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「幽霊? ふざけないで!」
香帆と颯真のキスを見た美緒は逆上した。
「言ってることもデタラメだし。つまらないトリックでしょ」
颯真は、フワリと美緒の前に移動した。
「久しぶりやな、藤崎さん。ホンマモンやで」
「ほ、本当に佐山さんなの?」
「そうや。俺を殺したヤツに復讐するために戻ってきた」
「殺したのはホストでしょ」
「黒幕は藤崎さんやん」
美緒は表情を変えない。美しい顔で颯真を見ている。
「なぁ、俺がなんかしたか? なんで俺を殺したんや?」
「私が……、もっと早く言えば良かったのね」
「何を?」
美緒にとって人生初の『告白』だ。勇気を出して伝えた。
「私も貴方が好きなの」
颯真はポカンと美緒を見た。
香帆は頭の中を整理する。
(さっき「略奪婚」とか言ってたな)
(つまり「美緒は颯真と結婚したかった」ってこと?)
告白した美緒の感情は止まらない。
「もっと早く伝えてたら、貴方は私と結婚できたのに」
「私をあきらめて、香帆に騙されて結婚したんでしょ」
颯真は床に座り込んだ。でも少し浮いている。
「あんなぁ、さっきの話、聞いてた?」
「?」
「俺は香帆が好きやねん。誰よりも誰よりも好きやねん」
颯真はフワリと立ち上がると、香帆の前に移動した。
「香帆が俺の女や。他はいらん!」
香帆がボソリと呟いた。
「じゃあ、なぜ浮気したのよ」
「そやから、ちょっとした……、その」
「ウソよ!」
美緒はヒステリックに叫んだ。
「優しかったじゃない。いつも気遣って、アイスクリームもくれて」
「え? あぁ、コンビニの『くじ引き』で当てたヤツ」
颯真がアイスに当たった日、香帆は休みだった。
自分で食べようと思ったが、急ぎの配達が入って、美緒に渡した。
美緒は『愛情表現』と思い込んで、アイスの写真も残している。
香帆は不思議だった。
(どうして、私に言ってくれなかったんだろ)
どうやら先に颯真を好きになったのは、美緒だ。
香帆が意識する前に「佐山さんが好き」と教えてくれたら協力したはずだ。
「相思相愛と……」
「いや、勝手にそんなん思われても困るねん」
美緒はギリギリと〈歯軋り〉を始めた。
やっと状況が理解できた。
負の感情が爆発する。
「私をバカにして! 二人で私をバカにしてたのね!」
「最低! 死んで当然よ!」
常に冷静で『クレーム処理の達人』の美緒が叫び散らす。
反省も謝罪もない。
自分の思い込みを正当化し、狂ったように香帆と颯真を責め立てた。
香帆は〈意思疎通の難しさ〉を痛感した。
いつ誰に恨まれるのか? 日常には恐怖が潜んでいる。
人間は恐い。
幽霊よりオバケより、身近な人間が一番恐ろしいと思った。