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第2話 魔法のペンライト
放課後。
ユウトはランドセルを机の横へ置くなり、宿題より先にタブレットを開いた。
ランドセルの口は半分開いたまま。
算数のプリントが少し飛び出している。
けれど、それを気にする様子はなかった。
今日、レンから送られてきた動画を見る方が先だった。
タイトルは短い。
「この振り方やってみて」
再生時間は四十七秒。
映っているのは、どこかの公園らしい。
手ブレがひどく、撮影している人の顔も映らない。
画面の中央には一本のペンライト。
持っている人が、それを左右へ振る。
一度止める。
短く点滅。
また振る。
今度は下から上。
数秒後。
画面の端にある水たまりへ、小石が投げ込まれた。
コン。
音がした。
小石は沈まなかった。
水面で一度跳ねて、横へ転がった。
動画を撮っている人が笑う。
「固まった、固まった!」
そこで動画は終わった。
ユウトはすぐ最初から再生した。
ペンライト。
水たまり。
小石。
三回見る。
四回見る。
五回目は速度を落とした。
やっぱり、水面で小石が跳ねている。
編集にも見える。
薄い板でも置いているのかもしれない。
コメント欄を開いた。
「できた」
「できない」
「型番違うと無理」
「うちのやつ音鳴ったんだけど」
「作り物」
「sg3でやったら違うの出た」
「q1-1持ってる人試して」
その文字で、ユウトの指が止まった。
q1-1。
何かの型番らしい。
さらにコメントを読む。
そこに妙なサイト名が何度か出てきた。
幻場.com。
検索しても、それらしいページは出てこなかった。
動画の概要欄にもリンクはない。
コメントを遡っていくと、一件だけ短い文字列が残されていた。
押す。
読み込みに少し時間がかかった。
現れたページには、
幻場.com
と書かれていた。
「……なにこれ」
通販サイトだった。
自動販売機。
知らない地形。
ロッカー。
階段。
公衆電話。
いろいろな商品が並んでいる。
けれど、普通の通販サイトとは少し違う。
物そのものを送ってくる商品もあれば、場所や操作方法だけを販売している商品もあるらしい。
ユウトは検索欄へ、
ペンライト
と入力した。
一件。
商品ページが表示された。
魔法のペンライト。
価格、五百八十円。
在庫、五百。
「高っ」
小学生にとって五百八十円は、軽く試す値段ではない。
それでもページを閉じなかった。
概要を読む。
対象となる型番。
q1-1。
q11+。
sg3。
「ほんとにあるの?」
ユウトは動画を止めた。
家の中を見回す。
そして、姉の部屋を見る。
扉は閉まっている。
ミナはまだ学校から帰っていない。
ユウトは椅子から立った。
廊下へ出る。
姉の部屋の前。
扉を少し開ける。
「借りるだけだから」
誰に言うでもなく、小さく呟いた。
部屋には本棚と机があり、壁際にはライブでもらったらしい小物が並んでいる。
机の引き出し。
以前、ミナがペンライトを入れていたのを見たことがある。
一段目。
文房具。
二段目。
ノート。
三段目。
あった。
何本かまとめて入っている。
ユウトは一本取り出した。
少し重い。
持ち手には細かな傷がある。
何度も使われてきたのだろう。
ボタンを押す。
光る。
もう一度。
光り方が変わる。
「これかな」
底を見る。
小さな文字が並んでいる。
メーカー名。
電池についての表記。
その下。
MODEL q1-1
ユウトの口が開いた。
「あるじゃん」
すぐレンへ連絡した。
三十分後。
近所の公園。
前日に降った雨が、まだ地面の低いところへ残っていた。
ユウトはペンライトを持ってベンチに座っている。
隣ではレンがスマートフォンを覗き込んでいた。
「本当にお姉ちゃんの?」
「そう」
「勝手に持ってきて大丈夫?」
「あとで戻す」
「怒られそう」
「壊さなきゃ平気」
レンはペンライトを受け取った。
「ちょっと重いな」
「古いやつなんじゃない?」
底を見せる。
q1-1。
レンの目が大きくなる。
「マジじゃん」
二人は顔を見合わせた。
動画だけなら、作り物だと思えた。
型番も適当に書いたものだと思えた。
でも、目の前に同じ型番がある。
それだけで急に遊びらしくなった。
幻場.comの商品を購入したのはレンだった。
二人で半分ずつ出すことにした。
購入後、いくつかのコードが表示された。
色の指定はない。
点滅時間。
止める時間。
振る方向。
振る回数。
どれも細かい。
最初に試すのは、動画と同じものだった。
レンがスマートフォンを構える。
「撮るよ」
「待って。順番確認」
ユウトは画面を見る。
一秒点灯。
短く二回。
右。
左。
止める。
上。
もう一度点灯。
「覚えた?」
「たぶん」
「たぶんじゃダメじゃね?」
「見ながらやる」
水たまりの前に立つ。
ユウトはボタンを押した。
点灯。
消す。
短く二回。
右。
左。
止める。
上。
最後に点灯。
二人は水たまりを見る。
何も起こらない。
「はい」
レンが言った。
「失敗」
「早いって」
ユウトは近くの小石を拾った。
水たまりへ投げる。
ぽちゃん。
普通に沈んだ。
「動画、作り物じゃん」
「もう一回」
二回目。
失敗。
三回目。
失敗。
四回目。
ユウトの振り方が速すぎて、途中から二人とも笑ってしまった。
「絶対違う!」
「じゃあレンやって」
「俺?」
「半分払っただろ」
レンが受け取る。
画面とペンライトを交互に見ながら動かす。
ユウトより丁寧だった。
点灯。
停止。
点滅。
右。
左。
止める。
上。
最後。
二人は黙った。
水たまりは普通に見える。
レンが小石を投げた。
コン。
小さな音。
二人とも動かなかった。
小石が水面に乗っている。
沈まない。
「……え?」
ユウトがしゃがんだ。
指を伸ばす。
水面に触れる。
冷たい。
でも指が入らない。
「固い」
「うそ」
レンも触った。
表面だけだった。
薄い膜のようなものが張っている。
氷に似ている。
けれど、冷たさは水とほとんど変わらない。
ユウトが少し強く押す。
ぱき。
指が入った。
一瞬で元の水たまりに戻った。
小石が沈む。
二人は顔を見合わせた。
「できた」
「できたよな?」
「動画と同じ!」
ユウトはペンライトを握り直した。
さっきまで古いライブ用品だったものが、急に別の道具に見えた。
「他のやろう」
「水もう一回じゃなくて?」
「いっぱいある」
商品ページを動かす。
次のコード。
説明は短かった。
局所的な気流変化。
「風?」
「たぶん」
二人は広い場所へ移動した。
木の葉がほとんど動いていない。
風は弱い。
今度は二人で操作を確認する。
長く点灯。
右へ二回。
停止。
短く三回点滅。
下。
上。
「いくよ」
ユウトが振る。
一つ。
二つ。
三つ。
最後。
何もない。
「あれ?」
その瞬間。
二人から少し離れた場所に落ちていた葉が、一斉に転がった。
ざざざっ。
「うわ!」
レンが飛び退く。
風は二人のところには来ない。
五メートルほど先。
地面に落ちていた葉だけが、小さな円を描くように回っている。
三秒。
四秒。
止まった。
「場所違うじゃん」
ユウトが笑った。
「こっちに来ると思った」
レンは葉のところへ走った。
「もう止まってる」
「成功?」
「たぶん」
商品ページには、
発生地点に軽度のズレあり
と書かれていた。
二人はそれを見て、また笑った。
「ちゃんと書いてる」
「じゃあ本物じゃん」
次。
音。
ペンライトには音を鳴らす機能がない。
少なくとも、ミナが使っているところで音を聞いたことはなかった。
「これやろう」
コードは少し長かった。
点滅。
左。
左。
右。
停止。
下。
短く点灯。
レンが操作する。
最後まで終わる。
静か。
「失敗?」
ピッ。
二人ともペンライトを見る。
ピッ。
電子音。
短い。
玩具のボタン音のようだった。
「鳴った!」
「スピーカーあるんじゃない?」
ユウトは持ち手を見る。
穴らしいものはない。
レンがボタンを押す。
光るだけ。
何度押しても音は出ない。
「もう一回コードやって」
同じ操作。
今度は、
ピー。
少し長い音が、公園の反対側から聞こえた。
二人はそちらを見る。
誰もいない。
遊具だけ。
「ペンライトからじゃないじゃん」
レンの声が少し小さくなった。
「でも鳴った」
「なんで向こう?」
「ズレ?」
ユウトは楽しそうだった。
レンは遊具の方を見たまま動かなかった。
「次、もっと普通のやつにしよう」
「普通のやつなんてある?」
商品ページを探す。
弱い熱。
それを見つけた。
「これ」
「火?」
「熱って書いてる」
「燃えたらどうする?」
「現象強度、弱だって」
ベンチの上ではやらないことにした。
地面の開けた場所へ移動する。
周囲に人がいないことを確認する。
ユウトが操作した。
今度は長い。
途中で一度間違えた。
やり直す。
二回目。
最後の点滅。
何も起こらない。
二人で待つ。
十秒。
「ダメじゃん」
レンが言った直後。
「あつっ」
ユウトがペンライトを落としかけた。
持ち手の一部が温かくなっている。
熱いというほどではない。
冬に使うカイロより少し弱いくらい。
「そこ?」
レンが触る。
「あったか」
「火じゃないな」
「説明と違うじゃん」
「熱は出た」
しばらくすると元へ戻った。
二人はすっかり夢中になっていた。
水。
風。
音。
熱。
どれも大げさではない。
映画のようなことは起きない。
水たまり全部が凍るわけでもなく、公園全体に突風が吹くわけでもない。
だからこそ面白かった。
本当に少しだけ変なのだ。
「これ、学校持っていったら?」
レンが言う。
「バレる」
「音くらいなら」
「先生の後ろで鳴らす?」
二人で笑う。
「でも姉ちゃんのだから」
「買えば?」
「同じ型番あるかな」
中古品なら見つかるかもしれない。
ユウトは急に欲しくなった。
自分専用なら、もっと試せる。
百回でも。
家の中でも。
旅行先でも。
コードも自分で作れるかもしれない。
「自分で順番変えたらどうなるかな」
ユウトが言った。
「幻場に載ってないやつ?」
「うん」
「壊れるんじゃない?」
「光らせるだけじゃん」
レンは少し考えた。
「じゃあ適当にやってみる?」
ユウトは商品ページを閉じた。
自分たちで決める。
短く二回。
右。
上。
右。
長く点灯。
左。
停止。
もう一度左。
「何が起きると思う?」
「分かんない」
「水とか?」
「草が伸びるとか」
「そんなのある?」
「知らん」
ユウトが振る。
短く。
短く。
右。
上。
右。
長く点灯。
左。
停止。
左。
終わり。
二人は周囲を見た。
水たまり。
変化なし。
葉。
動かない。
音。
聞こえない。
ペンライト。
温かくない。
「何もない」
レンが言った。
「やっぱ載ってるコードじゃないとダメか」
ユウトはもう一度やった。
同じ。
何も起きない。
三回。
四回。
変化なし。
「帰ろう」
レンが時計を見る。
「もうこんな時間」
「うわ」
遊び始めて一時間以上経っていた。
ユウトはペンライトの電源を切った。
「明日またやる?」
「雨だったら水のやつやろう」
「水道でもできるんじゃない?」
「家でやってみて」
「姉ちゃんに見つかる」
二人は笑いながら公園を出た。
家へ戻ると、ミナはリビングにいた。
ユウトは玄関で靴を脱ぎながら、鞄の中のペンライトを意識した。
「おかえり」
「ただいま」
普通に返す。
そのまま自分の部屋へ行こうとした。
「ユウト」
止まる。
「なに?」
「私の部屋入った?」
一瞬だけ黙る。
「……ちょっと」
「何したの?」
「ペンライト借りた」
ミナが振り返った。
怒っているというより、呆れている顔だった。
「勝手に持っていかないでよ」
「ごめん」
「壊してない?」
「壊してない」
これは本当だった。
たぶん。
「どれ?」
ユウトは鞄から出した。
ミナが受け取る。
ボタンを一度押す。
普通に点灯した。
もう一度。
別の光り方。
「これ、結構前のやつだから大事にしてるんだけど」
「ごめんって」
「今度から聞いて」
「うん」
ミナはペンライトを持って部屋へ戻ろうとした。
ユウトは慌てた。
「今日だけ貸して」
「なんで?」
「ちょっと試したいことある」
「何を?」
「光らせるだけ」
ミナはしばらく弟を見た。
「今日だけね」
「ありがと」
戻ってきたペンライトを受け取る。
その瞬間。
ユウトは少しだけ違和感を覚えた。
重い。
公園で使っていたときより、ほんの少し。
気のせいだと思った。
何度も振ったから腕が疲れているだけだろう。
夕食。
風呂。
宿題。
いつもの夜が過ぎる。
宿題をしながら、ユウトは机の端に置いたペンライトを何度も見た。
試したい。
でも家の中で風が出たり、変な音が鳴ったりしたら面倒だ。
ミナに気付かれる。
明日まで待つことにした。
ペンライトは横向きに置いた。
ボタンがこちらを向いている。
宿題を終える。
タブレットを開く。
幻場.com。
魔法のペンライトの商品ページを見る。
対象型番。
q1-1。
q11+。
sg3。
製造元についての短い記載もある。
製造元不明。
販売会社は数年で消失したという記録あり。
ユウトは首を傾げた。
「会社分かんないの?」
ペンライト本体には、メーカーらしい文字が残っている。
検索してみる。
似た名前の会社は出る。
けれど、ペンライトを作っていたという情報がほとんどない。
昔の通販ページらしい検索結果を押す。
ページは消えている。
中古品を検索する。
q1-1。
数件出た。
写真を見る。
姉の物と同じ。
値段は高くない。
買えなくはない。
お小遣いを貯めれば届く。
ユウトは一件をお気に入りに入れた。
そのとき。
ペンライトが一度だけ光った。
「ん?」
見る。
消えている。
触っていない。
机が揺れたのかと思い、ボタンを見る。
普通。
「電池?」
古いから接触が悪いのかもしれない。
ユウトは気にせずタブレットへ戻った。
午後十時半。
布団に入る。
ペンライトは机の上。
部屋の照明を消す。
カーテンの隙間から、外の街灯が薄く入っている。
目を閉じる。
今日の公園を思い出す。
固まった水。
転がった葉。
何もないところから鳴った音。
明日は別のコードを試したい。
自分で作ったコードも。
あれだけ何も起きなかったのだから、順番には何か決まりがあるのだろう。
意味があるのかもしれない。
そこまで考えたところで、眠気が勝った。
どれくらい経ったか分からない。
ユウトは目を開けた。
何かが光った気がした。
部屋は暗い。
時計を見る。
午後十一時十二分。
寝てからそれほど経っていない。
気のせい。
目を閉じる。
光。
今度は分かった。
机の方。
ユウトは上半身を起こした。
ペンライトが光っている。
一秒ほど。
消える。
また光る。
短く。
短く。
ユウトは布団の中で動かなかった。
故障。
そう思う。
古い物だから。
電池の接触がおかしくなっている。
でも。
光り方に見覚えがあった。
短く二回。
消える。
右へ振る。
そこで止まるはずだった。
ペンライトは机の上に横たわっている。
動かない。
当然だ。
自分で動くわけがない。
光だけ。
次。
長く点灯。
消える。
ユウトの喉が小さく動いた。
「……昼のやつ」
最後に自分たちで作ったコード。
何も起こらなかった操作。
短く二回。
右。
上。
右。
長く点灯。
左。
停止。
左。
振る動きはない。
けれど点滅の間隔だけが一致している。
ユウトは布団から出た。
机へ近づく。
ペンライトは止まった。
手を伸ばす。
触れる。
少し温かい。
昼間の熱のコードを使ったときほどではない。
人がしばらく握っていた程度。
「姉ちゃん?」
部屋の外を見る。
扉は閉まっている。
誰もいない。
ユウトはペンライトを持ち上げた。
軽く振る。
何も起こらない。
ボタンを押す。
普通に点灯する。
「なんだよ」
故障。
やっぱり故障だ。
机へ戻す。
布団へ戻ろうとした。
ピッ。
電子音。
ユウトの足が止まる。
公園で聞いたものと同じ。
でも今回は、ペンライトからではなかった。
机の下。
ピッ。
ユウトはしゃがんだ。
何もない。
机の下には学校用の鞄と、ごみ箱。
ピッ。
今度は後ろ。
振り返る。
本棚。
何もない。
「……やめろよ」
誰に言ったのか、自分でも分からなかった。
音は止まった。
静かになる。
ユウトはペンライトを持ったまま布団へ戻った。
机には置きたくなかった。
でも手元に置くのも嫌だった。
結局、床へ置いた。
布団をかぶる。
翌朝。
目を覚ましたユウトは、最初に床を見た。
ペンライトがある。
昨夜置いた場所。
何も変わっていない。
夢だったのかもしれない。
拾い上げる。
電源は切れている。
朝食のあと、ミナへ返した。
「もういいの?」
「うん」
「何してたの?」
「遊んでただけ」
ミナはペンライトを受け取った。
底を見る。
「これ、懐かしいな」
「いつ買ったの?」
「買ってないよ」
ユウトが顔を上げた。
「え?」
「前にライブ行ったとき、会場の近くでもらったやつ」
「誰に?」
「知らない人」
ミナは思い出そうとするように少し上を見る。
「配ってたんじゃない? 何人か持ってたし」
「店じゃないの?」
「たぶん」
ミナはボタンを押した。
普通に光る。
「ずっと使ってるけど、まだ動くんだよね」
「何年前?」
「四年くらい?」
ユウトはペンライトの底を見る。
q1-1。
「これ、音鳴ったことある?」
「ないよ」
「勝手に光ったことは?」
「ない」
ミナが不思議そうな顔をする。
「壊した?」
「壊してない」
「ならいいけど」
ミナは自分の部屋へ戻っていった。
ユウトはしばらく廊下に立っていた。
学校。
休み時間。
レンに昨夜のことを話した。
「絶対壊れてるじゃん」
「でも昼と同じだった」
「点滅だけだろ?」
「音も鳴った」
「家電じゃない?」
「机の下から鳴った」
レンの顔から少し笑いが消えた。
「今日やる?」
「やる」
「まだやるの?」
「だって何だったか知りたいじゃん」
「俺はちょっと嫌なんだけど」
そう言いながら、レンは断らなかった。
放課後。
二人は昨日の公園へ向かった。
ただし、ペンライトはない。
ミナの部屋へ戻したからだ。
「どうすんの?」
「見るだけ」
昨日、自分たちで作ったコードを試した場所。
何も起こらなかった場所。
そこを確かめる。
公園に着く。
水たまりは小さくなっている。
葉も普通。
遊具も普通。
何もない。
「やっぱ何も起きてないじゃん」
レンが言った。
ユウトは地面を見ながら歩く。
昨日、自分たちが立っていた場所。
その近く。
「あれ?」
地面に細い線がある。
一本。
二本。
三本。
土の上を、何かが擦ったような跡。
ペンライトほどの幅。
線は右へ進む。
止まる。
上へ伸びる。
また右。
長い線。
左。
少し途切れる。
そして左。
二人は黙った。
昨日作った順番。
右。
上。
右。
長く。
左。
停止。
左。
地面に残る線が、その順番とよく似ている。
「昨日、こんなのあった?」
レンが聞く。
「なかった」
「誰かがやったんじゃない?」
「誰が?」
答えは出ない。
ユウトはスマートフォンを取り出した。
幻場.comを開く。
魔法のペンライト。
価格、五百八十円。
在庫。
四百九十九。
ユウトは指を止めた。
「減ってる」
「何が?」
「在庫」
昨日は五百だった。
レンが覗く。
「誰か買ったんじゃない?」
「情報なのに?」
「五百人まで見られるとか」
それならおかしくない。
そういう販売方法なのかもしれない。
ユウトはページを下へ動かした。
備考。
昨日も読んだ文章。
使用履歴が多い個体ほど変化が出やすい傾向があります。
その下。
小さな一文。
昨日あったかどうか覚えていない。
『操作結果が遅れて発生する場合があります。』
ユウトとレンは、同時に地面を見た。
何も起きなかった。
そう思っていた。
ただ、起きるのが遅かっただけ。
何分。
何時間。
それとも。
ユウトは昨夜の時計を思い出す。
午後十一時十二分。
「帰ろう」
レンが言った。
今度はユウトもすぐうなずいた。
二人は公園を出た。
少し歩いたところで、レンが振り返る。
「なあ」
「何?」
「あれ」
ユウトも振り返った。
公園には誰もいない。
風もほとんどない。
それなのに。
昨日、局所的な風が起きた場所。
そこに落ちていた葉だけが、
ざざざっ、
と一度だけ動いた。
二人は何も言わず歩き出した。
その夜。
ミナの部屋。
机の三段目の引き出し。
何本かのペンライトが並んでいる。
一番奥。
q1-1。
誰も触れていない。
家の中は静かだった。
短く光る。
一回。
二回。
消える。
少し間を置く。
また光る。
昼間には誰も入力していない順番だった。
一つ。
二つ。
三つ。
長く。
停止。
最後に一度だけ点灯する。
その光が消えたあと。
隣に置かれていた別のペンライトが、
一度だけ、
同じ間隔で光った。
刈り上げお団子
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コメント
1件
「読み終わったよ…」 この話、すごく好き。なんかね、不思議でちょっと不気味な空気感がじわじわ迫ってくる感じがたまらなかった。ペンライトが夜中に勝手に光ったり、音が鳴ったりするところ、すごく怖かったけど同時に引き込まれた。 特に「操作結果が遅れて発生する場合があります」って一文、ゾッとした…。自分たちで適当に作ったコードが後から地面に跡を残してたの、何か知らないけどすごく気持ち悪くて面白かった。 ユウトとレンのやりとりも可愛くて、小学生のワクワク感がすごく伝わってきた。でも最後、在庫が減ってたり、他のペンライトに光が移ってる描写とか、まだまだ続きがありそうで気になるなあ…。 読んでる間、ずっとドキドキしてたよ。続きも楽しみにしてるね🌙