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このおはなしすっごくささる…_(:3 」∠)_ ((((
洗濯物を畳み終わって、
すちは床に座り込んだ。
陽が差し込んで、
部屋が少しだけあたたかい。
みことは、ソファに寄りかかって、スマホを見ている。
(……今なら、言えるかも)
すちは、膝の上で指を絡めた。
「……みこと」
「ん?」
視線だけ向けてくる。
その“ちゃんと聞くよ”って姿勢に、
すちは一瞬、言葉を失う。
「……“必要”ってさ」
みことは、スマホを置いた。
「うん」
それだけ。
促さない。
遮らない。
すちは、少し息を吸って続ける。
「……前はさ」
言葉を選ぶ。
「……何かできないと、ダメだと思ってた」
「うん」
「役に立つとか、言われるとか」
少し、笑ってしまう。
「……じゃないと、いらないって」
みことは、黙って聞いている。
すちは、床を見つめたまま言った。
「……でも今」
少し、困ったように眉を寄せる。
「……何もしてないのに」
「……ここにいて」
「……なでられて」
声が小さくなる。
「……それで、嬉しいのって」
顔が、熱くなる。
「……それって、なに?」
みことは、少し考えた。
すぐに答えない。
その“間”が、
すちにはありがたかった。
「……必要ってさ」
みことは、ゆっくり言う。
「使われることじゃない」
すちは、顔を上げる。
「……うん」
「選ばれること、だと思う」
すちは、目を瞬かせた。
「……選ばれる」
「理由がなくても」
みことは、少しだけ照れたように視線を逸らす。
「一緒にいたいって、思われること」
その言葉が、
胸の奥に、すとんと落ちる。
(……あ)
「……じゃあ」
すちは、確認するみたいに言った。
「……俺は、今」
「……選ばれてる?」
みことは、即答だった。
「選んでる」
その言い方に、
すちは、思わず笑ってしまう。
「……なにそれ」
「事実」
「……重い」
そう言いながら、
すちは、みことの腕を軽く叩いた。
みことは、わざとらしく「いって」と言う。
「……大げさ」
「ひどいな」
そう言いながら、
みことは、すちの頭に手を置く。
なでる。
いつもより、少し雑。
「……やめ」
「さっき、嬉しいって言ってたじゃん」
「……今は、じゃれの方!」
すちは、みことの手を掴もうとして、
逆に、引き寄せられる。
「わっ」
バランスを崩して、
すちは、みことにもたれかかった。
一瞬、静止。
近い。
近すぎる。
「……」
「……」
先に視線を逸らしたのは、すちだった。
「……離れて」
「嫌?」
「……嫌じゃないけど!」
みことは、小さく笑って、
ちゃんと距離を取った。
でも、手は、離さない。
「……なあ、すち」
「なに」
「“必要”ってさ」
さっきと、同じ言葉。
でも、今度は少し違う。
「重たい言葉だと思わなくていい」
すちは、みことの指を見つめる。
「……うん」
「今は」
みことは、柔らかく言った。
「一緒に笑えるなら、それでいい」
すちは、胸の奥が、じんわりするのを感じた。
(……ああ)
(……これか)
「……じゃあ」
すちは、小さく言う。
「……今日は、俺が選んでもいい?」
みことは、眉を上げた。
「何を?」
すちは、少し照れながら言った。
「……一緒に、ゲーム」
みことは、吹き出した。
「はいはい、了解」
その笑い声を聞いて、
すちは思った。
必要とされるとは、、
誰かと、同じ時間を選び合うこと。
その意味を、
少しだけ、理解し始めていた。
午後。
ゲームの画面が、少し揺れた。
原因は、
すちが、無意識にみことに近づいていたから。
「……ちょ、すち」
「え?」
言われて、はじめて気づく。
肩が、触れてる。
いや、触れてるどころじゃない。
半分、もたれてる。
「……あ」
慌てて離れようとして、
逆にバランスを崩す。
「わっ」
そのまま、
みことの腕に捕まった。
一瞬。
時間が、止まる。
近い。
顔が、近い。
呼吸の音が、分かる距離。
「……」
「……」
空気が、変わる。
「……すち」
みことの声が、少し低い。
「……近くない?」
すちは、頭が真っ白になった。
(……ち、近い)
(……でも)
(……離れたくない)
矛盾が、胸の奥で暴れる。
「……ごめん」
そう言いながら、
離れようとする。
でも。
みことの手が、
すちの背中に回った。
「……待って」
「……え」
軽く。
でも、はっきりと。
引き止められる。
心臓が、うるさい。
「……嫌だった?」
すちは、反射的に首を振る。
「……ちがう」
「じゃあ」
みことは、少しだけ困ったように笑う。
「……このまま、いよっか」
すちは、言葉を失った。
(……このまま)
(……え、いいの)
「……みこと」
声が、かすれる。
「……距離」
「うん」
「……近い」
「うん」
肯定されて、
逆に混乱する。
「……いいの?」
「すちが、嫌じゃないなら」
すちは、ぎゅっと服の裾を握った。
(……嫌じゃない)
(……むしろ)
(……落ち着く)
「……じゃあ」
小さく、言う。
「……すこしだけ」
「了解」
みことは、
すちの頭に顎を乗せる。
軽く。
体重をかけないように。
なでる。
昨日よりも、
ずっと近い。
頭が、あったかい。
「……なでるの、好きだよね」
すちが、ぼそっと言う。
「……ばれた?」
「……うん」
「嫌?」
「……」
少し、考える。
「……好き」
言ってから、
顔が一気に熱くなる。
「……っ///」
「今、照れた?」
「言ってない!」
みことは、笑う。
その笑いが、
胸に、くる。
すちは、悔しくなって、
みことの腕を軽く叩いた。
「……からかうな」
「してないって」
「……してる」
そう言いながら、
離れない。
離れられない。
「……なあ、すち」
「なに」
「距離、近くなってるけど」
一拍置いて。
「……怖くない?」
すちは、少し考えた。
正直に、答える。
「……ちょっと」
「うん」
「……でも」
みことの服を、きゅっと掴む。
「……いなくなるより、まし」
みことは、何も言わなかった。
ただ、
すちの背中を、ゆっくり撫でた。
「……じゃあ」
静かな声。
「慣れるまで、ゆっくりでいこ」
近いまま。
すちは、胸の奥で思った。
(……これ)
(……必要、とか)
(……好き、とか)
(……まだ、分からない)
でも。
(……離れたくない)
その気持ちだけは、
もう、誤魔化せなかった。
夕方。
部屋は、いつもと同じはずなのに、
すちは落ち着かなかった。
みことは、少し離れた場所で本を読んでいる。
距離は、ちゃんとある。
それなのに。
(……さっきまで、近かった)
その記憶が、胸をざわつかせる。
(……近づいて)
(……よかったのに)
(……なんで、今こんなに)
喉が、詰まる。
「……すち?」
名前を呼ばれて、
肩が小さく跳ねた。
「……なに?」
声が、思ったより弱い。
みことは、本を閉じて、
すちの様子を見た。
「……顔」
一歩、近づいてくる。
「……どうした」
すちは、反射的に顔を背けた。
「……べつに」
でも。
目が、熱い。
瞬きをした瞬間、
視界がにじんだ。
(……やば)
「……すち」
声が、すぐそば。
逃げようとして、
立ち上がろうとする。
でも、足が動かない。
「……来ないで」
小さな声。
みことは、
ぴたりと動きを止めた。
「……ごめん」
その距離感が、
逆に胸にくる。
(……やさしいのが、怖い)
「……なんで」
すちは、下を向いたまま言った。
「……なんで、あんなに」
言葉が、続かない。
「……近くて」
喉が、震える。
「……よかったのに」
ぽろり。
一粒、落ちる。
畳に、小さな跡。
「……っ」
慌てて、袖で拭う。
でも、
止まらない。
…
音を立てない涙が、
頬を伝う。
「……怖くなった」
声が、かすれる。
「……俺」
言葉を探す。
「……慣れたら」
「……また、失うんじゃないかって」
みことは、すぐに抱きしめなかった。
ただ、
同じ目線まで、腰を落とす。
「……離れる?」
すちは、首を振った。
「……でも」
涙が、溢れる。
「……近いままなのも」
「……こわい」
矛盾。
それを、みことは否定しなかった。
「……そっか」
静かな声。
「じゃあ」
みことは、ゆっくり言う。
「今は、触らない」
一拍。
「……でも、ここにいる」
すちは、息を詰めた。
(……それ、ずるい)
「……ほんとに?」
「うん」
「……いなくならない?」
「ならない」
断言。
すちは、
指先をぎゅっと握った。
(……信じたい)
涙が、少しずつ落ち着く。
「……みこと」
「なに」
「……俺」
小さな声。
「……泣くの、きらい」
「うん」
「……でも」
一瞬、言葉に詰まってから。
「……いまは」
「……止められない」
みことは、少しだけ微笑んだ。
「止めなくていい」
距離は、保ったまま。
でも、
逃げ場は、なくさない。
その夜。
すちは、布団に入ってからも、
目が少し赤かった。
「……さっき」
「うん」
「……ごめん」
「謝らなくていい」
みことは、照明を落としながら言った。
「不安になるのは」
一拍。
「……大事にしてる証拠だから」
すちは、
目を閉じた。
胸の奥が、まだ少し痛い。
でも。
(……ひとりじゃ、ない)
涙のあとに残ったのは、
その感覚だった。