本堂に上がった二人の内、もじもじ恥ずかしそうにしている吹木(ふいぎ)悠亜(ゆあ)ではなく、結城(ゆうき)昭(あきら)が主に話をしていた、堂々と。
一年半前、善悪の存在、いいやハッピーグッドイーブルの生存を知った二人は、今だ謎に包まれた優しい応援者である幸福善悪という存在を語り合うべく、二人きりの飲み会、食事会を設ける事にしたのだそうだ。
何回かの出会いを重ねる中で二人は同好の士としてお互いに分かり合うと共に、厚誼(こうぎ)を深めていった様だ。
二人の距離が一気に近付いた切欠(きっかけ)は、又してもあの女性の言葉であった様である。
リリィ小池が大きな声で言った一言であった様だ。
『二人以上の会食はお控えください』
なるほど…… そう言われてしまっては、真面目な二人が外食の場に行ける筈も無い…… 仕方ないのである。
仕方なかった二人は、お互いのマンションに集まり、ウーバーが持って来てくれる料理を食べながらハッピーグッドイーブルさんの素晴らしさにグラスを重ね続ける他無かったのである。
そんな逢瀬を続けた結果、自然二人は男女の垣根を越えたのであった……
いいや、本来存在していなかった垣根を錯覚だと気が付いただけかもしれないね。
兎に角、善悪ファンの二人の間には、新しい命が授かり、可愛らしい悠亜さんの中で今現在進行中で育まれている、そういう話なのであった。
昭が言った。
「それで、是非善悪さんに僕たち二人の仲人(なこうど)、結婚の媒酌人(ばいしゃくにん)をお願いしたいと思いまして…… 失礼を承知でサプライズ! みたいなノリだったんですけどね、どうですか?」
「ど、どうですかってぇ~、第一僕チン、その、まだチョンガー、独身なのでござるしぃ……」
「そんなの関係ありませんっ! 私達のクピド、エロスはハッピーグッドイーブルさんだけなのですっ!」
吹木悠亜の言葉である。
因(ちな)みにクピドはキューピッド、エロスも同じ役目のギリシャの神様の事だ。
アスタロトがニヤリと笑って揶揄(からか)うように言う。
「善悪、キューピッドだそうだぞ? んじゃあ地母神ガイアの息子、つまり我の息子って訳か? はははは」
「アスタ! 兄様に対して失礼じゃないかぁ! この脳筋バカ!」
バアルが嗜(たしな)めていると吹木女史が善悪に確認を入れてきた。
「あのハッピーグッドイーブルさん、こちらのお二人は一体…… 同僚のお坊様でしょうか?」
善悪が自分の剃り上げた頭をペチンと叩きながら説明をする。
「いや、まあそうとも言えるのでござるが、実は弟達、いいや、弟と妹なのでござるよ~、でっかいのがアスタで小さい方がバアルでござる…… あ、それと僕チンの事は善悪で構わないでござる、長くて呼びにくいでしょ?」
「はい善悪さん…… アスタさん、と、バアルさん、です、か…… ?」
何やら腕を組んで考え込んだ様子の吹木女史であった。
クリエイター独特の集中力であろうか、自分の世界に入り込んでしまった彼女に代わって結城昭が言葉を引き継ぐのである。
「媒酌人だからご夫婦でとかそういう形式には拘(こだわ)ってはいないんですよ、式も出産が終わって落ち着いてからと思っているので是非出席して頂ければと…… 悠亜以外の原型作家や塗師の方々、後は絵師さんなんかもご紹介しますんで! どうですか?」
「むほおぉ! 絶対出席するのででござるうぅっ! 結城氏ありがとう! そしてありがとうっ!」
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