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──矢代チーフは、たぶん話題になっていることに気づいているはずなのに、数日が経ってもキーホルダーを一向にはずす気配がなくて、それがよけいに気落ちする要因にもなっていた。
いくらプラスに考えようとしても、チーフ自身の本心が何一つ知れないことには、頭の中ではマイナスイメージがただただ膨らむばかりだった。
気持ちはいつまでたっても晴れなくて、今日は早めに仕事を切り上げて帰ろうと思った。だいたいの作業の目処がついたところで、カバンを手にエレベーターホールへ向かうと、間の悪いことに当の矢代チーフと出くわしてしまった。
「あっ、チーフも、今からお帰りですか……?」
なんとなく気まずさを孕んで尋ねた。
「ああ、君もか? だったら駅まで一緒に行こうか」
「ええ、はい……」
気まずさを拭い切れないままで返す。乗り込んだエレベーターの中で、ちらりとチーフのカバンに目をやると、あのミコのキーホルダーが変わらずに付いていた。
エレベーターが降りていく間中、聞くべきか聞かざるべきかをずっと思い悩んで、エントランスへ着いた時点で、真実を確かめてみようと思い立った。
「あ、あの、チーフ……」
かけた声が掠れて、自分がどれだけ緊張しているのかが知れる。だけどこのままなんにも聞かずじまいでは、ずっとモヤモヤとしてしまいそうだったから、意を決して尋ねてみることにした──。
「……あの、どうして、キーホルダーをそこに付けているんですか?」