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(岩本視点)
ザワザワ…
「今日も休みなの?」
「連絡もつかなくて…」
「何かあったのかしら…?」
いつも通りのスーパーは、少しざわついていた。
ふっかが仕事に来なくなったから。
連絡も全く取れず、何かあったんじゃないか心配してるみたい。
事情を知らないと、そうなるよな…
「……」
俺も….
ふっかが立っているはずのレジに並ぶ。
「いらっしゃいませー」
そこに立ってるのは、ふっかの代わりのバイト。
いつもなら、この後に何かふっかはコメントをする。
『お仕事お疲れ様です!』
『まったチョコだー!わら』
『ムキムキでいいなぁー…俺、なかなか筋肉が目立たないんですよねー。』
何気ない会話が日常だった。
でも、それがないんだ。
改めて、失われたものの大きさを知る。
『大丈夫』
『大丈夫!大丈夫だから!』
『あはは、全然だいじょーぶ!』
『大丈夫ですよ?心配していただきありがとーございまーす。』
『…っ、だ、大丈夫だからっ!!』
『俺は全然だいじょーぶ!』
「….っ…」
今思い出すと、ふっかはずっと”大丈夫”だったな….
何かある事にいつも笑顔で大丈夫なんて言う。
本当は無理してたのに…
全然大丈夫なんかじゃなかったのに….!!
「….お客様…?大丈夫ですか…?」
「….ぁ、すいません。」
忘れてた。
目の前には困り顔を浮かべたバイトの子。
いつもの会話がないせいで自分の考えに集中してた。
慌ててお釣りを受け取って店から出る。
ふっかのことしか考えられない…
今、ふっかは無事なのかな。
なにかされてるんじゃないか、ひとりで辛く泣いてるんじゃないか?
それとも、まだ抱え込んでるんじゃない…?
なんで気づかなかったんだよ…
俺は、ずっとふっかと一緒にいたのに…
手のひらを眺める。
奪われる前のふっかの体温はまだ消えてない。
すごい、冷たかった…
相当無理してたってわかる。
体調も悪かったんだろうし、精神的にも追い詰められてたんだよね?
それでも無理してカフェに来て…
そんな日々を繰り返してて…
ずっと、ずっとずっとずっと…
辛かったよね、気づけなくてごめんね、だけじゃ許されないほどの痛み。
ふっかはそれを隠し通して、ずっとひとりで溜め込んで…
そんなこと、俺にはできないと思う。
どっかでボロが出て、耐えきれない。
周りに頼っちゃうと思う。
でも、ふっかは十何年も隠してきたんだ。
ひとりで解決しようと…
いや、
「もう、諦めてたのかな…」
すごい、悔しいけど…
ふっかを、この世界に残してくれてたのは….
あのフードの男、なんだよ…
あいつがいなかったら、ふっかはきっと生きるのを諦めてた。
それを、止めてたのは…
ふっかに存在理由を与えてたのは….
「俺、じゃないんだ….」
その事実が、ほんとに虚しいな…
「…..ほんとに、やるの…?」
カフェの中には、緊張した空気が流れている。
阿部が心配そうに呟く。
7人の視線の中心にいるのは、
「これは、俺にしかできないじゃん?だったらやるしかないっしょ!」
佐久間は決心した顔で呼吸を整える。
今から何を行うかというと….
~数十分前~
「ふっかさんのことを救うんだったらさ、やっぱり原因がわかんないとじゃない?」
深澤を救う作成を練っている最中に、ラウールがそんなことを呟いた。
「原因っていうと?」
宮舘がラウールに話の続きを促す。
「ふっかさんの苦しみの種がわかんないと、俺らの声なんて届かないんじゃないかな?」
「….たしかに..」
阿部が納得する。
他メンバーも同じ思いだ。
「なんも知らないくせに!ってなるもんな。俺も辛い時に辛かったなってなんも知らねぇやつに言われたらふざけんなってなるもん。」
渡辺がコーヒーのカップに口付けながら呟く。
「でも、どうやって?」
岩本も同じ思いだが、その方法がない。
「どうやって…」
そこで行き詰まってしまう。
しばらく全員で頭を抱えていると…
バンッ!
と、机を叩いて佐久間が立ち上がる。
「…佐久間くん?」
突然立ち上がった佐久間に驚くメンバー。
「俺なら、深澤の辛さを体験できるかもしれない!」
………….
「…何言うとんの?」
佐久間の急な発言に対する沈黙。
それを何とか破る向井。
少し呆れたような目で、何を言っているのだと。
「俺の能力!変身だけどさ、身近な奴ほど再現率が高いって言ったじゃん?記憶だって同じなんだよ!俺がふっかに変身すれば…!」
「….っ!!」
佐久間のアイデア。
それは、今の詰まった状況を変えるものだった。
「でも、それは佐久間が危なくない?」
佐久間の案はたしかに今の状況を良くするものだ。
だが、その代償も大きい。
「佐久間ひとりで、抱えきれるの?」
阿部が心配する瞳で佐久間を見つめる。
「ふっかですら、隠すのが限界だったんだよ?」
岩本も不安に告げる。
「…..ほんとに、やるの…?」
確認するように阿部が佐久間に問いかける。
「これは、俺にしかできないじゃん?だったらやるしかないっしょ!」
佐久間は務めて明るく笑う。
表では明るく振舞っているが、内心は不安や緊張などの感情が渦巻いていた。
それでも、
(俺が…俺がこの行動をとって、深澤に少しでも声を届けられるかもしれない。だったら、やるしかない…!)
深澤を救うためにできることは全てやる覚悟が、佐久間の中にはある。
「佐久間くん….大丈夫、だよね…?」
ラウールが心配しながら見つめてくる。
他のメンバーも心配で瞳を揺らしている。
「大丈夫!…とまでは言いきれないけどさ…」
佐久間はそんな7人に向き合い、
「もし、俺がやばかったらさ…引き戻してよ。」
柔らかく微笑んだ。
「…..ふぅ…よし!!行ってきまぁーーす!memoria pretium(メモリアルプリティウム)!!」
大きく叫び、意識をゆっくりと深く深く潜るように沈めていく。
その様子を7人は真剣に見守っている。
どうか、佐久間が無事に深澤の有力な情報を手に入れる事を祈って。
時計の音が数十回鳴っている。
それでも、佐久間からの反応はない。
他のメンバーは息をすることも忘れて佐久間をずっと見守り続けている。
また、時計の針の進む音がする。
カチカチカチ….
「……ぅ…」
「っ!佐久間!!」
ようやく、佐久間が反応をする。
が….
ガックンッ
「佐久間!!!」
すぐに床に崩れ落ちてしまった佐久間に急いで支えに入る阿部。
「佐久間?大丈夫?」
周りのメンバーも急いで佐久間を囲うように支える。
「….な、んだ…よ….これ…..っ…」
息を乱しながら、佐久間は頭を抱える。
「佐久間?どうしたの?」
阿部は佐久間の背中を優しくさすりながら、静かに問いかける。
だが、佐久間には全く届いてないようで…
「辛い…..辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い…苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い….!!!!」
まるで何かに乗り移られたかのように、言葉を繋ぎ続ける。
あまりの異常さに、メンバー全員息を飲む。
今の佐久間の状態は異常だ。
いや、それ以上に….
何よりも異常なのは…
深澤はこの感情を全て隠し、平静を保っていたことが何よりも恐ろしい。
「佐久間っ!!佐久間!!!」
阿部は必死に佐久間に呼びかける。
このままでは、佐久間がこの感情の波に飲み込まれる可能性がある。
「さっくん!しっかりしてや!!」
「佐久間くん!」
「戻ってこい!!」
全員で必死に呼びかける。
「誰も見てくれてなんかなかった俺の存在価値なんて何もない誰かのためだけに動けば平和に終わるの?自分の意思で動いたら誰かを傷つける目立ったら終わり才能なんてなんもないじゃんこんなもの全部消えればいいのにもう嫌だ消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい……」
佐久間には、届かない。
「…..っ」
阿部は、何かを決心したかのように瞳を鋭く光らせる。
「…..阿部….さん?」
今までに見た事のない阿部の鋭い眼光に思わずビビり、さん呼びになってしまう。
阿部は無言で両手を掲げ
「ちょ、阿部ちゃん!?」
メンバーのストップを全て無視をして…
バチンッ!
思いっきり佐久間の頬を挟む。
そして、自分の顔を近づけて少し濁った佐久間の瞳を見つめる。
すると、先程の鋭い眼光から一転して優しい瞳を佐久間に向ける。
「佐久間。ここにいるのは佐久間だよ。そして、俺は阿部。」
優しく、包み込むように佐久間に呼びかける。
「大丈夫。阿部はここにいるし、佐久間もここにいるよ。」
しっかりと目を合わせて、そう呼びかけ続けていると…
「あべ、ちゃん…」
だんだん、瞳に光が戻っていく。
佐久間は、自分自身を取り戻していく。
「….はは…さすがあべちゃん。やっぱ、引っ張ってくれるのはあべちゃんなんだね..!」
阿部の優しい呼びかけによって、佐久間を取り戻すことができた。
「どう?落ち着いた?」
阿部は優しく佐久間の背をさすりながら声をかける。
あの後、佐久間を椅子に座らせて、宮舘が急いでアイスコーヒーを用意して、その周りをメンバーで囲み、ようやく震えなどから解放されたようだ。
「…..どう、だったか、聞いてもいいの?」
渡辺が心配そうに佐久間に聞く。
さっきの様子で伝わることは多くあった。
しかし、佐久間はその中身を見ているはずだ。
だが、それを聞いて良いのか?
「話せなくはないんだけど….実際に体験してみないとわかんない気もすんだよね…」
佐久間は少し複雑そうな表情を浮かべて、話し始める。
(佐久間視点)
まず、最初に見えた景色はただただ真っ暗だった。
それに、なんか、すんごい空っぽっていうか…
なんもないんだよ。
なんだろ、体に穴空いてるみたいな….?
誰かにかけられた言葉も、全部その穴からすり抜けてっちゃうの。
俺からしたらほんとにこんな経験ないからさ、かなり動揺しちゃって….
それなのに、それなのにさ…
空っぽの箱を開けてみたらさ、ただでさえくらい空間なのに、その空間すら明るいって思えるほどの、真っ黒なものが吹き出してきて….
重すぎた….
体験すればわかると思うけど、本当にしんどいやつ。
しんどいどころじゃないよな。
ずーっと、行き場のない感情が溜まりに溜まってて、それに押しつぶされながら、、
深澤は、、笑顔でいたんだ…..
ずっと、ずっとバレないように…
辛い、苦しい、気持ち悪い、助けて欲しい、消えたい….
こんな感情で溢れてたのに、俺らに悟られないように隠してたんだ。
その上に….
フードの男の声だけは、ずっとクリアに聞こえてたんだよ…
あいつの声だけはすり抜けずに全部が空っぽの箱の中に入ってく。
だんだん、箱の中があいつの言葉でいっぱいになっちゃって…
あいつの言葉は、全てが深澤を肯定する言葉だった。
偉いね、無理しないで、見てるよ、期待してるよ…..
深澤に飴を与え続けて、、
深澤は、そいつのことを優先的に考えるようになった。
自分を肯定してくれる存在が男だけだと思っちゃったんだ。
……深澤はさ…..
「ただ、自分を見て欲しかっただけだったんだよ…でも、自分は目立っちゃダメなんだっていう心の中の矛盾が、あいつのことを壊したんだ…。それに、あいつはなんでもひとりで抱え込もうとする….優しすぎんだよ、ほんとに…」
先程の記憶が、また戻ってきたのだろう。
後半は声を震わせながらも、佐久間は最後まで伝えきった。
「…..ありがとう。佐久間のおかげで、ふっかのことを少しだけでも知れたよ。」
岩本は、佐久間に感謝を述べると同時に、自分への怒りが湧いてくる。
(俺は、ずっとふっかのこと見てたのに….ふっかの痛みを全く知らなかった….バカだよな、そりゃ、ふっかも誰も見てないって思うよな….)
自分への怒りを抱いているのは、岩本だけではない。
他のメンバーも同じで、深澤と一緒にいたのに気づけなかったのだ。
空気が静まり返る。
カフェの中には、時計の音が響くのみ。
「……ふっかさん…取り戻さな…」
向井が、声を振り絞る。
過去の自分に怒りを抱いているよりも、深澤を救うことを優先しなくてはならない。
その思いで、メンバーに呼びかける。
「確かに気づけんかった。ふっかさんは隠すのが上手すぎるんよ…気づくわけないやん。みんなお互い様やろ!後悔するのはふっかさん助けた後でええやろ!」
伝われ、という一心で、少し涙ぐみながらも訴える。
その様子に、メンバーも何とか調子を取り戻し始める。
「うん。こーじくんの言う通りだよ。」
ラウールは、周りを見渡して口を開く。
「作戦、考えよ。」
8人は、切り替えて作戦を練ることに集中する。
いち早く深澤を救い出すために。