 瑠那は女神のようなものだった。
僕もある程度好きだから文章を練習したりする。
僕が美しいと思うものを書くのが好きだから。
高校に入って数ヶ月経った頃。
弁論大会があった。
水野 瑠那は僕の席の斜め前。
よく窓の外を見ていた。
誰を、何を見ているのかは知らないがとても透き通った眼をしていた。
その日も窓の外を見て、順番になった時彼女は弁論文を読み始めた。
題名は「校庭の木」
「私にとって校庭の木は授業中の暇を潰すためのものです。先生の長い話、黒板とチョークのぶつかる音、これらをBGMとし私は校庭の木に物語を吹き込みます。」
「バトルもの、恋愛もの、友情ものなんだってあの木に詰まっています。校庭の木とこの校舎の間にはきっと大きな鏡があるのでしょう。校庭の木はまるで私たちの生活そのものを表しています。私たちの物語が校庭の木に映し出されるのです。 」
「バトルものでは先生に反抗してそれは辻褄が合っていないと怒られ、友情ものでは友人と喧嘩しその考え方が苦手だと言われ、恋愛ものでは帰り道に君の特別になりたいと告白される。校庭の木は人生そのものです。この高校を卒業した後、私たちの人生を映し出してくれるものは何なのでしょうか。 」
拍手が教室中を包み込む。
そんな中、僕は拍手が出来なかった。
何よりも彼女の文章にいや、彼女に惚れ込んでしまった。
誰よりも透き通ったその瞳は僕たちの人生を写していたんだと妙に納得してしまう。
端正な顔立ちをしている彼女に似合うような美しい文章だと本当に思う。
その日から僕は彼女から目が離せなくなった。
「水野さん、今日一緒に帰りたい」
昼休み、私と凛華の元へ来て古川くんがそう言った。
「え?いいけど、、。」
「終礼後ここ来るね」
「ありがとう」
唐突で驚きと疑問が頭の中を駆け巡る。
凛華はびっくりしすぎて口が空きっぱなし。
「ねぇ!瑠那、これ告白確定でしょ」
「どうしよう。付き合うとかまだ想像できないよ。」
まだ、酒井のことを諦めきれない。
きっとこんな半端な気持ちで付き合っても古川くんに迷惑をかけるだけ。
断る?でも彼は私をとても大切に扱ってくれる。どうすればいいの。
「瑠那、落ち着いて。古川くんのこと好き?」
「好き。でもそれは恋愛感情じゃない。」
「うん、そうだよね。知ってたよ。」
2度目の驚きでもう何も考えられなくなった。
凛華にはバレていた。
「瑠那は別の人が好き。でもその人を諦めなければいけない理由があった。そうでしょ?」
その理由があなただなんて言えないけれど、何故か前にいる親友が憎らしく思えてきた。
「うん。そうだね。」
いくら酒井が凛華にしか目が無くてもそれでも凛華を嫌いになることは無かった。
でも、凛華が本当の私の好きな人を今分かっているのなら私は傷つけることしか言えない。
この場から離れないといけないのに。
何も言えない。何も出来ない。
「だったら瑠那は、」
「水野!ちょっと俺パン買いたいから着いてきて」
そう言って私の手を引いてくれたのは酒井だった。
「酒井、どうして」
「なんでか知らないけどあの時と同じ顔してた。この世の終わりみたいな。」
フラッシュバックするあの時の記憶。
ヒーローのように見えた酒井。
やっぱり後ろ姿は私の知ってるヒーローのままだった。
「で、何があったの?」
俯いていた私の顔を彼の方へと向ける。
「私酒井のことがまだ好き」
「え、いや、それは嬉しいけど。そんな唐突に、、。 」
「半端な気持ちで古川くんを振り回してる。」
古川くんの顔を思い浮かべた。
私を見るあの優しい眼差し。優しい行動。
私はあの人から”大切にされる”という嬉しさを教えて貰った。
水野が別の男を想って悩んでいるというのが俺には癪に障った。
これは水野が俺以外の奴を好きになることに対して嫉妬しているのかもしれない。
俺はただ好かれたいだけなのか。
それとも水野が好きなのだろうか。
そんな訳ないと思っていても心の奥底では好きだという感情が芽生え始めてしまう。
「古川にもし告白されたら?どうすんの」
長い沈黙の後彼女は言葉を発した。
「んー、酒井のことを好きだからこそ古川くんと付き合うべきかなって。」
やはり胸の奥が掴まれたように痛く感じる。
「私、はやく酒井を忘れたい」
無意識だった。
彼女の腕を掴み彼女と唇を重ねていた。
「え、なんで」
「ごめん、でも水野が誰かのことを想うのは嫌だ。水野が好き。」
「違うでしょ!私が好きなんじゃなくて、堺のことを好きな私が好きなんでしょ!」
「酒井は、凛華と瑞稀が付き合ったらどう思うの?」
何度も考えたことのあることだった。
彼らが付き合ったら俺はきっと、
「嫉妬する」
「そうでしょ?私じゃないよ。私が古川くんのことで悩んでるのが気に食わないだけ。 」
彼女の瞳からは大粒の涙が溢れていた。
俺が今、どれだけ最低なことをしたのか実感する。
「ごめん。俺まじで最低だわ。」
ただ泣く君の横で俺は黙っているしかなかった。