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土曜日の午後七時。
私は麗香に言われるまま、市内のとある高級ホテルのロビーにいた。
『パーティーに出席するから正装して来てね。あと、荷物はフロントに全部預けるから、会場用の小さなバッグも持ってきて。正装はなるべくセクシーなやつを選ぶように!』
それが麗香からの指示だった。
どんな目的のパーティーなのかも、誰が集まるのかも知らされていない。
麗香、遅いなぁ。
一人でこんな場所に立っているの、結構勇気いるんですけど……。
ロビーの大きな円柱を背に、そっと周囲を見回した。
このホテルは正装が基本らしい。
その辺のホテルとは、客の装いも、調度品の質もまるで違う。
噂には聞いていたけど……凄いな、このホテル。
高い天井からは、まるでベルサイユ宮殿にでもありそうな巨大なシャンデリアが吊り下げられている。
思わず見入っていると――
「ちょっと。そんな綺麗な格好して間抜け面してないでよ」
「えっ!?」
慌てて視線を戻す。目の前には、黒のワンピースをまとった麗香が立っていた。
「麗香! もう、遅いよ」
「ごめんごめん。先に来るつもりだったんだけど、遅くなっちゃった」
麗香は両手を合わせ、「ゴメン!」とおどけてみせる。
「まあ、いいけど。麗香……その服、もの凄くいやらしいんだけど」
胸元のチュールレースに、スパンコールとビーズの刺繍を施した黒のノースリーブワンピース。
谷間がうっすら透けて見え、そのデザインが彼女の色気を際立たせていた。
「そう? なかなか良い感じでしょ?」
麗香はくるりと一回転し、大きく開いた背中をわざと見せる。
「うわっ! 麗香って肩甲骨まで綺麗だね」
「当然! 鎖骨と肩甲骨には自信があるから」
麗香はふっと妖しく微笑んだ。
「亜紀もその服、とっても似合ってる。まあ、セクシーさにはちょっと欠けるけどね」
麗香は私を見つめ、にっこりと笑った。
本日の私の装い。
首の後ろでリボンを結ぶ真っ白なノースリーブのトップス。
膝丈の純白のスカートには、太ももの半ばまで正面にスリットが入っている。
肩まで伸びた毛先に緩くパーマをかけた髪はアップにし、毛先だけをふわりと遊ばせた。
これでも、私なりのセクシーな正装なんですけどね……。
フロントへ向かう麗香の後を追いながら、思わず苦笑する。
「亜紀、バッグ二つあるよね。その大きい方に貴重品と身分証になるものを全部入れて。住所や名前が分かるものも全部」
フロントの前に立つなり、麗香は次の指示を出した。
「え? 名前が分かるものって……免許証とかも?」
「当然。小さいバッグには化粧品とハンカチくらいにして。お金もいらないから。あ、それと結婚指輪も外してね」
「どうして結婚指輪まで!?」
淡々と話す麗香を見つめ、思わず目を見開く。
「既婚者だってことも隠すため。自分の身を守るためには、身元が分かる物は持ち込まない方がいいの」
麗香は私の耳元で声を潜めた。
「身を守るためって……今から何をするの?」
尋常ではない言葉に、思わず身体が強張る。
「そんなに警戒しなくていいわよ。簡単なこと。自分の身元の話をしなければいいだけだから。集まってる人たちは身元を隠しているけど、その隠された身元は全員保証付き。そういう方々だから」
引きつる私の表情を見て、麗香は柔らかく言葉を続けた。
「……意味が分かんないんだけど」
眉間のしわがますます深くなる。
「行けば嫌でも分かるわよ。ほら、早く荷物を預けて。パーティーはたぶん……そろそろ盛り上がる頃だと思うわ」
麗香は妖艶な笑みを浮かべた。
私は急かされるまま指輪を外し、フロントに預けるバッグの中へ入れる。
「亜紀、これ胸元に付けて」
エレベーターの前で麗香が私の手を取り、その手のひらに小さな物を乗せた。
コメント
1件
おお、第8話読んだわ!なんかもう一気に雰囲気変わったな……高級ホテルで麗香の指示がどんどん秘密めいてきて、身分隠しとか指輪外すとか、胸に付けるもんとか、めっちゃ不穏でワクワクする!亜紀の「意味分かんない」って気持ち、めちゃ分かるわ。続き気になる〜🔥