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「お姉様、お帰りなさい……ってお姉様ああ!?」
断末魔。
この世の終わりみたいに、叫んだ私の妹、廻でありトワイライトであり、一応今はトワイライトとして姉妹仲良くやっている彼女は、私が連れてきた男を見て、悲鳴を上げた。それはもう、テンプレートな、甲高い叫び声。何処から出しているんだろうと、気になってしまうぐらいのその声に、私は、あはは……と愛想笑いすることしか出来なかった。
「どどど、どういうことですか、お姉様。ええと、ええっと、ラヴァ、ラヴァ……」
「――――っと、ストップ、トワイライト」
と、私はラヴァインの本名を言いかけた、トワイライトの口を塞いだ。
もごもごと、トワイライトは私の手のひらの下で口を動かしている。私は、こそこそ話をするように、トワイライトに言う。
「えっとね、今、ラヴァインは記憶喪失なの。まあ、色々省くと、海を見に行って、そこで打ち上げられてたから拾って、そしたら記憶喪失だって」
「私も、お姉様と一緒に海に行きたかったです」
そこじゃない、とツッコミを入れたくなったが、言葉を飲み込んで、まあ、そういうことだと私は頷いた。
「で、記憶が戻るまで、ここに置くことになったんだけど、今彼は、ラヴァインであったころの自分を忘れているから、ヴィ……って呼ばせてるの。だから、彼奴のこと呼ぶときは、ヴィって呼んで」
「分かりました。今後一切、あの方に喋りかけにいくことはないので大丈夫です」
「ううううん、分かった」
そんなに言わなくても……と思ったが、この子は悪意無し、純度100%で言っているんだから仕方ないと、私は流すことにした。私の大切な妹が、こんな奴に汚されたらたまったもんじゃないし。
「それで、お話終わった?」
「アンタ、待ても出来ないのね」
「犬じゃないからね」
「犬が出来て、アンタが出来ないって、アンタ犬以下じゃない」
勿論、犬を侮辱しているわけでもないし、犬の方が可愛いし。
そんなことを思いつつ、ラヴァインを見てやれば、何だか微笑ましそうな目を向けている物で、くすぐったくなった。
(何その目……まるで、そんなの)
誰かと重ねているように思えた。誰ってそんなの、分かっているけれど、それでも、そんな目を向ける物だから、本当は、あの二人は仲がよかったんじゃ無いかと思ってしまうわけで。
(少なくともアルベドは……)
そこまで考えて、彼奴が不憫になってきた気がして、考えるのをやめた。ラヴァインだって、トワイライトが拗れた時みたいな愛を……狂愛をアルベドに向け知恵戯けだから、似たような物なんじゃないかと。
まあ、記憶がなくなって、毒素が抜けた今、彼はアルベドの事を覚えているわけでもないんだけど。
「お姉様は渡しませんからね」
「と、トワイライト」
トワイライトは、サッと私の方にやってきたかと思うと、リースのように、私とラヴァインの間に立って、威嚇するような姿勢をとる。でも、こんな子猫が知らない人間に威嚇していると同じぐらい、全然効果の無い可愛らしい物だ。それを見て、ラヴァインはニタニタと笑っている。そんな気味の悪い笑みを、私の妹に向けないで欲しいのだけど。
「仲良いんだね」
「勿論です。お姉様と私は、切っても切れない縁で繋がってますし、誰よりも愛し合ってます」
「愛し合ってるって、女の子同士で?」
「愛に性別も、血のつながりも関係無いので」
と、ふんすと怒りながらトワイライトはいった。確かに、愛に性別も血のつながりも関係無いが、ラヴァインがいいたいのは、そういうことじゃないだろう。
何というか、きょうだいで愛し合っている、仲がいいのが微笑ましいみたいな、そんな含みのある言い方に違和感を覚えてしまう。
「ラ……じゃなくて、ヴィ。アンタ、兄弟とか興味あるの?」
「何?やっと口を開いたかと思ったら、そんな質問?俺の質問に答えて、それで俺が記憶を取り戻す方が良いんじゃない?」
そう、ラヴァインは嫌みったらしく言う。何処まで、そんな口叩けば気が済むのだろうか。トワイライトが、ラヴァインに向かって何か言っているようだったが、ラヴァインは、答えてよ、と圧をかけるように私を見てくる。
(何が、そこまでアンタを突き動かすのよ)
今の彼は、兄であるアルベドの事なんて忘れている。だからこそ、だからこそ、このはなしはできないし、私だって、ラヴァインにアルベドに対してどう思ってる? って聞きたい。アルベドも、口には出さなかったけど、その行動で、どれだけラヴァインのことを考えていたか分かったのだから。
とはいえ、何でそんなに捨てられた子供みたいなかおをするのだろうか。
「俺の記憶が戻る手伝いをして」
「何で」
「何でってそりゃ、俺が記憶戻ったら、エトワールだって俺が嫌いなんだから、ここから出ていって欲しいでしょ?」
「嫌いとはいってないわよ」
「じゃあ好き?」
「なわけない。苦手なだけ」
なんだ。と、ラヴァインは落胆したようにいった。
好きなわけない。どれだけ、此奴が私のことを邪魔しておちょくってきたか、此奴は忘れているだろう。と言うか、そんなのが当たり前すぎて、私達をはめた事なんて忘れているかも知れないのだ、此奴は。
言い方が、相変わらずいちいち面倒くさくて、こんなに面倒くさい人間だったのかと思った。もっと、策士なイメージがあったから。
これが、素の彼なのかも知れないけど。
「ねえ、俺が使える部屋って何処?」
「はあ、アンタここに泊まりに来ているわけじゃないんだから……って、勝手に動かないで!」
勝手に、歩き出したラヴァインを引っ張って止める。だが、ラヴァインは落ち着かないといった感じに、聖女殿の中を歩き出したのだ。このままじゃ、片っ端からドアを開けられそうなんて、ヒヤヒヤしている。
「お、お姉様」
「トワイライト、手伝って、一大事。此奴は記憶喪失……だけど、まだ信用しきれないところがあって、それで」
「見張ってろって事ですよね。分かります。お姉様のいいたいことなら」
と、トワイライトはにこりと笑った。
さすが、言葉なんていらなくても伝わる。これが姉妹の絆かあ……何て感心してしまっていた。そんな間にも、ラヴァインはせっせ、せっせと歩いて行ってしまう。遠くからメイドの悲鳴が聞え、別に多分何もしていないのだろうが、ラヴァインが勝手に入ってきたことによってパニックを起こしているんだと思う。本当に、目を離したすきに……
(ほんと、油断も隙もないんだから……)
子供を相手にしているようだった。いや、実際子供なのかも知れないけれど。
(小さい頃から、アルベドとラヴァインって仲が悪い……と言うか、何か、暗殺者を差し向けてたりしてたんだっけ。それで、二人の間には壁があったとか何とか。それを、父親は止めずにいて……)
母親の愛を注いで貰っていなかったせいか。愛情を持って育てて貰っていれば、こんなことにならなかったんじゃないかと思った。私が言えることじゃないし、私だって、愛を知らずに育ったけど、まわりのおかげでこんな風になれたし。
人は、変われるのに。
(彼奴に何言っても仕方ないけど……)
アルベドだったら、あのなっがいポニーテールを追いかければ良いだけだけど、ラヴァインはそうはいかない。そこまで髪の毛も長くないし……いや、比較的長いといえば長いけど、アルベドほどじゃない。だから、あの目立つ赤だったとしても、何処に行ったのかすぐに分からなくなってしまう。
「トワイライトは、そっちを探して」
「はい、分かりました。お姉様」
聖女殿は広いから、二手に分れた方が良いと、私は、トワイライトに、北側を探すよう、私は南側をと、分断して探すことにした。
メイド達は、そこかしこで悲鳴を上げているし、何処にいるか全く分からない状況である。
(あーもう、何処に行って!)
かくれんぼじゃないんだから、出てこい。と、怒りたくなって、曲がり角を曲がると、探していた紅蓮がようやく姿を現した。片っ端から部屋を開けまくっているのか、廊下には無数の開かれた扉が見える。
「あーもう、ひっどい」
あまりにも悲惨な光景。こういうのは、締めたくなる達だけど、閉めていたらまた逃してしまうと思ったのだ。だから、私はそのまま廊下を突っ切る。
ラヴァインはそれに気づいたらしく走り出した。この距離じゃ追いつけない。
「待ちなさい!……ッ!?」
ひょいと、曲がり角を曲がり、ラヴァインがとある部屋に手をかけた瞬間、これは、不味いと私は大きく目を見開く。
だって、その部屋には――――
「ダメ、待って、はいらないで――――!」
「お邪魔します……って」
ラヴァインの動きが止る。でも、部屋の中に居た人を見てしまっただろう。さすがに、眠っている人を殺すなんて事、記憶の無い此奴なら大丈夫だとは思うけれど。
一歩、また一歩とそのベッドの上で起きることのなく眠っている亜麻色の髪の男に近付いていく。
「ダメだってば、やめなさい!」
「……ッ!」
何故、ラヴァインが彼に手を伸ばしたか分からなかったが、次の瞬間バチッと痛々しい音が部屋に響いた。