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#仕事
#ざまあ
#裏切り
#モテテク
かつて、直樹の忘れ物を届けるために恐る恐る足を踏み入れた、あの大理石のロビー。
あの時、受付の女性や直樹の同僚たちが私に向けた
値踏みするような冷ややかな視線を、私は一生忘れない。
だが今日、私はその場所へ「再生担当役員」として、警備員に恭しく迎えられて入った。
「……詩織さん。本当に、あなたがこの会社を立て直すつもりですか?」
会議室で私を待ち構えていたのは
直樹を「有望な若手」と持て囃し、私の実家を潰す計画を黙認していた古参の幹部たちだった。
彼らの顔には、女、それも部下の元妻に指図されることへの屈辱が露骨に張り付いている。
「立て直すのではありません。……『清算』しに来たのです」
私は着席もせず、手元のタブレットから巨大なスクリーンに、ある資料を投影した。
それは、彼らが長年「接待費」や「予備費」として処理していた、数億円にのぼる使途不明金のリストだ。
「な……それは機密事項だぞ!」
「機密?いいえ、これは『横領』という名の負債です…高木常務や直樹がやったことだけではありません」
「あなたたちがゴルフや愛人との旅行に費やしたその1円、10円の積み重ねが、この会社を食いつぶした。私は、そのすべてを1円の誤差もなく、本人たちに返済していただきます」
「ふざけるな! 誰に向かって……」
「……黙りなさい」
私の低い声が、会議室を凍りつかせた。
かつて直樹に怒鳴られ、震えていた私の声ではない。
事実と数字を武器に持つ、執行者の声だ。
「本日付で、このリストに名前がある方全員の資産を凍結し、社内調査委員会の管理下に置きます」
「……拒否されるなら、すでに外で待機している検察の方々に、このデータを手渡すだけです。どちらを選びますか?」
幹部たちの顔が、一瞬で土気色に変わった。
彼らが何十年もかけて築いてきた地位も
プライドも、私が数分で提示した「正確な計算書」の前では、ただのゴミクズに等しかった。
「……詩織さん、君は、この会社を潰す気か……?」
「潰すのは、あなたたちという『毒』です。……この会社に残された真面目な社員と、私の父のような被害者のために、あなたたちの退職金、自社株、不動産、すべてを吐き出してもらいます」
私は、会議室の窓から外を眺めた。
遠くに見えるのは、直樹が収容されている拘置所がある方向だ。
直樹は、この腐った組織の一部であることに酔いしれ私を支配することで「強者」になったつもりでいた。
でも、本当の強さは、真実から目を逸らさないこと。
「……作業を始めなさい。一分一秒の遅れも、利息として計上します」
私は冷徹に言い放ち、会議室を後にした。
廊下ですれ違う若手社員たちが、驚きと、どこか期待の混じった目で私を見送る。
私の家計簿は、今や一つの巨大企業の運命を書き換えていた。
【残り63日】