「凛華、どうかした」
「おはよー、律こそどうかした?」
酒井 律は瑞稀の親友で野球をしている。
背が高くガタイが良いからみんなに怖がられガチだけど案外優しい。
ただ、口下手だからあまり人には話しかけるところを見たことがない。
私の大切な友人のひとりだ。
「元気なさそうだから」
「元気はあるけど、考え事してて」
「話して」
「唐突!」
こういうところが律の面白いところで私が仲良くしようと思ったきっかけでもある。
友達思いで、思ったことをちゃんとした日本語で伝えられない。
そんなところが彼のいい所である。
「二人だけの秘密ね。 」
「うん」
言おうか迷ったが瑞稀の親友ならば何か教えてくれるかもしれないという淡い期待を抱き言うことにした。
「実はね、瑞稀のこと好きになっちゃった」
「え?」
「これ、内緒ね?」
頭の中が真っ白になった。
好きな人には好きな人がいる、らしい。
その好きな人が俺の親友。
高校に入った時、俺は口下手で上手く話すことが出来なかった。
そんな中、凛華は俺を会話の輪の中に入れてくれた。
その少しの優しさに惹かれたんだと思う。
けれど、凛華が好きなのは瑞稀だ。
俺にも瑞稀と同じように話しかけることが出来ていたら今は俺の方を向いていてくれたのだろうか。
野球が好きで入った高校には瑞稀がいたからそれが嬉しいだけだったあの頃。
自分にとって何が正解で何が不正解か分からない。
凛華を応援するべきか邪魔をするべきか分からない。
好きな人には幸せになって欲しいなんてよく言うものだと思う。
好きな人は自分が幸せにしたいに決まってる。
きっと凛華も瑞稀に対して同じ気持ちなのだろう。
諦めるにはまだ知識が足りなさすぎる。
「瑞稀はさ、彼女とか作んないの?」
「彼女?まぁ出来るなら欲しいよね、みんな」
授業中のグループワーク。
前後の席の私たちは同じ班。
4人班なのにふたりがどこか別の班に行ってしまい残った私たちで考えている。
嬉しいと素直に思った。
多分、こうやってふたりで話せるのなんて奇跡と同じ確率だから。
「好きな人とかは?いないの」
「好きな人ねぇ、どうだろ」
この反応はどうだろう。いないなら普通にいないって言うだろうしいるのかもしれない。
「ねぇどっち?」
「よく分かんない」
分からないという返答がどういう意味なのかはいまいち掴めないが、彼にはきっとそういう相手がいるのだと思う。
それが私なのか、私以外なのか。
分からない。何もかも。怖くなった。
好きな人、なのかは分からないけれど憧れの人はいる。
ひとつ上の先輩で美人で頭も良く運動神経抜群で性格も良い。
ずっと、部活中見ているだけだった。
綺麗な姿勢で打つシュートも毎日、朝早くに来て頑張る姿も素敵な人だと興味が湧いていた。
何も始まらない。
何も発展しないと思っていた。
あれは確か高一の冬頃だった気がする。
「あれ?なんでみんな来ないんだよ」
その日は学校の体育館で午後練が入っており俺はいつものように部室へ行き自主練をしていた。
ただ時間になっても誰も来ない。
不思議に思っていた俺に憧れの先輩苺華先輩が声を掛けてくれた。
「1年生?バスケ部なら今日の練習無くなったって聞いてるけど、、」
「え!本当ですか?」
「うん、連絡してみて」
「分かりました。ありがとうございます。」
その時初めて苺華先輩と話した。
思っていた通り困っていた俺に声をかけてくれる優しさ。
心を惹かれた。
そこから先輩とよく話すようになり連絡先を交換し、時々一緒に帰るようになった。
付き合うだとかそういう話にはなら無いが一緒にいるだけで幸せだと思える。
これを恋と呼ぶのだろうか。
何も分からない俺に先輩は沢山話題を振ってくれた。
先輩の話を聞くのも好きだった。
世界史の先生がとかチームメイトの人がとか先輩の他愛のない話を聞く度に先輩を知れるようで楽しくて仕方がなかった。
先輩のことをもっと知りたいと素直に思った。
ただそれだけだった。
ただ、先輩に惹かれているのは事実だと思う。
恋だとか愛だとかそんなに明確にしなければならないものなのか。
その人を思う気持ちは全て好きだし、愛だと思うから気持ちをわざわざ言葉にする必要性を感じない。
付き合いたいと思えば恋で、キスできないと思えば友情で、だなんてよく言うものだと思う。
きっと、青い実も赤くなれば何も考えることなく簡単に付き合えるしキスもできる。
高校生だからこんな恋しかできないけれど、それが間違いだとは思わない。
「いや、これ恋なのかよ」
自分の気持ちを考えては先輩のことを考える。
意外に簡単に好きだと、恋だと気付くこともある。
部屋の片隅で、風呂で、通学中で、先輩を考える。
考える時間は先輩の時間だとようやく気付いた。
付き合いたい、好きだと言って欲しい。
これも全て恋だから、なのか。
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