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空気清浄システムが微かなオゾンの匂いを漂わせ、ホールの隅には現代アーティストの作品で、ガラスとLEDの抽象彫刻がゆっくり回転し、光のスペクトルを生み出している
広すぎるホールに二人、定正は歩きながらコンシェルジュの佐藤に尋ねた
「・・・何を笑っているんです?」
クスクス・・・「だって・・・伊藤様・・・」
自分が笑われている原因を素早く察知した定正も少し微笑んで、二人はホールの奥へ進む、顔認証カメラが天井から定正の顔を捉え、緑のランプが点灯する
ゲートの向こうに低層階用と高層階用のエレベーターが分かれ、定正の住む上層階—45階の専用エレベーターは、別棟のように厳重だ
扉はチタン合金の鏡面仕上げで、周囲の壁はダークウォールナットのパネル張り、床にはペルシャ絨毯が敷かれ、足音を吸収する
くすくす笑う梶原がタッチパネルに指を滑らせ、45階を入力した
「このテディ・ベアは妻へのプレゼントです、決して私は※アガルマトフィリア(※人形愛好家)ではありませんよ」
クスクス・・・「とてもお似合いですわ」
じっとテディ・ベアを抱く定正は梶原を見つめた・・・その途端、彼女の心臓はドキドキし出した
「あなたは毎日こんな遅くまで働いているのですか?」
「は?・・・いえ・・・遅くと言っても・・・今日は9時までですけど・・・」
ふぅ~・・・と定正はため息をついた
「あなたのような若くて美しいお嬢さんがこんな遅くまで働くなんて感心しませんね、就労時間をもう一時間早めてもらう様に私の方からお願いしましょう、日給は今のままでね」
「伊藤様・・・」
すっと定正が梶原の手を握った
「はだかで申し訳ないが・・・今夜はこれでタクシーで帰ってください、何かあったら大変だ」
「そっ・・・そんなっ!困ります!私っ!!」
コンシェルジュの梶原の手には三つ折りの一万円札が握らされていた
「受け取ってください、それで今夜は私は安心して眠れます」
「で・・・でも・・・こんな事が上に知られたら・・・」
「あなたが黙っていれば済む話じゃないですか」
そう言って定正はテディ・ベアを抱えたままやってきたエレベーターに乗り込んだ
「あっ・・・ありがとうございますっっ!なっ何てお礼を言っていいかっ・・・」
梶原は深々と定正にお礼をした、エレベーターの扉が閉じる瞬間、定正が可愛くテディ・ベアの手を振った、途端に梶原が噴き出して笑った
―世の中にあんな素敵な男性がいるなんて・・・ああっ!奥様が本当に羨ましいっっ羨ましくてしかたがないっっ―
梶原はいつまでもぽ~っとなってその場に佇んでいた
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