ウェルはユベール伯爵家に仕えて十年近くになる。
母親と妹がいて、幼い頃から貧しい生活をしてきた。
だが、ウェルは何も文句を言わずにできる限り母親を支え、将来、恩返しするために勉強に励み続けた。
その努力の甲斐あってか、ウェルに二度の転機が訪れた。
一度目はウェルの優秀さが評価され、ユベール伯爵家に仕えることができると言う話が来たこと。
ウェルはその話を担任からされた時、驚いた。
ユベール伯爵家から雇用の話が来るのは稀だ。
ウェルは戸惑うもその場で家族と相談なしに即決した。
理由は待遇の良さだ。
これで母により良い生活をさせてあげられる。
妹も安心して勉学に励むことができる。
ウェルはそう思い、その話を喜んで家族にしたら二人とも始めは戸惑っていたものの自分のことのように喜んだ。
ウェルのユベール伯爵家に内定が決定した瞬間であった。
そして、二度目。
これはユベール伯爵家嫡男、アレンとの出会いだ。
ウェルはアレンの誘いを受け、専属になった。
もちろん始めは戸惑った。
自分は騙されているのではないかと。
呂律が回らない年齢である3歳の子供が流暢に喋っていたこと。
だが、それでも家のことを考えるとより良い生活をさせてあげられると思い、その場で誘いを受けることを決定するもその場では即答しなかった。
その時期ウェルはシンから罰をもらっていた。そのため何かしらの区切りをつけるため、一度引き受けた仕事を中途半端にするのは嫌だった。
そのため、ウェルはその場で冷静に考える時間が欲しい、そう伝え一週間の猶予をもらった。
その後任されていた仕事に一区切りつけるとウェルは晴れて専属執事となったのだった。
アレンの専属となった後も専属としてふさわしくなるため、一層努力し、教育係件専属使用人となった。
アレンの専属になり、7年が経過し、今ではお互い信頼関係を築いている。
だが、二度のチャンスをものにした努力家のウェルは最近アレンのことで悩みを抱えている。
それはアレンが変わり者だということ。
ウェルのアレンの印象は聡明。
幼い頃から流暢に言葉を話し、教育課程は3歳から2年弱で終わらせた。
天才とはまさにアレンのことを言う。そう思えたのだった。
何かその才能を別のことに活かしてくれればと思うがキアンから基本的に自由にさせるよう言われているため放って置いている。
だが、そんなアレンをウェルは心配していた。
いつか、何かやらかすかもしれないと。
その予想は的中することになった。
アレンはお披露目会を経て、公爵家の息女と婚約が決まったのだ。
「何故そのようになったのですか?」
「いや、僕に言われてもなんとも。少しやらかしちゃったと思ったら、気づいたら婚約してた」
「だから、さっきから何でそうなったのか聞いているんです!」
「わかった。ちゃんと一から説明するから」
アレイシアとアレンの婚約が決まってた次の日、ウェルはキアンから報告を受けた。
そして現在、婚約の件について説明をアレンに求めていた。
「ーーそれで、僕の功績により、かのソブール公爵家と関係を持てたんだよ!……あれ?ウェル聞いてる?」
「聞いてます。……タイヘンデシタネ」
「なんで棒読み?もっと何かないの?」
「なんでもないです。ただ呆れていただけです」
「呆れてるって、どの点で?僕はきっかけはどうあれ、ソブール公爵家と繋がりを作ったんだよ。もっと言い方ないの?」
「はぁ……アレン様、そろそろ現実に戻ってはいかがですか?」
「な…なんのことかな?」
ウェルはアレンの説明、態度を見てさらに呆れた。
「アレン様、アレイシア様とご婚約されたことはめでたいと思います。ですが、お披露目会終わった後、一件もお茶会の誘いがないのご存じですよね?」
「いや、それはわかるけど。でもさ、ソブール公爵家ってどこの派閥にも属さない中立派って聞くし」
「それもあるでしょう。ほとんどの理由はアレン様の悪評にあるのをお忘れなく。今やユベール伯爵はソブール公爵家を脅して婚約されたと噂されてるの知ってます?」
「……はい」
今、貴族の間ではユベール伯爵家の黒い噂で持ちきりだ。
そのせいで関わりを持ちたくないと思う貴族は多い。
「反省してください。今ユベール伯爵家は孤立状態にあります。これから挽回してください。いいですね」
「わかりました」
それからもウェルの説教は続く。
アレンとウェルの使用人が主人を説教するという謎のスタイル。
これはキアンとシンの関係と少し似ているかもしれない。
そんな変わった主従関係をドアの外から眺めるものがいた。
「やっぱり親子ね!」
ユリアンはアレンとウェルの二人を見ながら微笑んでいた。
だが、その声はもちろん耳の良いアレンに聞こえていて、アレンはユリアンに向かい助けを求めるように視線を送る……が。
助け舟を出すことなく、微笑みながらその場を立ち去ったのだった。
「少しくらい反省してもらわないとね!さんざん迷惑かけたんだもの」
ユリアンは一人ごとを言いながらその場を後にした。
ユリアンは誰にも聞こえていないと思ったが、アレンには聞こえていた。
アレンはユリアンの呟きを聴き、この状況では誰も助けることはしないと思い、ウェルが納得するまで説教を受ける覚悟したのだった。
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