テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#BL
kaede🍁
36,344
#いわふか
雪月❄️
3,099
1,554
翔太の涙はなかなか止まらなかった。
ずっと我慢してきた。
ずっとひとりだった。
そう思い続けてきた時間は、たった数時間では消えない。
「……こわかった」
翔太は小さく呟く。
「みんなが、ぼくのこと忘れちゃうのが……」
その言葉に辰哉は目を閉じた。
忘れたわけじゃない。
でも――
結果として、翔太にそう思わせてしまった。
辰哉はゆっくりベッドへ近づく。
「翔太」
翔太が涙で濡れた目を向ける。
辰哉はそっと腕を伸ばした。
「抱っこしてもいいか」
翔太は驚いたように目を見開く。
最後に抱っこされたのはいつだっただろう。
もう思い出せないくらい昔だ。
翔太は少し迷ったあと、小さく頷いた。
辰哉は看護師に確認してから、点滴やチューブに気をつけながら慎重に翔太を抱き上げた。
軽かった。
あまりにも軽かった。
小学4年生なのに。
9歳なのに。
辰哉の腕の中の翔太は、昔抱っこしていた頃と変わらないくらい小さく感じた。
その瞬間。
辰哉の胸が締め付けられる。
赤ちゃんだった頃。
「辰哉にいちゃん!」
と笑いながら飛び込んできた翔太。
熱を出した時は、
辰哉の服をぎゅっと掴んで離さなかった。
そんな弟だった。
なのに。
「……ごめんな」
辰哉の声が震える。
「本当にごめん」
翔太は最初、身体を強張らせていた。
でも。
久しぶりだった。
誰かに抱きしめられるのが。
久しぶりだった。
自分だけを見てもらえるのが。
翔太はゆっくりと辰哉の服を掴む。
ぎゅっ。
小さな手。
辰哉は涙が溢れそうになる。
「……兄ちゃん」
翔太が呼んだ。
何年ぶりか分からないくらい久しぶりの呼び方だった。
辰哉は涙をこらえながら答える。
「どうした?」
翔太は顔を埋める。
「……まだ、いていいの?」
病室が静まり返った。
辰哉はすぐに答えた。
「当たり前だよ」
「翔太は深澤家の大事な家族」
「ずっと前からだよ」
「これからも」
翔太は声をあげて泣いた。
今まで押し込めていた寂しさ。
怖さ。
悲しさ。
全部が溢れ出るように。
辰哉は何も言わず、
ただ小さな弟を抱きしめ続けた。
コメント
20件

もう胸がぎゅっとなりました……「まだいていいの?」って、そう訊かせてしまった時間が切なくて。翔太が小さく「兄ちゃん」と呼んだところ、そして辰哉が「当たり前だよ」と即答したところに全部の救いが詰まってる。抱っこの軽さの描写に、どれだけ孤独だったかが静かに伝わってきて、涙腺が崩壊しました。温かいエピソードをありがとうございます。