テラーノベル
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この世界は喜怒哀楽無の国に分けられている。
喜の国の住民はいつも喜び、怒の国はいつも短気ですぐ怒る。哀の国はいつも臆病な態度ですぐ泣く。楽の国はいつも楽しんでいる。そして無の国は何もない。感情も心も全て。
第1部
2人は出会い そして物語は幕を開ける
「くそっ….しくった。まさかこの私が1発喰らうことになるなんて….予想外だわ」
そう言ってサイドテールをした少女は歩きながらそう呟く。まるで誰かと争った後のようだ。右腕から血がぽたぽたと流れている。
「よりによって利き腕….左腕とかならまだしも….まぁ足とか目とか致命傷な所じゃなかっただけマシだったのかしら。….ちょっと….疲れた」
疲れ切った表情をして、その場に少女は座り込む。そしてゆっくりと目を閉じた。
少女が目を閉じた数時間後。妙な影が少女の方へと近づいてきた。そして、少女の目の前に立ち腰を下ろした。
「おや?ここに人なんて珍しいこともあるんですね」
そう言って少年は少女の顔を覗き込む。
「うわ….凄い傷….私が居なかったらどうしてたんでしょうか」
そう言って少年は少女に触れ、治療をする。見知らぬ少女を助けるなんて、とんだ変わった優しい奴だ。
「(誰….?)」
少女は心の中でぽつりと呟く。そして少女は躊躇いながらもゆっくりと目を開ける。
「おや….随分早いお目覚めですね。いや、私がここにやって来るのが遅かったんでしょうか。どうも、おはようございます」
少年はそう独り言を交えながら言う。
「あんた誰よ」
少年の腕を振り払って少女は言う。冷酷な睨みつけるような眼差しで相手を見る。
「そう言う時って自分から名乗るものじゃないんですかねぇ….しかも治療してくれた相手を睨みつけるなんて….とりあえずは元気そうで安心しましたよ」
少年は言う。全くその通りだ。治療してくれた相手を睨みつけるなんて普通の人がやる事ではない。つまりは少女はなんらかの事情があるのだろう。
「あんたが治療してくれたの?頼んでもいないのにもしかしたらあんたを殺すかもしれないのに。呑気な奴ね。それに、私が名乗る訳ないじゃない。そんな名乗るなんて必要ない事よ」
そうやって少女は偉そうに言った後に少年の背後へと回り込み、短剣を振りかざす。
それを少年は軽々と避ける。
「ほほう….そう言うタイプですか…..なるほどなるほど。じゃあ名乗って貰えないならせめて私だけでも名乗りましょうかね。私の名前はほわりと言います。適当にほわさんとでも呼んでもらえたら嬉しいですね」
そうやって少年はほわりと名乗る。
「呼ぶ訳無いじゃない。しかも何私の攻撃をすんなり避けてるのよ。きみが悪いわ」
少女は言う。ほわりと名乗る少年は少女の唐突な攻撃を避けたと思うに相当な実力者だろう。
「そんな態度ばかりとっていますが….そろそろそちらも自己紹介するべきではないのでしょうか」
ほわりは言う。
「見知らぬあんたにそんな事言われたくないし名前を名乗りたくともあんたと喋りたくともないけど….とりあえず適当にななしと名乗りますかね」
そう言って少女はななしと名乗る。喋りたくとも名乗りたくとも無いのに名乗るとは矛盾である。見知らぬ人だとは言え名乗りたくとも喋りたくともないと言うのは失礼に値するだろう。
「ななし….私は良い名前だと思いますよ」
「良い名前かなんて何も聞いてないわよ!しかも私はって何!?あたかも他の人は変だと思うみたいな….初対面で嫌味を吐くなんて失礼ね」
ななしは勢い任せにそう言う。
「痛ッ….」
ななしの右肩に激痛が走る。
「まだ治療してる途中ですよ。完治なんかこれっぽちもしてないですしそんな簡単に1日で完治するわけないですよ。ゆっくりしていて下さい。後、失礼がどうとか言いましたけど初対面で私に短剣を向けたのは誰でしたっけ」
ほわりは呆れた様にそう言う。まるで小さな子供を看病するかのようだ。
そうほわりが言った後にななしは右肩を見る。どうやら本当に治療してくれていた様だ。右肩に包帯が巻かれている。
「さぁ誰なんでしょうねそんな失礼な物騒な奴は。それに、なんで見知らぬ私にそこまでするのよ。側から見て変よ」
ななしはたぶらかすようにそう言った後に質問した。
「なんとなく….ですかね。何か良いことが起こりそうだったので」
にっこりと微笑んでほわりは言う。何を考えているのか全く読めない。
「何よそれ。それににやけちゃって、変ねあんた」
「変….ですか….褒め言葉として受け取りますよどうも」
「そんな事褒め言葉として受け取るなんてやっぱり変ね。それともここ….頭がお花畑なのかしら?それなら納得ね」
ななしはほわりの頭をつつきながらそう言う。まるで小さな子供をおちょくっているかのようだ….側から見て気分の良いものではない。
「で、私はそろそろ出かける訳。あんたみたいな見知らぬ人を治療するほど暇じゃないの。残念だけど早くどっか言ってくれる?」
そっけない態度でななしは言う。大事な約束や待ち合わせがあるのだろうか。
「それはそれは。すみませんでしたね。ところでどこへ行くんですか?」
ほわりは不思議そうに聞く。
「あんたに教える必要は無いわ….けどここで会ったのも何かの縁….なのかしらね教えてあげても良いわよ」
さっきまでの堂々とした声とは打って変わり、弱々しい声でななしは言う。
「この世界を終わらせに行くのよ」
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