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白山小梅
12
#借金
◇ ◇ ◇ ◇
二人が部屋から出て行った後、昴はなんとも言えない感情に|苛《さいな》まれていた。早紀は何事もなかったかのようにいつもの笑顔を浮かべているが、この状況を作り出したのは早紀本人であって、原因となったのは明らかに自分の行いであった。
「早く座ったら? 料理が冷めちゃうわよ」
「今行く」
早紀さんがヤキモチを妬いた? いや、それはあり得ない。むしろ自分の所有物に許可なく関わったことへの腹いせだろう。
「あの子を呼んだの?」
「あら、いけなかった? 昴が声かけた子が気になって」
「あの屑籠、さっきまで寝室にあったよね」
「気付いた? どんな反応するかと思って。そうしたら……あはは! 見た? あの反応。まだ何も知らない子なのね、きっと。使用済みのコンドームを見るの、初めてだったんじゃない?」
「たかが高校生、からかったら気の毒だよ」
早紀の向かい側の椅子に腰を下ろしながら、いつものように静かにそう伝えると、彼女の顔から笑顔が消えた。
「……なんかあぁいう若い子の、見た目で興味を持つようなあの感覚、嫌いなのよ。イライラするの」
「あの子、俺に全く興味ないと思うよ。むしろ嫌われてる」
「今ので完全に嫌われたでしょうね。まぁいいわ。早く食べちゃいましょう。だって……これからまだするでしょ?」
早紀はテーブルの下で足のつま先を伸ばし、昴のバスローブの裾から太ももの上をなぞっていく。それから昴の股間の上で指を巧みに使いながら刺激を与える。少しずつ感情が昂り、思わず呻き声を漏らした。
「早紀さんって絶倫だよね」
「あら、そんな私、嫌い?」
「いや、むしろ好き過ぎる」
「ならいいじゃない」
なんて堕落した関係だろうーーほくそ笑みながらも、先ほどの七香の表情を思い出して小さく息を吐く。
別にあの子がどう思おうが、関係ないじゃないか。もう関わらなければいいだけの話。どうでもいい、気にすることなんて何もないんだーー。
その時、早紀のスマホにメッセージが届いたことを知らせる通知音が響き渡る。曖昧な感覚だが、昴は嫌な予感ががした。
画面を見た早紀は、嬉しそうに目を見開いてからメッセージを読み進めていく。そして顔を上げると、懇願するような目で昴をじっと見つめる。
「ねぇ昴、明日の昼間、部屋を空けてくれる? お客様が来るの」
あぁ、やっぱりそうなるのか……。わかってる、俺は早紀さんの友人の中では一番カーストが低い。きっと明日、早紀さんを訪ねてくる男がいるのだろう。
「わかったよ。夕方くらいまで出かけるようにするよ」
「ありがとう。うふふ、やっぱり休みっていいわね。自由気ままに過ごせるわ」
昴は下を向いて苦笑すると、膝の上で拳を強く握りしめた。悔しいーーでもそれを口にしたら、この先彼女のそばにはいられないだろう。感情をグッと押し殺し、目の前の食事に神経を集中させることにした。
* * * *
翌朝、他の人たちと朝食の時間をずらすように、少し遅い時間になってから早紀と昴は食堂にやって来た。しかし七香は二人と顔を合わせたくなくて、なるべく離れた場所で片付けをする。海舟から話を聞いた奈子は特に気を遣ってくれたので、なんとか朝食の時間を乗り切ることが出来た。
昨夜、食器の回収は海舟が一人で行ってくれたため、七香はあの部屋であったことを、これ以上考えずに済んだ。
頭の中で処理しきれない出来事がたくさんあり過ぎて、フリーズしてしまったというのが正しいかもしれない。同じ部屋に泊まっている男女、しかも成人した人たちなわけだし、そういう体の関係があったって当然だし、七香が読んでいる漫画の世界では、付き合っていれば高校生だってするのが当然のように描かれている。
七香自身もそれを否定するつもりはなかった。ただ、実物を見たのが初めてだったということもあり、衝撃を受けたのだ。
今まで見たのは袋に入っている状態のコンドームで、封が開いているものはもちろん、使った後にあんな風になるなんて知らなかった。そしてあのコンドームの数と同じだけ、あの乱れたベッドの上で二人が行為に及んでいたと考えると、頭がパンクしそうになる。
誰があれだけのゴムを持参したのか、持参したということは使う気満々だったわけでーー卑猥な妄想をし始めた自分にハッとし、我に返る。
あんな状況の部屋に人を招き入れることが出来るのも、やはり大人だからなのだろうか。こんなことくらいで動揺するくらいだもの。子ども扱いされるわけねーーでもこういうことには縁がなかったのだから仕方ない。
「七香ちゃん、あの二人は部屋に戻ったよ」
背後から奈子の声がし、ホッとしたように息を吐いた。
「奈子さん、ありがとうございました。顔を合わせるの、すごく気まずくて」
「だよねぇ、私だってそう思うよ」
「なので今日の休憩時間は、ちょっと遠出してアウトレットに行ってきます。行ってみたかったし、ちょうどいいかなって思って」
このことは昨夜から考えていた。会うのが嫌で部屋に引きこもるよりは、たくさん人がいる場所なら会ってもすぐに身を隠せる。
「そうだね、気分転換にもなるし、いいんじゃないかな」
服や雑貨も見てみたいーー七香の頭からあの二人のことが薄れ、楽しみで埋まっていく。きっといい気分転換になるに違いない。