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三階の階段近くにある部屋が、瑠衣に与えられた個室だった。
六畳くらいの広さの間取りに、大きな窓が一つ、窓際にはシングルベッドとチェスト、小さめのクローゼットと全身鏡、簡易タイプのドレッサーがあるだけの、シンプルな部屋で、お風呂は共用のようだ。
窓の外に目をやると、空は既に茜色に染まり、隣のホテルに行く時間が迫ってきている事を知る。
『クローゼットには、あんたが着るワンピースやドレスが数着あるから。とりあえず今日はこれから隣のホテルに行くんだから、ワンピースでも着ておきな?』
『はい。そうします』
『じゃあ、また明日』
瑠衣は一礼すると、凛華はドアの向こうへと消えた。
『はあぁ……』
一人になった瑠衣は、ベッドに腰掛けて大きなため息を吐いた。
ひとまず、何とか持参した楽器ケースをベッドの横に置いておく。
(何かこの展開、現実味がないんだけど……。『事実は小説よりも奇なり』ってヤツ?)
頭の中で考える事も放棄したいほどに、瑠衣はボーっと窓の外の景色に目を向けた。
怒涛のような一日で、既に心身ともに疲弊しているのを感じる。
残っているのは、瑠衣の処女喪失の儀式だ。
これから見ず知らずの女風経営者のイケメンに抱かれるのかと思うと、心臓がけたたましいほどに暴れ出す。
瑠衣はドレッサーに向かい、薄めにメイクを施すと、クローゼットを開け、黒ベースに白い小花のロングワンピースを手に取って着替え、全身鏡に向き合う。
普段、ワンピースなんて着ない瑠衣は、全身鏡に映し出された自分を見て、何となくワンピースに着させられている感があり、くすぐったく思った。
スマホを取り出し、時間を確認すると、時刻は十八時半になろうとしている。
(もうこんな時間か。相手を待たせないように、もう行った方がいいかな……)
瑠衣は、今一度大きくため息を吐き切った後、待ち合わせ場所である老舗高級ホテルへと足を向けた。