テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「それじゃあ、蒼さんに当てるわ、このときの筆者の考えはなんだと思う?」
「え…わかりません。筆者の考えは筆者にしか分からないことですし…」
わたしの名前は|戸田 蒼《とだ あおい》
真剣に答える度に先生には呆れた目で見られるし
『ハハッやっぱこいつおかしいよ、ちょっと考えたら分かることじゃん?』
なんてヒソヒソと言われる。
〝だって、わたしはその筆者じゃないし…〟
と言えば、屁理屈と受け取られるし
ほかの教科のときも同じようなことが起きる。
変な目で見られて後ろ指を指され、なんぴとも否定された記憶しかない。
〝仕方なくなーい?ほら…あの子ってギフテッドっていうんでしょ?〟
|ギフテッド《Gifted》──…
それはすなわち、一般的に高い知能や特定の分野で優れた才能を生まれ持った人間のことであり、わたしもその1人だ。
家族や小学生時代からの親友は〝天才〟とか〝誇ることだよ〟と言ってくれるけど、こんなものがあるせいで、周りと話が合わなかったり、幾らわたしが真剣に答えていても〝嫌味〟〝バカにしてる〟と受け取られて孤立する。
神様からのプレゼントがこれだとしたら…最悪だ
そう何度も思うたびに、もうずっと一人でいようと思った───。
しかし、そう簡単には行かず、わたしはある日を境にクラスメイトである女生徒2人に嫌がらせを受けるようになった。毎日毎日毎日。
理由は明白だった、わたしがギフテッドということに他ならないだろう。
だが、物を隠されるのはまだ可愛いもので、教科書やノートはビリビリに破られてゴミ箱に捨てられたときは流石に理解不能だった、彼女たちは異常者だと思った。
その日はなんとか我慢して乗りきったが…放任すればするほどいじめはエスカレートしていった。
陰湿なものに変貌し、登校中に後ろから砂をかけられたりもした。
でも……ただ黙っていられるほどわたしはお人好しじゃない。
何度もストレートに言い返した、しかしそんな言葉は彼女たちには届かなかった。
教師にも相談したものの、生徒同士のよくあるノリ・同性同士の喧嘩として片付けられ親身になってくれることはこれっぽっちもなかった。
それからというもの、それが辛くて、放課後になると誰もいないことを確認してからペンケースから取りだしたカッターを手にし、自分の腕を切りつけるようになっていた。
しかし何をしても泣いたり怒ったりしないわたしに飽きたのか、数週間すればイジメというイジメは無くなっていた。
ただ昼休みに勉強をしていると陰口を言われるだけで、前のように戻っていて、やっと集中して1人の時間を過ごせる。
そう思っていたのに、前よりも周りの声が苦痛になっていたのだろう、わたしは、気が付くと何も持たずに逃げるように教室を出ると屋上に向かっていた。
重い扉を開けて、屋上に足を踏み入れる。
フェンスの前まで行き、フェンス越しに旧校舎裏に設置されているカフェを見ると、楽しそうに笑い合う生徒たちの姿があった。
わたしはその人たちとは〝違う〟んだ。
そう改めて思い知らされるようだった。
わたしは……独りだ
そう思った瞬間だった。
〝ドクン〟と心臓が高鳴り、体が熱くなる感覚に襲われる。
そして、わたしの視界に映る景色が歪み、瞼から生ぬるいような冷たいような涙が頬をつたって溢れ出した。
このとき初めて、唐突に死にたいと思った。
きっと死ぬのは怖いのだろうと思っていたけど、そんなのは一瞬だろう。
死んだらこの苦しみから解放されるし、きっと苦労をかけている両親にも迷惑を掛けないで済むと思うと心が軽くなる気がした。
そう思いながら、フェンスに足をかけて前屈みになったときだった。
ガチャッという音と共に屋上の扉が開き、驚いて振り返った。
そこには、長めの髪に中性的な顔立ちをした男子が立っていた。
彼はわたしを見るなり焦ったような顔をして駆け寄ってきた。
そりゃ、屋上のフェンスに足をかけていたら危ないと誰でも思うだろう。
「な、なにしてんだ。そんなとこいちゃ危ないだろ!」
〝死のうとしてる〟 そう察したのか。
彼はわたしの腕を掴んでフェンスから引き離すと
〝今ここで死ぬ前に、俺と友達なってよ〟なんて言うから、驚きのあまり涙が引っ込む。
その男の子は、凪と名乗った。
彼の名前は、新道 凪。
二つ上の先輩であり、わたしがギフテッドだと知っているのにも関わらずそんな突飛押しもないことを言ってくるなんて、またなにかの悪戯かと疑ってしまう自分がいた。
「本気で言ってます…?わたし、先輩のこと噂程度にしか知らないですけど…」
「俺も噂でキミのことは知ってるよ?ギフテッドでいつも1人で勉強してるって聞いてさ、興味湧いちゃって」
「興味本位…ですか」
同情か気まぐれか、分からないけどさっきまでの希死念慮はどこかに消えてしまって、目の前の彼の言った言葉がただ気になった。
それはわたしなんかに友達ができるかもしれないという希望に縋りたいだけだったしれない。
「いや……そんなこと突然言われても…どうして、わたしなんかと…っ」
「普通に、戸田さんと喋ってみたかったんだよね」
友達になってあわよくば攻略してやろうとでも考えているのか、とも思ったけど
騙されていたらその時は今度こそ本当に死ねばいい、消えればいい。
それだけのことだ。
最期を迎える前に、この希望に縋ってみてもいいかもしれないと思った。
「わ、わかりました…」
そう言うと彼は嬉しそうに笑い〝じゃあ今日から友達ってことで、今度の休みゲーセンでも行こーよ!〟と言ってきた。
「ゲーセン、ですか」
ゲーセン、ゲームセンターなんて単語は久々に聞いた。
さすがに単語は知っていたし、小さいころ休日に親と行ったことはあったけれどそれ以来だ。
毎日勉強しかしていないといっても過言ではない人生を送ってきたし
それを考えると、わたしと友達になりたいと言ってきた彼の思考回路は本当に謎だ。
「今週の土曜日とかどう?狸小路のゲーセン行こうよ、ぜったい楽しいから!」
こんな根拠の無い自信に、今まで何度も信じて裏切られたのをよく覚えている。
どうせわたしは楽しめない、行ってもどうせつまらないんだろうな
そんなわたしを見たら、この人もきっと他の連中と同じですぐ飽きるんだろうな。
そう思いながらも適当に返事をする
「はい、それじゃあ次の週末」
そう答えると彼は嬉しそうに笑って〝じゃあまた明日学校で!絶対もう飛び降りようとすんなよー!〟と言って、屋上を後にした。
そう言われ、そういえばまだ水曜日だったか、と気づく。
脳天気な人…なんて思ったけど、こんな私といつまで持つのかな。
その日の夜、わたしは両親に久しぶりに友達ができたことを報告した。
すると両親はそれはもう喜んでくれて〝よかったね〟と言ってくれた。
翌日、学校に着き、教室に続く廊下を歩いていると、新道先輩はわたしを見つけるなり
〝蒼ちゃんって数学得意って言ったじゃん?もしかしてだけど数Aももう出来てたりする?!〟
なんて駆け寄ってきた。
「葵ちゃん…って、下の名前で呼んできたの先輩だけですよ…」
「え、なんで?クラスメイトとかにだって名前呼びは普通されるもんじゃない?」
「先輩、私の噂聞いたなら私がギフテッドなことは知ってますよね?…こんな周りと違う人間、普通に友達になれるはずがないんですよ。だからみんなわたしを避ける…当然の原理です」
「えー、変なの。葵ちゃん喋ってみたら面白いし、俺は友達なれたけどな」
「それは先輩があんな頼み方するからでしょ」
「ま、葵ちゃんの場合、もっと気楽に生きてもいいんじゃない?」
「そんな簡単に…ギフテッドなんて、最悪の贈り物です、これがある限り気楽に生きるなんて…っ」
出会ってたった一日の人になにを言ってるんだろう、と思って言葉を訂正しようとすると、彼は言う。
「そこだよね、周りの目気にしてるところ、周りなんかどうだって良くね?」
「……!」
「あいつら外野は好き勝手根も葉もない噂立てるの好きなんだし…それに振り回されるとか、勿体無いって」
「……意外とまともなこと言うんですね。もしや経験者?」
「まあまあ、とりあえず今はこれ教えて!」
先輩は言いながら1枚のプリントを差し出してきて
そこには先程、教えて~と言ってきたものであろう数Aで習う数式問題がズラズラと書かれていた。
数学が好きで数学に長けているわたしには見ただけで暗算ができた。
断る理由もなかったので解き方を教えると
「すげぇ…さすが蒼ちゃんだわ、ほんと令和の神童だよなぁ…」
「そんな…褒めてもなにもでないですって…」
「」
驚くほど褒めてくるものだから、さすがに照れ臭い。
「これぐらいなら全然…数学だけは好きですから、だから勉強できるだけで……」
わたしがそう言うと
「充分すごくね、?ほんと謙虚だよねー…」
と微笑んでくれたが、ふと思い出したように口を開いた。
「ってそーだ!話変わるけどさ」
「今度数学の小テストあんだよね…そんでまじで赤点不可避だから、蒼ちゃんさえよければ俺に勉強教えてくんない?もちろんお礼はするからさ!」
そう頼まれ〝構いませんけど…なんで私に?〟
と聞くと、あっさりと
葵ちゃん頭良いし、てか俺あんま頼れる友達いないし!」とおちゃらけで言ってくるので
まあいいですけど、と了承した。
わたしの数式問題が解けたときの反応を見るに
数学が得意というわけではなさそうだったが、赤点不可避というところをみると本当に苦手科目なんだろう。
勉強を人に教えるのは好きだけど、自分が勉強する時間が減るのでそこは考えものだな……
と思うものの、わたしの自殺を止めてくれたのだから、借りは返さなくてはいけないなという思いもあった。
そんなこんなで週末がやってき、わたしは新道先輩と一緒に狸小路4番街で待ち合わせをし
ゲームセンターに向かった。最近は全く行ったことがなかったけど
彼が隣にいてくれたからかあまり緊張はせずに入ることができた。
まず最初に立ち寄ったのはクレーンゲームで、彼は慣れた手付きで小さめのクマのぬいぐるみを取るとわたしに渡してくれた。
それはとても可愛らしくて、思わず抱きしめてしまった。
「それ、そんなに良かった?」
彼の言葉に、子供っぽい反応をしてしまった恥ずかしさが遅れて込み上げてきて
「あ、これは…その、可愛くてつい……」
と返すと、彼は微笑んで言う。
「ならよかった!ていうかなんか親近感感じるな、葵ちゃんもやっぱ同じ人間?っていうか、女の子だなーってさ」
よくわからないけど、今少しだけ体温が上がった気がした。
「そだ、次はあっちも行ってみようぜ!」
そう言って私の手を引いていく。
「え?ちょ、ちょっと……!」
それからわたしたちは色んなゲームをしたが
彼の言う〝楽しい〟という感覚がわたしにも少しだけ分かったような気がした。
気のせい、だろうけど。