テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
呼吸はまだ不安定なまま、それでも少しずつ“吸う”と“吐く”の間に間隔が戻ってきていた。
「……っ、は……」
酸素マスクの曇りが、ゆっくりと落ち着いていく。
看護師がモニターを確認して、小さく頷く。
「少し安定してきていますね」
その言葉に、病室の空気がわずかに緩む。
でも誰も完全には安心できなかった。
翔太の心がまだどこか遠いままだからだ。
亮平は握っていた手を、ほんの少しだけ緩める。
「翔太」
「もう大丈夫、って言っていいわけじゃないけど……」
言葉を選びながら続ける。
「今は、ここにいるだけでいい」
翔太のまつげが、小さく揺れた。
目はまだうつろなままだけど、声にはかすかに反応している。
辰哉が静かに前へ出る。
「翔太さ、さっき“なんで生きてるの”って言ったよね」
その言葉に、部屋の空気が少しだけ張りつめる。
翔太の指が、シーツをわずかに握る。
辰哉は続ける。
「それ、答え今すぐ出さなくていいよ」
「でもね」
一度息を吸ってから言った。
「翔太がここにいるのは、偶然じゃない」
翔太の視線が、ほんの少しだけ辰哉の方へ動く。
照が小さく言う。
「本当に……気づくの遅すぎたけどな」
康二も苦笑いのような、泣きそうな顔で続ける。
「でもな、今度はちゃんと見るから」
大介は言葉を選びながら、短く言った。
「もう、ひとりにしない」
その言葉が重なるたびに、
翔太の呼吸は少しずつ静かになっていく。
亮平はそっと、もう一度手を握る。
今度は逃げられてもいい、じゃなくて。
離れないために。
「翔太」
「怖いままでいい」
「苦しいままでいい」
「でも、生きてるのは、ここだよ」
しばらくの沈黙のあと。
翔太の唇が、ほんの少しだけ動いた。
声にはならないけれど、
“聞いている”という反応だけが、確かにそこにあった。
翔太は亮平の手を握りながら静かに、
涙を流した。
2,847
kaede🍁
コメント
2件
