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あーあー、と、お浜が呆れながら伸びをした。
「結局さぁ、八っつさん。新婚夫婦のじゃれあいに、まきこまれちまったってことかい?」
台所の板間で、八代相手にお浜は、ごちている。
続く座敷から、あははは、と、ヤスヨとキクの笑い声が流れて来た。
「お玉には、あれは、刺激が強かったか……」
八代が笑いを堪る。
唇を尖らし、ぶちゅーと言いながら、ヤスヨとキクの前で、見悶えているお玉がいる。
金原と櫻子の口づけをまともに見てしまった、お玉は、大興奮で、二人の姿を再現していた。
「でもさ、良かったよ、キヨシが入籍すると言ったから……女学校なんかより、そっち、だろ……」
「だな……」
「世間では、祝言を挙げたじゃないかで、誤魔化してるからねぇ。入籍は、跡取りを産んでからが常だろ?嫁ってもんは、跡取り産んでこそ。だからすんなり、入籍はしてもらえない。ほんと、嫁ってやつは、文字通り家の女、だね」
「……だなぁ。お浜、じゃあ、入籍するか?」
「ああ、そうさねぇ……って、え?!」
「ついでと言っちゃあなんだが……、今後、お前の手腕が、もっと必要になるだろう。いや、仕事の為にという訳じゃあねぇけどな、まあ、ついでに、というか、なんというか……いいんじゃないかと思って……」
八代の突然の申し出に、お浜は、目をしばたいた。
「そ、それ、それって、八っつさん……。い、いいよ!!いい!!八っつさん!あたしを、抱いとくれっ!!」
お浜は、嬉しさのあまりか、八代に抱きついた。が、勢いあまって、八代を押し倒す形になってしまう。
「お、お浜、ここでか?!今は、まずいだろっ!?」
「あぁーん!八っつさーん!!」
抱き合って、転がり込んでいる、お浜と八代の側に、いつの間にか、お玉が来て、
「お浜ねぇさん!八っつさん!ぶちゅー?!」
と、目を白黒させた。
そして……。
すっもんだの挙げ句、皆をふり回した当人達は……。
「……いい、衣裳だな」
金原の部屋で、寸法直しをした着物を眺めていた。
網代《あじろ》模様の淡桜色の小紋の着物と、紫色の袴が広げられている。
「……考えることは……一緒なんだな……櫻子だから……桜色か」
言って、金原は櫻子の肩を抱いた。
「無理に……女学校に行かなくてもいい。半島へ渡るというのも、八代が思っているだけの話だ……気にすることはない。お前の好きにすればいいんだ」
言われた櫻子は、コツンと金原の胸元へ頭をもたせかけた。
「……迷っているんです。学ぶことから随分離れていますし……それに、旦那様のお世話が、できなくなりそうで……」
櫻子の胸の内を聞きながら、金原は、うん、うん、と、頷いている。
「……でも、女学校へ通うことで、旦那様のお役に立てるなら……」
「行きたい……いや、興味はあるんだな?」
金原の問いかけに、櫻子は、おずおずと頷いた。
「……手形……の件か?」
言って、あれは……と、金原は、口ごもる。
「お前を迎えるのは、いい。さて、どうすれば良いのか、分からなかった。そこで、ハリソンに聞いたんだ」
「ハリソンさんに?」
「西洋では、結婚とはどうゆうものかと……」
夫婦の契約であり、永遠の誓いだと、聞かされ金原は、とっさに、柳原の家の借金手形を思い出した。それはひとつの契約であり、なおかつ、柳原の家の事情も読み取れる。
「……なんて、思い付いたんだけどな、よくよく考えたら、まるっきり人買じゃねぇかと気がついた。ただ、あの時は、冨田が動いていた。怪しい何かあると、気が焦っていたんだ……」
ハリソンから、冨田が柳原の屋敷を狙っているようだと聞かされ、金原は、探りを入れた。そして、分からないように、櫻子に、何かあってはと、見張っていた。
「お前が、不安になってはいかんから、人を雇って、さりげなく見張らせた」
「さりげなく……?人を雇っていたのですか?」
「冨田は、時々、裏をかく。それで、抜け駆けのように、狙った土地を手にいれる。だからな、何があっても、お前を守れるように……」
自分が出ていけば、目立ってしまう。だから、他の者を使った。と、言いながら、金原は、愛しそうに、櫻子の頬に手を添えた。
「……ふふふ、御屋敷では、怪しい男達が、うろついていると……ヤスヨさんも、キクさんも、怖がっていたんですよ?」
「え?手配した者達は、ばれていたのか?!」
どう見ても、堅気ではない風貌の男ばかりが、うろついているのだ。おかしいと思わない方が、おかしい。
さすがに、真剣な金原の様子を見ては、櫻子も、それを言えず、つい、笑ってしまった。
「……俺は、何か間違っていたのか?」
間違うもなにも……完全に、ずれているのに……。
櫻子は、どうしようもなく、可笑しくて、笑い続けた。
「まあ、いいさ、お前が、そうして笑ってくれるんだ……。ずっと、これからも……俺の側で笑っていてくれ……」
金原は、目を細め、そっと、櫻子の頬を撫でる。
「い、いや、だからさっ!」
「だから、まずかろう?!」
「で、でもさぁ!!」
金原の肩がびくりと揺れる。
「だからっ!!なんで、てめぇらは、いつも、覗き見するんだぁ?!」
がまんならんと、声がする障子に向かって金原が怒鳴ったところ……。
「違うよっ!」
すぱんと、障子が開いて、お浜が現れた。隣には、八代もいる。
「こ、今度は、覗き見じゃないよっ!キヨシ!ほ、報告があるんだっ!」
妙に緊張しているお浜の姿に、金原も、確かにいつもと違うと思いつつ、そして、何故、八代もいるのかと、首を捻ったその時、
「社長!お浜と夫婦《めおと》になりますっ!」
八代が、叫んだ。
「はっ?!」
「あたしらも、入籍するんだよっ!いけないかい!!」
照れ隠しか、同じく叫ぶお浜に、櫻子は、まあ!と呟き満面の笑みで、金原を仰ぎ見る。
「な、なんだかわからんが、まったく!お前らときたら!」
金原も、驚きつつ、柔らかな笑みを浮かべると、櫻子と笑い合った。
コメント
1件
あ〜もうもうもう!!第129話、最高すぎたよ😭💕💕 お玉ちゃんの「ぶちゅー?」再現に笑い死にするかと思ったし、まさか八っつさんからお浜にプロポーズが来るとは…!「あたしを抱いとくれっ!」はマジで胸熱だったよ〜🔥 それと、金原さんの「ずっと俺の側で笑っていてくれ」がもう…エモすぎて泣ける。怪しい男たちウロウレてた件のオチも面白かった!ラストの入籍報告、二人とも照れながら叫ぶ感じが尊すぎました…!!次回も楽しみすぎる✨