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(深澤視点)
「…….ん….」
ゆっくりと、意識が戻ってくる…..
身体にはすごい疲労感が残ってる。
うぅ…気持ち悪い…..
ここ最近、ずっと気持ち悪い気がする…
「おはよう。調子はどうだい?」
「….ボス….」
そうだ。
俺はボスのところにいたんだ。
ボスのために、俺にできることがあるから….
ボスに、必要とされてるから…..
「だいぶ良くなってきたようだね。」
ボスは俺にほほ笑みかける。
その笑顔に体温が少し上がる。
あれ?なんでだろ?
今は、ボスの声を聞くだけで安心する。
今までは、俺の中にある醜い感情がうるさく喚いてたのに…
ボスのおかげ?
ボスがいてくれるから、俺はこんなにも身体が軽いの?
このまま、ボスに全てを捧げてしまえたら…
「そうだよ。それでいいんだ。」
ボスがゆっくりと両手を広げる。
吸い込まれるようにボスに、抱きついてみた。
こんなの失礼かなって、普段思うんだけどさ…
今は、これが正解な気がする。
「…..ボス….」
抱きついてみたけど、急に怖くなる。
怖くなって….
ボスの、ボスの体温が….
人の体温が感じられない….?
なん、で…..
冷たい…
温もりが、感じられない…!
抱かれてるはずなのに、冷たい…!!
まるでひとりでいるみたいだ….!!
「ボス….ボス….」
怖い…
怖くて何度もボスの名前を呼ぶ….
なのに…!
何も…感じられない….!?
自分の身体が、溶けてくみたいに…
感覚がなくなってく….
あぁ….
そういうことなの?
そっか….
これが、ボスに全てを捧げるってこと…..
これが、ボスの….
“俺の”幸せ…..
「……ひか、る….」
ほとんど自分の意識がない状態で口からこぼれた言葉。
ひかる…?
誰、だっけ….?
そんな人、知らないはずなのに…..
〖……..〗
「ん?どうしたの?ふっかの烏。」
佐久間の状態が完全に回復したと思ったら、今度は深澤の大烏の様子がおかしい。
先程まで8人の周りを飛び回っていたのに、机の上に止まったまま、動かなくなってしまった。
〖……カァ!カァ!!!〗
動かないと思ったら、今度はカフェの中を大声で鳴きながら飛び回る。
「ちょ!どうしたの!?」
ずっと大人しくしていた利口な烏が暴れだし、困惑する8人。
「まさか….ふっかに何かあったんじゃ….」
その異常な光景に、阿部は嫌な予感がする。
「….protean」
阿部の発言を聞いて、佐久間はすぐに烏の姿になる。
〖カァ!カァァ!!!〗
しばらくの会話。
全員の頭に嫌な予想が浮かぶ。
この烏は、唯一深澤の状態を確認できる存在だ。
その烏が、こんなにも取り乱している。
間違いなく、深澤に何かあったのだ。
息を飲んで、佐久間の情報を待つ。
「深澤が…..」
人間の姿に戻った佐久間は、真っ青な顔をしていた。
「….どう、だった…?」
緊張した面持で岩本が佐久間に聞く。
「深澤が….深澤が…!!」
佐久間は何とか冷静さを取り戻そうとする。
が….落ち着けるわけがない。
「深澤を…失いかけてる….」
ただ、静かな一言。
だが、その言葉に含まれる重すぎる意味。
「正確、には…..フードの男に、飲み込まれそうになってる…」
佐久間が、重々しく言う。
その発言の後は誰も言葉を発せずに、沈黙だけが続いた。
先程までは、早く助けよう、手遅れになる前に!といった希望が感じられていた。
もう手遅れになるのではないかという焦りの空気が流れる。
時間は無情に流れていく。
この間にも、深澤に危険が迫っているというのに….
「…….」
誰も、言葉を発することができない。
〖……バサッ〗
そんな空気の中、動いたのは烏だった。
「ぇ…?どこ行くん!?」
烏は羽を広げてカフェの外へ勢いよく出ていく。
慌てて追いかけようとするが….
「….いない…」
あの烏は、伝説の式神である大烏だ。
空間転移など簡単にできるのだろう。
そうなったら、誰も追いかけられない。
「まさか…ふっかのとこに…」
渡辺がぼんやりと烏が消えた虚空を見つめる。
「俺らには、間に合わないって思ったのかな…」
今まで烏が8人と一緒にいたのは、この8人なら主人である深澤を救えると信じていたからだ。
だが、今の深澤の状況と8人のこれ以上進めない空気を感じとり、深澤の元へ向かったのだろう。
「でも、狙いはあの子だよ…!」
ラウールが焦ったように言う。
「あの烏が捕まったら、あの男の計画は完成される…」
宮舘も焦りを露わにして言う。
「どう….すれば、いいん….?」
深澤の状況が悪化し、烏までいなくなり、
一体、自分たちには何ができるのだろう?
暗い場所。
長く続く廊下。
そこに、小さな羽を広げて飛ぶ一羽の烏。
深澤の式神である、伝説の大烏。
静かに、でもスピードを下げずに終わりの見えない廊下を進む。
きっと、この廊下には仕掛けがある。
あの部屋に、深澤と男の元へたどり着くための仕掛けが。
烏は、それを知っている。
だが、飛び続ける。
まだ、深澤の元へ行く時ではない。
烏は、”ここで8人を待つ”。
烏がここに来たのは8人を焦らせるため。
あの状態ではいつまで経っても深澤の元へは来れない。
かなり強引で、分かりにくい方法だと思う。
…..
烏は、昔は人間の言葉を話すことが可能だった。
しかし、式神使いは封印され、大烏の力などほとんど残っていないのだ。
人間の言葉が話せなくなった。
烏と唯一意思疎通ができるのは、現代唯一の式神使いである深澤だけ。
もしくは、佐久間の能力がないとできない。
烏は、そんな自身を不甲斐なく思ってしまう。
後悔をしているのは8人だけではない。
烏自身もそうなのだ。
深澤とずっと、幼い頃からずっと一緒にいた。
深澤が変わった瞬間も知っていた。
深澤に危険が迫っていることも知っていた。
『…..俺の家、来る?』
あの日、深澤に拾われたあの日。
その姿は、封印されてしまうのを察して自身だけを逃がしたかつての主人と重なった。
だから、もう二度と失わないように….
深澤のことを、絶対に守り抜くと決めたのに…
〖……〗
守れなかった罰など後でいくらでも受ける。
だから、今は…..
深澤を救うことが何よりも優先すべきこと。
だが、烏だけでは無理なのだ。
深澤を救うには、あの8人の力がないと…
だから、烏はここで8人を待つのだ。
「ほんとに….これでいいのかよ….」
烏もいなくなり、再び無力感に飲まれた空気。
そんな中、渡辺が拳を震わせながら俯く7人に問いかける。
「いいわけ、ないじゃん…」
悔しそうに、だが自信なく岩本がつぶやく。
「翔太….たしかに、翔太の気持ちはわかるけどね….」
宮舘は渡辺をなだめようとする。
「…..俺らに、できることはもう….」
俯いたまま、目黒が悔しげに拳を震わせる。
「…..そんな、わけ….そんなわけねぇだろーが!!」
何も出来ないと絶望する7人を見て、渡辺は叫ぶ。
「バッカじゃねぇの!?お前ら….今深澤がどうなってんのかわかってんのかよ…!?」
渡辺は怒りに身を任せて叫ぶ。
「ラウール!さっきまで指揮取れてたじゃねぇかよ!お前が最初に深澤を助けようと言い出したんだ!最後まで責任持てよ!」
「…..っ…!」
ラウールが、俯いていた顔をあげる。
渡辺は構わず次に目に映った向井と目黒を睨みつける。
「康二!お前、さっき後悔は後でいいって言ったよな?その意思貫けよ!後悔は後でいいんだよ!目黒、お前もだ!何らしくないこと言ってんだよ!何のために俺らは強くなろうとしてんだよ!?できることなんてない?ふざけんな!まだわっかんねぇだろーが!!」
「….しょっ、ぴー….」
「まだ、方法はある…..?」
向井と目黒も顔を上げて、渡辺を見つめる。
「舘!!なだめようとすんな!子供扱いすんなよ!お前もなんか方法考えろよ!!」
「……ぇ…それだけ….?」
宮舘には言葉少なく。
「佐久間!お前が1番深澤の内部に触れてんだ!!お前が中心になんねぇと話にもなんねぇよ!!いつもみたいにポジティブ思考で考えろ!お前が絶望したら誰も立ち直れねぇよ!!阿部!!お前司令塔だろ!?しっかりしきれよっ!それに、お前だってずっと前から深澤のこと気にかけてたんだろ?いち早く救いてぇんじゃねぇのかよ!?」
「….そうだ、よな….俺が、1番深澤の内部を理解してんだ。」
「ふっかのこと、救いたい….!」
佐久間、阿部の瞳にも光が戻ってくる。
そして、最後に…
「照。お前、一番後悔してんだろ?わかるよ。目の前で奪われたんだ。」
岩本に対して、少し落ち着いたトーンで語りかける。
岩本は、深澤が奪われたあの日から、いつも守れなかった自分の手のひらを見つめている。
今もそうだ。
「それに、俺らが出会う前から、ずっと深澤と一緒だったんだよな?大事な人を失うのは、辛いよな…..わかる、わかるんだよ。俺だってそうだった。」
渡辺は、1度宮舘を見つめる。
「俺も、舘….涼太を失って、すんごい辛かった….だから、すごいわかる…」
再び、岩本に向き直る。
「でも、深澤は…一番に照のこと頼ってたよ。」
「….そんな、こと…」
「見てたから分かんだよ。」
深澤が自分のことを頼っていたなんて信じられない岩本。
だが、渡辺が即座に否定する。
「あの烏だってさ、真っ先に頼ってきたのは照なんだろ?主人が信頼してる相手じゃないと式神が他人に頼んねーよ。」
「…..っ」
瞳を揺らす岩本。
「照!行こう!!」
佐久間が岩本の手を引く。
「ふっかさんのこと救えるのは、照くんだけだよ!」
ラウールももう片方の岩本の腕を引く。
「まだ、間に合うからさ。」
「早く、ふっかさんの笑顔みたいやろ?」
目黒と向井も微笑みながら、岩本をカフェの外へと促す。
「手遅れになる前にさ。」
「逆に、照は来なくていいの?」
宮舘と阿部が挑発するように言う。
「な?わかったろ?」
最後に渡辺が、岩本の背中をポンポンと叩く。
(そうか…..そうだよな。ここで、沈んでる場合じゃない。はは、こんなんボスとして恥ずかしいだろ……)
岩本は、久しぶりに口角を上げて、
「…..ぅし、行くぞ!!」
ボスとして大きな声でメンバーとともに深澤の元へ向かう。