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売店を後にして階段を登り四階に着くと、そこは二年生の教室に続く廊下。 ここに辿り着くと、私に取り巻く空気が一気に重くなったような錯覚を起こす。どれだけ息をしても上手く酸素を取り込むことが出来ず、窒息するんじゃないかって思うぐらいに。
……そう感じるのは、階段を登ってきたせい。足が鉛のように重いのも、そのせい。
自分に言い訳して自然と遅くなる足取りで廊下を歩いていると、窓より聞こえてくるのは蝉の鳴き声と窓から見える青空に入道雲。昨日のオレンジ色した夕焼けと違う景色に、思わず立ち止まる。
そこは不意に開けてしまった窓の前であり、見下ろした地面は遠く、思わず足をすくませてしまう。
そうだ。平凡な日常を壊す訳にはいかない。私のクラスは専門学科で、三年間クラス替えはない。だからこそ、長谷川くんの言うことを聞かないと。
そう思いながら震わせた足をなんとか動かし、私は真っ直ぐ歩いて行く。
精一杯に作った笑顔と共に。
教室に戻ってくると、一番奥の窓側でぶすっとした表情を浮かべそこからの景色を眺めている長谷川くんが居た。
「お待たせ。買ってきたよ」
そう声をかけたけど、その表情は変わることなくこちらすら見ない。
私は気にすることなく、カレーパンとカフェオレを渡し財布を返して、自分の席に戻ろうとする。
すると二人はお弁当を食べ終わったのか机の上は片付き、合わせていた机も元に戻していて、「ごめん待ちきれなかった。メイクを直しに行く」と化粧ポーチを持って出て行ってしまった。
私は作り笑顔ではなく、素の感情から微笑み「いいよ」と言っていた。
良かった。一人でゆっくり食べられる。私は食事のペースが遅く、食べ切るのに時間がかかる。
遅いと、また男子に媚び売ってるとか思われるし、早く食べ終わる為に量を減らしてきても同じ。だから二人に合わせて食べていたけど、後で気分が悪くなることもあって正直負担だった。
夕飯の残りを詰めたお弁当を一人のそのそと食べていたら、その視界には着崩した制服が入ってくた。
まさかと思い見上げると、そこに居たのはやっぱり長谷川くんだった。
「なんだよ、これ?」
「……え?」
そう口にした長谷川くんが持っているのは、私が買って来た牛乳パックのカフェオレだった。
えっ? あれ? ま、間違えた?
怒られる。秘密を言いふらされる。学校に来れなくなる。どうしよう。
気付けば頭の中はパニックになっていて、お弁当箱を持っていた手も小さく震えていた。
「……カフェオレは合ってるんだよ。それより俺は、無糖のやつしか認めてねーから」
「え? あ、でも。売店には、これしか売ってなくて……」
ドクンドクンと鳴り響く心臓を落ち着かせながら、私はなんとか声を絞り出す。
「ふーん。じゃあ、お前飲めよ?」
そう言い、カフェオレを私の席にポンと置いてきた。
「え? いいの?」
「別にぃ。飲めねーだけだから」
かかお
そう返して席に戻って行き、飲み物なしでカレーパンをかじり始めた。
喉、乾かないのかな?
そう思いつつ、もらったカフェオレのストローを差し込み、小さく吸う。
その瞬間に口に広がる甘い風味。やっぱりこれだな。そう思う。
チラッと見ると目が合い、あからさまにプイッとして窓側を睨み付けている長谷川くん。
分かってる。カフェオレくれたのは、いらなかったら。だけど、なんだろう。なんか、嬉しくて。不意に上がってしまいそうな口角を必死に下げ、私は穏やかな昼下がりを一人過ごした。