## 第14話:マゼンタの閃光
月光が極点に達し、砂漠の夜を青白く焼き尽くす。
プロト・ウイングエックスの背後に展開された10枚の受光バインダーは、限界までマイクロウェーブを吸い込み、もはや機体そのものが一つの恒星であるかのような光を放っていた。
「これで……終わりだぁっ!!」
ゼロ・ドラートの叫びと共に、肩越しに展開された二門のブラック・キャノン、そして右腕のバスター・サテライト・ライフルに莫大なエネルギーが収束していく。三つの砲口が一つに繋がるように光の渦を巻き、対峙するメギド要塞の超高出力メガ粒子砲と火線を交えようとした、その瞬間だった。
レーダーが捉える暇もない速度で、戦場の端から一条の**マゼンタ色の光**が飛び込んできた。
「――っ!? なんだ、ありゃあ!!」
ゼロが引き金を引く寸前、その「影」は猛烈な勢いでウイングエックスの胴体へと体当たりを食らわせた。衝撃でウイングエックスの照準が大きく逸れ、充填されていたエネルギーが逆流する。
『――WARNING. EMERGENCY SYSTEM SHUTDOWN.』
吹き飛ばされた衝撃と、強制的な機体バランスの崩壊により、サテライト・システムの回路が安全装置によって強制遮断された。眩いばかりに輝いていた10枚のバインダーが瞬時に光を失い、静かに折り畳まれていく。
「何しやがる! あと一歩だったんだぞ!!」
ゼロの罵声も空しく、マゼンタの機体は驚異的なパワーでウイングエックスを押し続け、要塞のビーム射程圏外へと強引に突き飛ばした。その直後、要塞の放った極大ビームが、つい数秒前までゼロたちがいた空間を真っ赤に焼き払った。もしあのまま発射していたら、両者のエネルギーが衝突した余波により、ウイングエックスもろとも砂漠の塵に変わっていたであろう破壊の奔流だった。
砂塵を巻き上げ、二機の機体は要塞から遠く離れた砂丘の影へと転がった。
ゼロが荒い息をつきながらモニターを見上げると、そこには自分たちの機体に酷似したシルエットを持つ、**マゼンタのガンダム**が立っていた。
どこか女性的でありながら、ウイングエックスと同じ系統を感じさせる意匠。だが、そのコクピットからは一切の通信も、パイロットの姿も確認できない。
「おい、てめぇ! どこのどいつだ! 邪魔しやがって!!」
ゼロが通信を開いて怒鳴り散らすが、マゼンタのガンダムは一言も発さない。ただ静かにウイングエックスを見下ろした後、何かに導かれるように砂嵐の彼方へと機体を向け、そのまま滑るように撤退を開始した。
「待ちやがれ! 逃げるのかよ!!」
追いかけようとするゼロだったが、強制遮断されたサテライト・システムの負荷で機体各部が悲鳴を上げていた。
「……やめて、ゼロ。あの子も、今はもう……戦いたくないって言ってる」
ミラの静かな声に、ゼロは悔しそうに拳をコンソールに叩きつけた。
一方、メギド要塞の司令室。
モニター越しにその光景を見ていたルカス・ギルモアは、冷徹な瞳を細め、マゼンタの機体が消えた方向を見つめていた。
「部隊長……今の機体は一体?」
部下からの問いに、ルカスは微かに口角を上げた。
「……フン、おそらくは『ナンバー3』。かつて失われたはずの、三番目のガンダムか」
ルカスは、それ以上の追撃を禁じた。深追いするよりも、さらに大きな目的を見据えているようだった。
「慌てる必要はない。全ての『役者』が揃うまで待つのも、悪くはないからな……」
要塞は再び沈黙し、砂漠に夜の静寂が戻った。
突き飛ばされた砂丘の上で、ゼロはいつまでも納得がいかない様子で毒づいていた。
「ったく、なんなんだよアイツ! 助けられたのか邪魔されたのかも分かんねぇ……! 次に会ったら、絶対にタダじゃおかねえぞ!」
ゼロの文句が響く中、ウイングエックスは傷ついた身体を休めるように、月の光を浴びて静止していた。マゼンタのガンダムを操っていた少女が、どのような想いでゼロたちを救ったのか。その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。
**次回予告**
突如現れた第三のガンダム、そして謎の少女。
彼女の目的は何なのか、そしてウイングエックスに刻まれた真の記憶とは。
荒野を彷徨うゼロたちに、新たな追撃の手が迫る!
次回、『迷い子の鎮魂歌』
**「あいつ……一体、何者なんだ?」**






