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◻︎人間関係もお片付け
次の日。
朝からLINEがうるさい。個人的なLINEは通知するようにしてあるけど、それにしてもこれは何?
《おはよう!昨夜はどこかに出かけてたの?みんなで盛り上がってたんだけど》
グループLINEの話か。
〈おはよう。ちょっと忙しくしてたから、入れなかった、ごめんね〉
《体調でも悪いのかと思った。それよりもさ、グループみんなで一泊旅行に行こうってことになったんだけど、涼子も参加するよね?》
「えーっ!」
思わず声が出る。LINEには声は届かないけれど。断りの文面を考えていたら、またコメントが届いた。
《佐藤の芽衣子さんがとうとう離婚しちゃったのよ。ほら、あそこのご主人ずっと浮気してたでしょ?で、定年退職と同時に離婚届を突きつけたらしいの。それでね、芽衣子さんの新しい門出を祝って、旅行でもしようって、昨日、そんな話しで盛り上がってたのよ》
無理だ。断ろう。
〈ごめん、しばらく忙しいから行けそうにないや。みんなで楽しんできて〉
《どうして?こんな時こそ女同士で励ましあうべきじゃない?》
〈ホントにごめん、参加できない〉
そこでLINEのやり取りは止まった。なんとか断れたのだろうか。とりあえずホッとする。スマホをカバンにしまって、急いで仕事に出かけた。
職場である駅の構内は、今日もたくさんの人が行き交っている。午後から雨が降る予報が出ているのだろうか、傘を手にした人がチラホラいた。急ぎ足の人波を避けて、まだ人が少ないレストラン街への通路から掃除を始めた。
「羽田さん、おはよう!」
声をかけてきたのは、先日、子ども食堂の話をおしえてくれた駅員さんだった。
「おはようございます。このあいだはありがとうございました。お義母さん、あれから張り切って料理をしてますよ。誰かに喜んでもらえるって、いくつになってもうれしいんですね」
「それはよかった。子どもたちもきっと喜んでると思うよ。じゃ、今日も頑張って」
「はい」
こんな感じの、浅めの人間関係の方が今はとても心地いい。ずかずかと個人的なことに入り込んできたり、引っ張りこんだりしない適度な距離が取れる関係は、精神的にも落ち着く。
ふと、朝のLINEのことを思い出した。“佐藤芽衣子が離婚”したから励ますためにみんなで旅行?わからない。申し訳ないけど私にはそんなことをしてる時間はないんだけど。
案の定と言うべきか。
その夜は、グループLINEのメンバーからそれぞれ個人的にLINEが届いた。
《涼子ちゃん、どこか体調でも崩してる?更年期がひどいとか?》
《ねぇ、みんなで楽しもうよ。ウザい旦那なんかほっといてさ》
《みんなもまた改めて誘ってくると思うけど、とにかく行こうよ!不参加は認めません》
___うっわ、めんどくさい
これは個人に返信しても埒があかない気がした。グループLINEに返事をする。
〈誘ってくれてありがとう。でも、申し訳ないけど旅行には参加できない。色々やることがあって〉
《なに?やることって。介護でも始まったの?》
《旦那さんの浮気か借金が発覚とか?》
正直言って、やることがあるというのは、事実ではない。本音は“みんなの顔色を伺いながらの楽しくない旅行にお金と時間をつかうのが、イヤなのだ。過去に2回、そんな旅行に出かけたことがあったけど、なんだかもやもやして終わった記憶しかない。
〈まぁ、個人的なことだから。とにかくごめんね〉
《えーっ、水くさいな。なにがあったか話してくれてもいいのに》
《悩みなら相談に乗るよ。そのためにも行こうよ》
___相談?あれは違うでしょ
もし私が何かに悩んでいたとして、悩みを打ち明ければいくらか気持ちが軽くなるということは事実かもしれない。でも私は知っている、本人がいないところでは否定してたり別の中傷を口にしてたりするのだ。仲良しだと言って悩み事を聞き出そうとするけど、こちらのことを真剣に考えてくれたことはない。このグループに限っては。
〈心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから。ここで私が参加しないことでみんなのテンションを下げてしまうのも憚られるから、グループLINEを抜けるね。今までありがとう〉
そこまで送信してから、グループを抜けた。
すぐさま個人LINEが届く。
《涼子ちゃんって、冷たい人だったのね。残念だわ》
めんどくさくなって、“ごめんなさいスタンプ”を送ったけど、いつになっても既読にならなかった。
___ブロックされたのかな?
他のメンバーも同じだった。ありがとうとごめんなさいを送ったけど、既読にならなかった。
「やった!スッキリした!」
グループLINEを抜けたことで気持ちが軽くなって、手にしていたスマホまで軽くなった気がした。昔からこういうことが苦手だった。いつも一緒にお弁当を食べるとか休憩のたびに一緒にトイレに行くとか。そういう仲良しごっこが苦手で、それでみんなから浮いてしまうことがあった。
これからは、自分がご機嫌でいられる人間関係を大事にしようと思った。