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1話の時点で惹かれつつあります…!
神作の予感…!
雲ひとつない青空だ──と言いかけたそのとき、遠くに見える山々の上空にやや大きめの積雲が浮いていることに気がついた。少し気分を害されたような気がして空を眺めることをやめて眼下に広がる無駄に広い砂の大地に視線を移した。
「以上でSHRを終わります。そこ、話聞いてましたか?」
担任の実澄先生の鋭い声が俺の右耳に飛び込んできた。視線をゆっくり教室の前方に戻すと、クラスメイト32人のうちパッと見7割ぐらいがこっちを向いている。なんか気まずくてなって
「聞いてました」
と、とりあえず答えた。しかし先生は疑い深い性格なもんで、
「じゃあ私が言ったこと、簡潔にでいいから言ってごらん?」
と返された。こうなってしまっちゃもう負けだ。現に俺は先生の話をほぼ聞いていなかった。諦めたように黙っていると、先生はそうですか、とだけ言って教室から出て行った。
俺──神崎 亜久斗が通っている県立栄進高等学校の第1学年は校外学習を明日に控えている。さっきのSHRはその連絡…というわけなんだが事前に渡されていたしおりと内容は何ら変わりは無さそうだった。早々にそのように判断した俺は無駄に長話を聞くのも面倒だと思い、これと言った意味もなく窓の外を眺めていた。外に広がるは雄大な…訳では無いそこら辺にあるような山々、そしてちょっとした団地のマンションが数棟。やはり田舎のスローライフってのに憧れる人が多いのかカンカンと音を立てながら建設中の家が何軒か見える。
眠いなぁ、だとか思いつつ帰る用意をしていると
「なぁ今日ぐらい一緒に帰らん?部活も休みなんだし」
と声をかけられた。彼は天ヶ原 奏弥。同じ団地に住む、まぁ幼なじみってやつだ。
「確かに今日は1年は基本部活休みだけど…そっか、残念だな。(自称)帰宅部さんよ」
奏弥は、ガー(꒪д꒪)ーン……( ˘•ω•˘ ).。oஇと言った表情を見せたが
「ま、まぁいいじゃねえか。『基本』なんだし」
そう言って俺に続いて教室を出た。いやー軽くからかったつもりがあそこまでオーバーリアクションしてくれるとは、やっぱおもしれー男だ。靴を履き替えて外に出るとすっかり赤くなった楓の向こうにある西日が強く射してきた。もうこんな季節か…と思いつつチャリ置き場へ向かう。
「でさ、7時間目の古文の形容詞の小テスト、自信ある?」
「ふっ…前回の小テストを3回の追試含む合計4回やって全て落ちた男に何を期待するのかな?」
だとか他愛もない会話をしながらチャリ置き場に着いて、早速帰ろうとチャリに跨って2人で校門を出ようとした。すると、
「ちょっと、自転車横並びはダメだって先生言ってたでしょ。邪魔 」
前にいた女子の集団の前の方から冷たい声が飛んできた。彼女は──
「ちょっと!話聞いてる?」
「なんだよそんなにキツく言わなくてもいいじゃん。もしかしてまだ『あれ』、気に食わないのか?」
「は?違うし」
……はぁ。最近は顔を合わせる度いつもこうだ。奏弥と薙野 心美。薙野も同じ団地の一応幼なじみだ。奏弥とも仲良くスマ○ラとかマイ○ラとかやってたはずなのに…何故なんだ?てか『あれ』ってなんだよw
「はいはいわかったから、奏弥、行くぞ」
「!?──ちょっと待ってよ!」
俺は奏弥を促して全力でチャリを漕いでその場を離れようとした。なんてったって薙野は──!?
ずば抜けた運動神経。様々な競技で県大会優勝・入賞。全国大会女子100m走では高一にして上級生をものともせず優勝。運動が得意すぎるが故に特定の部活に入らずにフリーで色んな部活に助っ人に行っている。そんな化け物からそう簡単に逃げられるわけがなかった。気がつけば横に、いや、もう前にいた。
「お、鬼…」
奏弥の口からそんな言葉が弱々しく漏れた。なんというか、もう纏っているオーラが
「ボーッとするなッ!」
「「は、はひ!」」
一喝されて2人して情けない声を上げてしまった。あぁ、憂鬱だ…しかしその時後方から
「で、ここみー?駅前に新しく出来たクレープ屋、行くのぉ?」
「あ!もちろん行くよ!」
さっきまでの鬼のようなオーラは何処へやら。一瞬で穏やかな表情になって元いた女子集団の方へ軽やかに駆けて行った。……はぁ。なんか助けられた。寿命がいくらか延びた気がして、急に疲れが出てきた。
「ま、とっとと帰るか」
「そうだな」
俺たちは再びチャリに跨り、家を目指した。学校から家のある高台の団地まではそこそこ距離があり、しかも途中で大きな国道のバイパスを横切らないと行けないから信号の兼ね合いとかでどれだけ頑張ってもチャリで30分はかかる。我ながら何故こんな家から離れた自称進学校に進学したのだろうか。奏弥も 「これじゃ、帰宅部エースにはいつまで経ってもなれないよー」とよく嘆いている(?)。入学して幾度となくした後悔を今日もして、奏弥と長い長い信号待ちをすることとなった。
(To be continued)