ふと、鍵穴があるタンスが目に入った。
開けようとしても案の定鍵がかかっていて
開かない。
「どっかに鍵無いかな…」
ぶつぶつと独り言を零しながら、
部屋の至る所の引き出しを開けていく。
と、押し入れの奥の方に何かが挟まっているのが見えた。
「何これ?」
引っ張り出して見てみるに、
どうやら巻物と御札のようなものだった。
中身を開くとたった1文しか書いていなかった。
その1文とは『藍と紅の境目は藤なり。』とだけ。
御札には『季を繋ぐ』と書いてある。
さっぱり意味が分からない。
後で寒珋に聞いてみよう。
そんなことを考えながらごろりと床に寝転ぶ。
と、先程の鍵がかかって開かなかったタンス。
の裏に何か仕掛けがあるようだった。
3つの四角にそれぞれ『東』『中』『西』と
書いてあるくぼみがあった。
その上には取り外し可能でどこかにはめれそうな色盤。
もしかしてこれ、さっき見た巻物のこと?
そう思いながら、
西に『藍』
中に『藤』
東に『紅』
と入れ込んだ。
が、何も起きなかった。
それどころか開く気配もしない。
「やっぱり開かないのかな〜…」
そう声を漏らしながら西と東の色盤を入れ替える。
と、カチャリと音がし、タンスが開いた。
「え、」
「逆だっただけ…」
ガクリと肩を落としながらも、
中に何が入っているのかを期待する。
タンスの中を恐る恐る覗くと、
中には氷漬けになった紅葉が入っていた。
近くにはメモ用紙のようなものもあり、
『秋の化石』と書いてある。
「秋の化石?」
手に取って確認しようと思ったが、
壊れたとき寒珋に何か言われそうで怖かったから触るのはやめた。
なんか暇だな〜…
探検でもしよっかな?
いや、そうしよう!!
そう思い、私はルンルンな足取りで部屋を出る。
「へ〜…これどうなってんだろう…」
氷柱のようなヒンメリのような何かが
庭に飾られていた。
触るとひんやりしている。
そんな風に色々小突いてみる。
すると、綺麗で儚い音色が静かに響いた。
「綺麗…」
ふと、目の隅に映る白い木。
見てみるとダイヤモンドダストの時に見ることが出来る、
氷の粒が生るような木があった。
どことなくそれは桜の木のように見えて、
とてつもなく綺麗だ。
他にも色んな冬景色を見ることが出来た。
それを見ながら私は昔、
おばあちゃんが歌っていた唄を思い出し、
歌った。
「汝の下に降りたまえ。
我らは王を待ち望む。
今か今かと待ち望む。
今宵は月も見えぬ日々。
『舞いらんせ』の一言で交わす声と人の子よ。
月の灯火とこの唄と。
互いが交わす時の中ほどに目覚める真の龍」
そう歌っていると急に目の前が紫色に覆われた。
「え…?」
そんな声を漏らしながら辺りをキョロキョロと見回す。
遠くには社のようなものが見え、
正面には紫の木々。
右側には青の木々。
左側には赤の木々。
そして、よく見えないが多分奥側に黄金色の木々が生えていた。
しかもそれぞれ2本ずつ生えている。
正面に生えている紫色の木々。
なんか藤の花と桜が合体したような木に見える。
だけど、
足元はさっきまで歩いていた廊下の姿が。
何だか訳が分からなくなったそのとき、
目の前が大きく揺れ、
私は尻もちを着いてしまった。
瞬間、紫色の景色は消え、
ただ見えるのは先程居た寒珋の屋敷の廊下だった。
「い..っ….」
どうやら尻もちを着く際に、
手首を捻ってしまったらしい。
その時、
遠くから酷く焦ったような顔をした寒珋が私のところにすっ飛んできた。
「小娘!!、何があった?」
そんな心配声を私に向けてきて逆に私が驚く。
もっと冷たい人だと思っていたのに、
案外人間らしい温かさは持っているようだ。
「唄を歌ってたら急に紫色の景色が…」
「紫色の景色?」
「うん、藤の花みたいな…」
そう私が言うと寒珋の顔が真っ青になる。
「その唄、もう1回歌ってみれないか?」
「確認したいことがあるんだ」
そう言われ、私は唄を歌おうと口を開いた。
が、
そんな声が頭の中に響いたと同時に
目の前が暗転した。
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