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「女装コンテストですか! 良いですね! それも、外部の人間も参加可能って、僕の為にあるようなコンテストじゃないですか」
「はは……まだ、詳細は決まってないんだけどね」
だったら、僕でますよ。なんて、キラキラとした笑顔を向けられて、ゆず君の予想通りの反応に愛想笑いしか出来なかった。
予定通り、次の日ゆず君の家に行けば、エントランスに入ってすぐに、部屋に通された。何度きても慣れないゆず君の家に、俺の身体は疲労と、緊張がたまっていく。
ゆず君は、俺の告白なんて忘れたように振る舞うので、俺もそのまま忘れてしまうおうか、何て考えていると、ちらりと顔を上げれば、彼の宵色の瞳と目が合った。まずい、と思って目を逸らそうとすれば、パシッと手を捕まれる。
「何で、目をそらすんですか? 紡さん」
「い、いや……俺には、きらきらしすぎてるからかな、なんて」
何で? ともう一度、訪ねてくるゆず君。何でといわれても、こっちも何でなのか、いや分かってる。避ける理由も、目をそらす理由も分かってるけど、言えなかった。
ゆず君は中々言わない俺にしびれを切らしたのか、はあ……と大きなため息をついた。呆れられたかな、何て思って、離れていく手を見ていれば、ゆず君はにこりと笑った。
「まだ、僕も答えだしてないんですよ。そんなに急かさないで下さい」
「え、えっと」
「紡さんの告白の答えです。それで、ソワソワしてたんでしょ? でも、そんなことで、カリカリしないで下さいよ」
「……まあ、そうだけど」
ゆず君にとっては『そんなこと』かもしれない。でも俺にとっては、初めてで、これが恋だって気づいてからは、落ち着けなくて。ゆず君は格好いいし、可愛いし、そういう経験何度もあるんだろうな、俺なんて不釣り合いだなって思ってしまう。こんなこと考えてるってバレたら、また面倒くさい男だと、女々しい男だと思われてしまいそうで、俺は、自分の中のマイナスな気持ちに蓋をした。
けど、ゆず君が忘れていなかったという事実もあって、俺は不思議な気持ちだった。ふわふわと、でもソワソワとしているのは事実で。
(良かった。すぐに答え出されたらとか、いきなり言われたらどうしようって思ってた)
口では『そんなこと』といいつつも、彼の中でちゃんと俺の言葉と向き合ってくれているんだなあ、と思うと感動して涙が出てきそうだった。
「でも、学園祭って良いですよね。僕、いって良いですか?」
「も、勿論。整理券とかはないから、自由にって感じ。興味あるの?」
「はい……あーでも少しだけって感じですかね。高校時代、あんまり楽しめていなかったというか、高校は高校って感じの文化祭でしたから」
「白瑛高校の文化祭ってでも、大きかったんじゃない?」
「僕は、素人の劇にかり出されてたんで、一日は潰れてましたかねえ」
「そ、そっか」
ゆず君は、そこまで面白いものじゃなかったと、高校時代のことをサラッと流して、俺の大学の学祭が楽しみだなあといってくれた。別に、これといって力を入れるわけじゃないけれど、当日、ゆず君が来るなら、自分たちのゼミが出すものだけでもしかかりやろうと思った。
(でも、女装コンテストって……何に力入れるの)
審査員、実行委員は、でないって言う決まりだけど、放送席では女装とかさせられるのかなあ、とも思った。俺は、裏方希望だけど、どうなるか分からないし、まだまだ決めないといけない事は山ほどあるわけで。詳細が分かり次第ゆず君に伝えればいいかなって思っている。
そんな風に、考えていれば、ずいっとゆず君が隣にやってきて、顔を覗かせた。
「な、何? ゆず君。僕、前向きに検討してますからね」
「へ、へ?」
「だから恋人になって欲しいってこと」
「こ、恋人……」
「そういう告白でしたよね?」
と、ゆず君は聞いてくる。確かに、そういう告白ではあったけど、恋人になって欲しいまで入っていなかった。俺の心の中を覗かれたのかと、一瞬焦ったが、ゆず君には全てお見通しというように、彼は笑っていた。
けど、前向きに検討している、ということは、期待しても良いのだろうか。
慌てる俺と、楽しそうに笑うゆず君の空気をぶち壊すように、ブーブーとゆず君のスマホがなった。
「あーもう、何。せっかく良い雰囲気だったのに」
「良い雰囲気……」
俺の、ボソッとつぶやいた声なんて聞えていないように、乱暴にスマホをとって、ゆず君が電話に出る。電話越しのゆず君は弾んだ声で話していたけれど、顔と声が全くあっていない。苛立ったように、ブチッと切ると、ゆず君がこちらにくるりと振向く。そして、いつものあざと可愛い笑顔で、瞳を潤ませて、上目遣いをしてくる。
「な、何かな。ゆず君。その期待の眼差しは」
「ちょーっと仕事はいっちゃったんですけど。何人か、エキストラで欲しいって言われて。一般人参加OKらしいので、どうかなあって」
「映画の撮影?」
「そっ。よかったらついてきてくれませんかね、紡さん。『お願い』します」
と、ゆず君は言い切って、にこりと笑う。
確信犯。
(『お願い』って……それ、断れ無い奴じゃん)
俺は、はあ、とため息をついた痕、ゆず君の頭を撫でた。亜麻色の髪はさらさらで羨ましい。
「いいよ、ついてく」
「やった」
声を弾ませて、ゆず君は、小悪魔な笑みを浮べ、飛び跳ねた。