海岸で波と戯れる彼女の様子を、豪は眩しそうに見ていた。
波が引いた所で、歩いて海へ向かい、寄せてくると小さな歩幅で走り、砂浜へ逃げる。
ちょこちょこと動く彼女が、可愛くて目が離せない。
彼は、デニムのポケットからスマホを取り出し、景色を撮る振りをして、奈美の写真を数枚撮った。
海の景色と奈美を切り取った全体写真や、上半身アップの彼女の写真、波打ち際へ駆け寄る後ろ姿の写真など、お気に入り保存しておく。
(俺の癒しが加わったな……)
スマホの画面に映し出された彼女の画像に、思わずニヤけてしまった。
彼女の写真を隠れて撮っていた事に、本人には気付かれていない事を願う。
数分ほど、波打ち際で遊んでいただろうか。
奈美がこちらに戻ってきた。
心から楽しんだようで、アーモンドアイは目尻を下げ、笑顔の花が咲いている。
弾けるような笑みに、豪は彼女をフォーカスして、シャッターを切った。
(これから先も、こういう自然体の奈美の表情を、見続けていきたいな……)
飾り気のない笑顔が、純真無垢で美しく、神々しい。
後ろめたさのせいか、豪は気まずさを感じつつ、何事もなかったように、スマホをデニムのポケットに捩じ込んだ。
「戻りました」
「お帰り」
彼は彼女の小さな手を取り、再び歩き出そうとした。
***
奈美が足元を取られたのか体勢を崩し、転びそうになった。
「きゃっ……!!」
「おっと」
豪は彼女の身体を受け止める。
突然の事に恥ずかしくなったのか、奈美の頬に赤みが差し始め、どことなくソワソワして落ち着かない様子。
「大丈夫か?」
サングラス越しに奈美を見つめると、困ったような表情を豪に向けている。
「だ……大丈夫です。すみません」
「気にしなくていいよ」
照れ隠しをしているのか、彼女が豪の腕から逃れようとしたが、彼は奈美の括れた腰を抱き寄せた。
濃茶の艶髪を撫でながら、豪は胸元に彼女の頭を包み込む。
サラサラの髪から漂う、フローラル系の甘い香りは、バラの香りだろうか。
美しい花に引き寄せられるように、彼は彼女の髪に唇を落とす。
互いに無言のまま、豪は奈美を抱きしめながら、海を眺め続けた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!