テラーノベル
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女同士の方が話しやすいはずと、お浜が、勝手に仕切り、金原と八代は、廊下に座らされている。
これなら別に、自分はいなくてもいいだろうがと拗ねる金原を、八代がなだめていた。
「うるさいねぇ!男ってやつわぁ!櫻子ちゃん、ほっときゃいいから、櫻子ちゃんの気持ちを話してごらん?」
廊下で、ごねている金原へ、嫌みを言つつも、お浜は、櫻子を心配そうに覗きこんだ。
お玉も、寄り添い、櫻子の袖をしっかり掴んでいる。
「女ってやつは、結束すると、底力を発揮しますねぇ、社長?」
お浜達の様子を見て、八代が嬉しそうに言う。
「知るかっ!」
金原は、不機嫌そうにそっぽを向いた。
「まあ、あれは、あれってことで、気にしなさんな。櫻子ちゃん、遠慮しないで、何でも話してごらん」
目を細めるお浜、こくこく頷いているお玉に、櫻子もほだされたのか、ぽつり、ぽつり、語り始める。
「……今更、女学校だなんて。それに……借金を作りながら……それでも、旦那様は、柳原の家のことを考えてくださる……それだけでも、もったいない話しなのに……」
「なるほどねぇ……八っつさん!どうする?」
お浜は、廊下の八代に声をかけた。
「な、何も、そんな、遠慮はいらんだろう!俺が良いって言ってるんだ!」
たまらずなのか、金原が口出しした。
「社長は、黙っていてください。お浜は、私に尋ねているんです。で、櫻子さんは、半島へ渡ることについては、意義なしか、お浜、聞いてくれ」
「へ?!半島?!八っつさん、なんだい、そりゃまた!」
「ああ、つまりだな……」
八代は、これから目指す、金原商店の事業について説明し始める。
「……暴利な金貸しで儲けるのも限界が来るだろう。いや、それはそれなり儲かる。続けるつもりではいるが、店、商店としての体を整える頃合いが来ている。運良く、半島の日本人街と、繋ぎが取れている。南端の釜山《ぷさん》、国の中心、京城《けいじょう》に、支店を出してもいいんじゃないかと思っている」
柳原商店の絹織物、そして、成田屋のドレスを富裕層へ売り込めそうだと、八代はお浜に言った。
「やっと、あちらでも、西洋化が進み初めたそうだ。京城では、開業したばかりの朝鮮ホテルで、毎夜、金持ちや、在留している異国人達の集まりが開かれているらしい。と、なると、やはり、衣裳が必要になってくるだろう?」
生地を輸出すれば良いと思っていたが、これは、直接乗り込んで、勝負をかけてみるのもありかもしれない。
そうなれば、社長夫婦、として、金原と櫻子の出番が増える。
金原は、洋装にも、人付き合いにも慣れている。何より、その風貌に皆は引き付けられ、そのまま相手を手玉に取ることが出来るのだが……。
ただ、櫻子は、豪商の娘、ではあるけれど、残念ながら珠子のような社交性に欠けていた。
その欠けている部分を、少しでも、女学校で補足できれば、つまり、人馴れするためにも、女学校に通った方が、何かと役に立つのではなかろうか。
「まあ、商売の為に、櫻子さんを使うのもなんだけどなぁ……。そんなことを思っていたんだ……」
「……なるほどねぇ。八っつさんらしい考えだねぇ……」
お浜も、八代の真意を聞き、考え込んだ。
「ちょっと待て!俺は、半島の事など聞いていない。そもそも、商売と櫻子は、関係ない!それに、柳原の借金など、微々たるものだ!とにかくっ!!これは、俺と櫻子との話だろっ!」
金原は、向こうへ行ってろと、八代、お浜に畳み掛け、ずかずか部屋へ入ると櫻子の向かいに腰を下ろした。
「はいはい、お邪魔なようで……」
憎まれ口を叩き、お浜は、部屋から出ると、廊下の八代とこっそり笑い合った。
そんな、二人の様子など金原は目もくれず、櫻子を抱き寄せる。
「言いたい事があるなら、はっきり言え。俺達は、もう、夫婦なんだから……」
「夫婦なら、入籍したらどうですか?」
「だから!うるせぇぞ!八代っ!俺と櫻子が、話しているんだ!」
金原は、八代に茶々を入れられたと、腹立たしそうに怒鳴るが、その言い分に、はたと、怒りを沈めた。
「……入籍……?」
「ええ、祝言もまだ。それなのに、体だけの関係では、櫻子さんも、何が夫婦だと思うでしょう。それに、もし、女学校へ行かれるなら、入籍して、金原の人間になっておかねば……」
八代の明け透けな物言いに、金原は、やや、ムッとしたが、櫻子は、金原の人間なのだ。
いや、そうあって欲しいと望んでいるのだ。
ならば、八代の言う通り、祝言もだが、入籍するのが筋ではないか?
「……櫻子、構わんか?入籍して、俺の妻に、正式になってくれ」
金原は、しっかり、櫻子を見た。
抱《いだ》かれている櫻子は、金原の碧い瞳に吸い込まれそうになりながら、
「……私で、よろしいのですか?」
と、弱々しく答えた。
瞬間、金原は、眉をしかめる。
「……そんな、控え目すぎる所は、気に入らんが……今は、それが愛しくてたまらん」
そして、言うが早いか、櫻子の唇を奪った。
コメント
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もう、もう!金原さんと櫻子ちゃんの距離がじわじわ縮まってる感じがたまらなかったです。八代さんの「入籍」のひと言、タイミングが絶妙で、思わず声が出ました。お浜さんとお玉さんの女の結束も温かくて、でも最後の「それが愛しくてたまらん」からのキスには胸がきゅんとしました。二人のペースでちゃんと夫婦になっていってほしい。続きが気になります!