コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
巨大なタコであるクラーケンを沈めた後、一行はようやく王国に入港する。
「ウニャ~……やっと地面を歩けるのだ」
「イスティさまも小娘も一体どこに行っているのなの~!」
「シーニャ、探しに行くのだ! 王国に行くよりもアックを探すのだ」
シーニャとフィーサの二人は、元々アックに従ってついて来た。それだけにアックのいない王国に進むなど、考えてもいなかったようだ。
そんな二人の前に、
「お、お待ちください! 今アックさんを探しに行かれるのはとても危険です! 周辺の魔物はとてもレベルが高く――」
焦りを見せるリエンスに対し、シーニャが声を荒らげる。
「強い魔物がどうだというのだ? シーニャ、魔物怖くない。怖いのは人間なのだ」
「それは……し、しかしまずは国内に――」
「うるさい、うるさいのだ! アックがいない所に行っても意味なんてないのだ!!」
見習い騎士リエンスを押しのけるシーニャの前に、
「あらあら、仕方のない虎娘ですのね。あの方がどこにいるかも分からないのにやみくもに探すなんて、出来るとでもお思いかしらね?」
王女となった彼女が現れた。
「ウゥゥ! 何なのだお前!!」
「口の利き方にお気を付けなさい。どうしても行きたければ、冒険者パーティーに入れてもらう……という手段があるのではなくて?」
「ウニャッ?」
「わ、わらわもそう思うなの!」
元スキュラでもある王女シーフェルは、船上で協力した冒険者に視線を傾け微笑んでいる。アック以外の人間と初めて共闘したシーニャには、その可能性があると伝えたかったようだ。
「アックに少し似た人間。でも弱い。でも、それでもいい! ウニャ」
「それならお早く声をかけてこないと行ってしまうわよ?」
「ウニャニャ!? フィーサ、急ぐのだ!!」
船を降りて行く冒険者に向かって、シーニャが慌てて駆けて行く。一方で、フィーサは目の前の彼女を呼び止める。
「ま、待ってなの!」
「まだ何かあるかしら?」
「イ、イスティさまに伝え――」
「……どのみちあの方も王国へ来るはずですわ。その時にでもわたくしが伝えますわ」
王女の言葉を聞き、フィーサは急いでシーニャの後を追った。
「さて、騎士リエンス。王国へ参りますわよ?」
「そうしたい所なのですが、まずは近くの村に……」
「――ここまで来てどうして素直に入ることが出来ないのかしら?」
「それは……」
シーニャとフィーサを見送る王女とは別に、リエンスの表情は一層重苦しい。そんな騎士の様子に、王女は腕組みをしながら不機嫌さを露わにする。
「港だというのに迎えも無く、それでいて緊張が走っている。そんな所かしら?」
「そ、その、王国内の問題もさることながら、共和国がちょっかいを――」
「……構わないわ。早々に村へ案内して頂くとするわ」
「も、申し訳ございません!」
何かを隠しているリエンスと共に王女は近くの村へと向かうことにした。
港を出たデミリスたちは周りを特に警戒もせず、王国へ行く前に雑談をしていた。
「デミリスが行きたいところって故郷だっけか?」
「……行きたいわけじゃないけど、帰る場所はあそこしかないから。それに、兄貴にもずっと会っていないんだ。だから……」
「なるほどね。そういうことなら行って来いよ! ラクルでパーティーを組んだし、船でも助けてもらったし文句は言わねえよ! まぁ、ザーム共和国を通り過ぎても戻って来れるだろうしな」
「すまないな、ラリー」
「その前に王国に入って少し休みを取――」
そうして移動しようとする彼らの前に、シーニャとフィーサが慌てて駆け寄って来る。
「ウニャ~!! 待つのだ~!」
「ま、待つなの!」
突然のことに驚くデミリスたちだったが、彼女たちのことをすぐに思い出し、話を聞くことに。
「君たちは船上での! 俺たちに何か用かな?」
「ウニャ! シーニャとフィーサ、冒険者パーティーに入れて欲しいのだ!」
「わらわからもお願いしたいなの!!」
「しかし俺らが行くのは結構危ない場所なんだよ? それに見ての通り、魔法を使う彼らを休ませないと……」
魔法を使うのはラリーを含めた三人の冒険者。そんな彼らの護衛として、剣士デミリスが同行するようだ。
「いつ行くのだ? 早く行きたいのだ」
「う~ん、魔力が回復しないことには……」
「船上での魔法を見ていたなの。どうして炎属性以外は使っていなかったなの?」
「使っていないというよりラリーたちは炎属性に特化してるから……」
「それなら仕方がないなの。王国に入って、さっさと休んで欲しいなの」
突然のことで戸惑うデミリスだったが放っておくわけには行かないと思ったのか、二人を誘うことにした。
「君たちも一緒に来るかい?」
「そうするしかないなの」
「ウニャ」
声をかけてもらったシーニャとフィーサは彼らの後をついて行く。しかし、王国の門前まで進む彼らの前に王国兵が制止を求めた。
「な、何事です? 俺たちは冒険者パーティーの――」
「ふん、冒険者ならば黙って共和国に行け! 我が王国には立ち入らないことだ」
「な!? どういう――」
「早く去れ! そうでなければ賊と同じように牢獄行きだ」
「……わ、分かりました」
緊迫した王国兵に引き下がるしか無かったデミリスたち。王国と共和国に何が起きているのか、シーニャとフィーサには理解することが出来なかった。