花影の戦士、その中でも特に強いという上級戦士達の紹介と挨拶が終わってすぐ、4人は応接間に戻っていた。しかし、サザンカは少し用事が出来たと言って一時的に席を外した。 ……そう、つまり、今この部屋に居るのは3人だけだ。庭園の者は誰1人として居ない。庭園について思ったことなどを共有するのには丁度良いタイミングだった。早速、ヴィアが庭園についての話題を出す。
「庭園やあの方……サザンカさんについて、お2人はどう思われます?」
ヴィアの質問に、最初に答えたのはアスターだった。
「見たところ悪人のようには見えないね。……ただ、本当に信じていいのかは分からないが」
「僕も同じ意見だよ。それに、掴みどころが無いと言うかなんと言うか、とにかくちょっと苦手な人だなぁ……」
アスターの後にサウカが答える。アスターの言葉にはどこか含みがあるようにも聞こえ、謎めいた響きを帯びていた。
そして、やはりサウカも少し警戒しているようだった。自分達を助けてくれたとはいえ、サザンカは突然現れるなり害虫に向けて発砲したのだ。警戒されても仕方のないことだろう。2人も似たようなことを考えていたのだなと思い、ヴィアは静かに息をついた。
そしてしばらく、応接間には少しばかり気まずい沈黙が流れる。似たような境遇にあった者達でも、出会ってまだ少ししか経っていないせいか、やはりどのような会話をするべきなのかというのは悩ましいものだった。
その沈黙を破ったのは、そっと応接間の扉を開く音だった。用事を済ませたサザンカが戻ってきたのだ。三人は一斉に視線をサザンカへと向ける。
「ただいま戻りました。突然ですが、皆様にお伝えしたいことがあります」
後ろ手で扉を閉めると、サザンカは無駄のない完璧な動作で静かにソファへと腰かけた。そして、話を切り出す。それはとある提案だった。
「皆様は外からいらした〝客人〟なのですよね? でしたら、この庭園にある資料室に立ち寄ってみるのはいかがでしょうか? あそこには、わたし達の住む世界──ソロネについての記録が沢山あります。もしかすると、何かの手がかりになるかもしれません」
どうでしょうか? とサザンカが首を傾げる。この世界についての情報を欲している3人にとっては耳寄りな情報だったが、先程の話を挟んだ後ではそれすらも怪しく聞こえてしまう。もしかすると、嘘の情報を流そうとしているのではないか。情報を見せる代わりに、何かを対価に求めてくるのではないか。ヴィアはそう考えたが、その疑問を口にすることはなかった。彼女の純真な瞳を見ていると、悪意など全く無いのではと思えてきたのだ。
ヴィアが静かに頷くと、サザンカは笑みをより一層深めた。サウカとアスターも同じように同意し、3人は資料室で情報収集をすることになった。
◇ ◇ ◇
資料室は応接間のすぐ近くにあり、とある部屋を挟んだ向かい側にあった。3人はサザンカを先頭に、彼女の案内を受けながら資料室へと向かう。その最中、サザンカは彼らの思考を盗み見していたかのように、ぽつりと呟いた。
「──わたし達のことが信用なりませんか?」
そう言うサザンカの表情は、悲しそうでもなければ怒っている様子もない。ただ、「それも仕方がない」とでも言うかのような笑みで3人を見つめるだけだった。そして、「そのような状況なのですから無理もありません」と続ける。サザンカは、自分自身が疑われることを変に思っていなかった。
そして、とある部屋の前に辿り着く。扉には『資料室』というプレートが貼り付けられていた。サザンカはポケットから鍵を取り出すと、それを扉の鍵穴に差し込んで回した。サザンカの手元でカチャリという音が聞こえ、開錠されたということがすぐに分かる。サザンカはドアノブを回し、扉を開いて資料室の中へと立ち入る。それに続くようにして3人も部屋の中へと入っていった。
壁に沿って、天井にまで届くほどの高さの本棚が置かれ、その中には本が所狭しと並んでいる。並んでいる本の背表紙には題名と思われる、全く見たことのない文字が刻まれており、ここが異世界であると再認識させるには充分だった。
部屋の中は薄暗く、綺麗な状態ではあるものの、普段使いを想定されている応接間や客室と比べると少し散らかっていた。サザンカは電気を点けると、3人の方を振り返った。
「わたしはまた席を外しますね。わたしが居ると話しにくいこともあるでしょうし」
それではまた、と言うとサザンカは部屋の真ん中にあるテーブルに鍵を置くと、その場を去って行った。資料室を出る時は鍵を閉めて、そしてその鍵を返してくれという意味だった。
サザンカが扉の向こうに消えていくのを見届けると、ヴィアはぐるりと部屋の中を見渡した。部屋の奥、本棚と壁の隙間には、布を被せられた様々な資材などが積まれているのが見えた。
「あはは、僕達が疑っているの、バレてたみたいだね……」
サウカは少しばかりバツが悪そうに言う。彼女が「当然だ」と言っていたとはいえ、気付かれていたとなると少し申し訳なくなってしまうのも仕方のないことだろう。サウカはそんなに分かりやすかったかな、と呟きながら首を傾げた。
そんなこんなで、3人は資料室にて情報収集を始めた。目的はただひとつ。この世界──ソロネについての情報を得て、元の世界に戻るための手段を探すためだった。そのためにも、ひとまずはソロネについて記載されている本を探すことにした。
本の背表紙に刻まれている文字は見たことのないものだが、その意味はなんとなく理解できた。不思議なものだ。それに、資料室に来るまで3人は忘れていたが、ここは異世界だ。それなのに、普通の言葉で意思疎通できていることが不思議だった。
「……おや、これは?」
その時、ヴィアはとあるタイトルの年季の入った本を見つける。ヴィアの声を聞き、サウカとアスターも彼が手に持つ本を見た。『ソロネ創世記』──それがその本の名前だった。創世記、と言うのだからソロネの天地創造について書かれているのだろう。もしかすると、何か良い情報が得られるかもしれない。そう思いながら、ヴィアは本を開いた。ペラペラ、というページをめくる乾いた音が静かな資料室に響く。
その本の内容はこうだった。
──その昔、ソロネには5柱の神が君臨していた。『創造』の神・ウラノス、『時』の神・アイオーン、『災厄』の神・アレス、『生命』の神・モイラ、『理知』の神・ソフィア。ウラノスがソロネを作り、モイラが全ての生物を創った。ソフィアが生まれた生物達に知恵を与えた。アイオーンがソロネの時間を管理し、アレスが罪を犯した人々に罰を与えた。そうして世界は回っていたが、ある時、人々は大罪を犯してしまう。それこそが『神殺し』であった。人々を愛した生命の神、モイラがその瞳を永遠に閉じてしまった。その事実に怒り、人々に失望したウラノスは、アレスに協力を仰いで人々の敵を創り出す。それこそが害虫である。
2柱の神は大罪を犯した人々への罰として、害虫を創ると共にもうひとつのことをした。それは……■■
そこで不自然に文章が途切れていた。そこから先の数ページは空白で、空白のページをめくるとまた別の話が語られていた。そんな本の不自然さを気にしつつも、ヴィアは本を閉じた。2人がじっと見つめてきていることに気付くと、ヴィアは本の内容を2人にも伝えた。
「なるほど……。つまりあの害虫は、かつて人々が神殺しの大罪を犯した時に、神々が下した罰のようなものなのか」
「らしいね。内容が不自然に途切れているのも気になるな。もうひとつの人々への罰、っていうのは何なんだろう? 他の本に書いてあったりしないかな?」
「えぇ、探してみる価値はありそうですね」
サウカの言葉にヴィアは頷くと、再び本棚へと視線を向ける。ウラノスとアレスが人々に下したもうひとつの罰について、何か記されている本はないかと探し始めた。
それからしばらく経った。3人で手分けして探したが、どこを確認しても神殺しの罰について書かれている本はなかった。そう上手くも行かないかと考えていた時、突然資料室の扉が開く。扉の前に立っていたのはレインだった。
「あ、居た。そろそろ晩ご飯になるから食堂に集まってくれ、だってさ」
レインの口から「晩ご飯」という言葉を聞き、ヴィアは資料室内の時計を見る。確かに、いつの間にか夕食時になっていた。シチューのような何かの香りがふわりと漂う。そこで3人は資料探しを切り上げ、言われた通りに食堂へと集まることにした。







