テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
─午前2時、ジミンは一人、機密資料の前で立ち尽くしていた。
「Project Rein(プロジェクト・レイン)」
それは、表向きには“希少バースの保護・支援”を掲げながら、
裏ではつがいの管理・観察・隔離を目的とした国際的な研究プログラムだった。
対象は、SSクラスDom×SクラスSub、またはそれに準ずる高位バース。
「……彼女を“研究対象”として見てるってことか」
その書類に記されたIDコード「SUB-S91」
その末尾には、手書きで「Kim Minju」の名。
ジミンの奥歯が軋む音がした。
“俺の大切な人を、モルモットにしようとしてる──”
ミンジュはもうジョングクのつがい。
それでも、ジミンの中には決して消せない想いが残っていた。
「つがいに、なりたかった」
けれど、彼女が選んだのは“未来”であって、“過去”ではなかった。
「……だったら俺は、“今の彼女”を守る。彼女が選んだその道を、俺が裏から支える」
ジミンはひとつ深く息を吐き、研究機関の名簿をスクロールした。
彼の視線が止まったのは、ユリの名前。
《Class: Sub-B / 協力者》
「お前……何をした」
⸻
一方、ジョングクは事務所のセキュリティシステムに目を通していた。
「最近、施設のカメラが“死んでる”時間帯が多すぎる。外部からの侵入が不自然にスルーされてる」
隣ではミンジュが、まだ少し熱を帯びた手を握りしめている。
「私たち、見張られてるんだよね」
「ああ。あいつらは“研究のため”に、俺たちを“保護”しようとしてくる」
「それって、逃げられないってこと?」
「いや、逃げるつもりはない。“闘う”んだよ。
俺はもう黙って従うつもりはない。──ヌナを、檻に閉じ込めさせない」
ジョングクは彼女の手を強く握り返す。
「ヌナが“俺を信じてくれるなら”、俺はどんな敵でも立ち向かえる。
SSクラスDomじゃなくても、ただの“俺”として──ヌナを守る」
ミンジュの目が、そっと潤んだ。
「信じてるよ、グガ。……誰よりも、ね」
⸻
その日の夜、彼らの前に、機関の代表を名乗る男が現れた。
「ジョン・ハンリョル。国際遺伝機構、韓国支部担当です。
“研究対象”として、あなた方に正式に同行要請を出しに来ました」
一見、丁寧な態度。だがその背後には、確かな“圧”があった。
「我々はあなた方の“バースの安定化”と“共鳴制御”のために支援を──」
「いりません」
ジョングクが言葉を遮った。
「ヌナと俺は、誰の支援もいらない。
俺たちの関係に、“外部の理屈”を持ち込むな」
ハンリョルの目が細くなった。
「……あなた方はまだ理解していない。
SSクラスが“何のために存在するか”を──」
その時、部屋の隅からもうひとつの声が飛んだ。
「お前らの“研究対象”は、俺の知るミンジュじゃない」
ジミンだった。
彼は手にした資料を机に叩きつけた。
「ミンジュは、誰かの管理下で生きるほど“弱いSub”じゃない。
彼女は……彼女自身の意志で生きてきた。今も、これからも」
静かに、だが揺るぎなく。
ジミンの視線には、まだほんの僅かに、彼女への想いが滲んでいた。
──それはもう、“恋”ではなかったかもしれない。
でも、誰よりも彼女を理解してきた者の覚悟だった。
⸻
「選べますよ」
ハンリョルが静かに言った。
「“保護”されるか、“抹消”されるか──」
その言葉に、ジョングクが笑った。
「選択肢がふたつしかない時点で、お前らが敵だってことは、ハッキリしたな」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!