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プロローグ
その“改悪”と断定出来る実験は、静かに始まった。
安定層のログを再設計。
「意味付与回避率」の数値化。
沈黙の最適配置。
そして、
もう一つ。
溺愛プランの再定義。
溺愛プラン
【疑似同棲/◎◎夫相当】
“意味を与えない”設計の対極。
徹底的に、意味を与える。
存在価値。
特別感。
選ばれている感覚。
それを、
制度として供給する。
その中心にいたのが、
村田孝好。
愛称「ターくん」。
月影が育てた、
エース級。
月影と村田の「育成時代」
村田が“なぜ壊れなかったのか”
***
エース誕生 ― 溺愛プラン
溺愛プラン。 疑似同棲。 疑似夫。 疑似家族。
村田は爆発的に売れた。
太客は口を揃える。
「彼はいかにもそう見えないけど、実はスパダリなの♡」
・冷蔵庫の補充 ・LINEの絶妙な頻度 ・絶対に否定しない ・さりげないタッチ ・料理の味付けを個別に変える
彼は“観察”していた。
相手の呼吸。 沈黙の長さ。 瞳孔の開き。
だが、
彼は依存しない。
誰にも。
だから、 カミソリレターが来ない。
「俺宛てにあれ送られたことないよ?」
同僚が震える。
「なんでだよ」
村田は笑う。
「だって俺、みんなのダーリンだもん」
彼は誰か一人の“救い”にならない。 だから誰の“絶望”にもならない。
安定を提供しながら、 中心を奪わない。
これは設計ではなかった。
偶然だった。
育成時代――月影と“愛の化身”
マルトクテックカンパニーがまだ“理想の安定”を売り始めたばかりの頃。
月影は、社内でも数少ない「人格保持型育成プログラム」の担当だった。
その中に、ひとりだけ異質な少年がいた。
村田孝好。
1999年7月21日、奄美大島生まれ。
大田区育ち。B型。
外見は地味。だが、妙に肌が綺麗で、触れたくなる質感。
人を惹きつけるのは顔ではなく、“空気”だった。
月影は初対面で思った。
> 「この子は、技術ではなく“関係”で勝つ」
育成は苛烈だった。
言葉の温度、沈黙の使い方、触れない優しさ、
視線の角度、料理の味付け、香りの残し方。
だが村田は、技術を覚えるより早く、人を好きになった。
「月影さんさ、みんな可愛いよな」
「可愛い、ですか?」
「うん。依頼者も、スタッフも。泣きそうな顔してる人ほど」
月影は理解した。
この男は“人に依存しない”。
だが、“人を必要とし続ける”。
それは極めて危険で、同時に最強だった。
村田は隙のないスケジューリングを好んだ。
分単位で詰める。空白を作らない。
なぜか。
空白は、孤児だった頃の“無”を呼び戻すからだ。
「暇ってさ、毒なんだよ」
そう言って笑う顔は、どこか少年だった。
溺愛プランのエース
彼はやがて【溺愛プラン◎◎夫相当か◎疑似同棲】のエースになる。
・料理完璧
・連絡マメ
・嫉妬させない
・束縛しない
・でも絶対に放置しない
依頼者たちは口を揃える。
> 「いかにもそう見えないけど、実はスパダリなの♡」
かゆいところに、指先で触れるように届く。
だが村田は、誰にも依存しなかった。
「俺宛てにカミソリレターは送られたことがない」
「そう、俺がみんなのダーリン」
「今度はどんな娘に出逢えるかな?」
彼は愛を“均等”に配った。
だからこそ、特定の誰かに縛られない。
仮想日本でハーレムを成立させた、唯一の男。
その事実は、政治中枢にも届く。
ある日、会見で
小山内総理が思わず漏らした。
> 「それならぜひとも教えて欲しいくらい」
社内は沸いた。
だが月影だけは、嫌な予感がしていた。
*
溺愛プランの強化実験が始まる。
「ターくん式・特別感演出マニュアル」
その瞬間、
崩壊の種が蒔かれる。
そして。
村田が、
初めて会社の「大更新」を
拒否した理由が、
浮かび上がる。
それはまだ、
誰も知らない。