テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
結局最後には背を押され、晃一は外へ突き出された。「あ」と音を出すも、雨に搔き消された。聞こえていたとして変わらなかったであろうが、壁を叩き、空へ戯言を放つ。
ドアの向こうの美蘭は、そんな哀れに笑い転げる。だってそうではないか。ついに復讐を果たしたのだ。見事すぎるほど完璧に、完璧すぎるほど見事に果たしたのだ。
これに笑わずにいられることか。感情論に振り回され、社会的に人が死んだ。あの十数分で彼の見せてくれた豊かな表情、その全てを私は、これからの人生のどんな瞬間でも決して忘れないだろう。
腹筋の痛み。昭和アニメの酔っぱらいのように、右左右左と足を絡ませながら歩いた。壁を伝い、床を伝い。何とかソファへよじ登った彼女は、あの夜のように天井を見た。そう、それは晃一にぶたれた始まりの夜。思えばすべては、あの時の行動があったからこそ動き始めたといえよう。
きっかけというほどではないのかもしれないが、しのちゃんの小説がなければ、こうはなっていなかったことは確かだ。彼女にはこの復讐で幾度も助けられた。晃一の会社からの取引まで断ってくれたそうだし、感謝しかない。
それに高月玲奈。憎き我が同志。彼女にも正直救われた。
思えばこの復讐の一番の山場は彼女だった。協力という道を選べていなければ、どうなっていたことかわからない。あの時の全身の毛肌がせり立つ感覚は、今でも細胞が忘れていない。
連絡はあれからたった一度、彼女から一方的にあっただけ。「晃一さんの部署異動が決まった。連絡は本日七時半に行く」との文面。今日の事は彼女のおかげで成功した、としか言いようがない。連絡が来た後に離婚届を出したなら、晃一は絶対にそれに応じてくれなかっただろうからな。
「二人には、今度何か奢らないとな」
拳掲げ、一人呟いた。