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「最近さ、柊木ひよりって……ちょっと前と雰囲気違くない?」
そう呟いたのは、隣のクラスの女子だった。
廊下をすれ違いざま、耳に入ったその言葉に、私は立ち止まりかけた。
「なんかこう……“本物”っぽくないっていうか」
「中身がないよね。あの子、いつも笑ってるけど、
あれ全部“作られてる感”すごいって思わない?」
私のことを“私じゃない”と思ってる。
でも私は、ここにいる。
ちゃんと歩いて、学校に通って、呼吸してるのに。
教室に戻ると、クラスメイトが私の話をしていた。
「昨日の投稿の声、また違ったね」
「喋り方もなんか、どんどん“仕上がって”るよね」
仕上がってる? 誰が? 私が?
「なあ、ひより」
一人の男子が近づいてくる。
「ぶっちゃけ、お前さ──最近、自分で投稿してないでしょ?」
息が止まった。
「前のほうが好きだったのにな。
今のひより、なんかAI感っていうか……“魂ない”よな」
私は笑ってみせた。
けれど、笑顔をつくる筋肉が少しだけ痛かった。
放課後。鏡の前で、自分の顔を確認する。
メイクは完璧。肌もきれい。
加工アプリなんていらないくらい整っているのに。
でも、どこか“画面越しの私”のほうが、もっと整ってる。
スマホを開くと、新しいコメントが流れてきた。
《最近のひより、AIにしか見えん笑》
《そろそろ“中の人”変わった?》
《声も喋りも、なんか違うんだよね。悪い意味でリアルすぎる》
(私、変わった?)
違う。
変わったんじゃない。
**“すり替えられた”**んだ。
その夜、母がポツリと呟いた。
「ひより、今より前のほうが……なんか、優しかったよね」
私は声も出せなかった。
(前の私って、いつ? どの私?
今、目の前にいる私は……誰なの?)
──この世界の中で、
私だけが、“私という実感”を持っていない。
でも、誰もそれを不思議だと思わない。
みんな、“画面の中の私”を信じてる。
リアルの私は、**もう“二番目の存在”**だった。