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サイド赤
ショッピングモールから駐車場の車に戻り、北斗を助手席に座らせる。
北斗はまだ暗い顔をしていた。
「ごめん…せっかく遊びに来たのに」
「ううん。楽しくなきゃ遊びじゃないよ」
「でも…。あんなことで心折れるって、弱いよな、俺」
いまだにネガティブ発言が止まらない。
「ほーくーと」
強めの声で制す。俺はにこりと笑い、
「Don’t worry. It’s not your fault」
突然の英語に、北斗は困惑する。
「え?」
「気にしないで。あなたのせいじゃないっていう意味」
「…………」
「北斗のせいじゃないんだから、謝るな。俺がいれば、大丈夫」
「…うん」
「ちょっと疲れたよね。もう今日は帰ろうか。また今度行こう。北斗の好きなとこ行きたい」
「ありがと」
やっと少し笑ってくれた。こう嫌なことがあったときは、機嫌を直すのが大変なんだ。
わざとテンションの高い曲で元気づけてあげるのもいいかもしれないけど、北斗にはきっとダメだ。かといって何もかけないのも、俺のテンションが下がる。
好きな邦楽アーティストのバラードにした。
そして車を発進させる。
「いい歌だよね、これ」
北斗と2人の車内でたまにかけるから、覚えてくれたらしい。
「でしょ」
「さっき…俺、どういう対応すればよかったんだろ」
「もう、忘れなよ。北斗に落ち度はないんだから」
「……今日さ、いや昨日の夜なのかな。夢見たんだよね」
突然北斗が話題を変える。
「うん」
「あのときの事故の夢。もう何回も見た。それでまた目が覚めて、ああ生きてた…って」
衝撃の告白に、言葉が出ない。そんな話は初耳だ。
「俺最近思うんだよね。先天性の障がいとかだったら、ああいう怖い経験がきっかけじゃないだろうし、他人の目にも慣れてるかもしれない。俺みたいな後天性だと、もともとは健常者だったから昔の生活と比べちゃうんだよ。それならいっそ、生まれた時からこの身体でもよかったんじゃないかって」
どうにかフォローしようと、懸命に言葉を探す。
「それは違うよ」
「え?」
「俺は障がいを持ってない。だから北斗とか、ほかの障がいがある人の気持ちは理解しきれないと思う」
ちょっと苦々しいことを言ってしまったかな、と気にして北斗の表情をうかがうが、変わりはなかった。
「でも、俺にはあんまりわからないことが北斗にはわかる」
「…何?」
北斗が俺に視線を向けたのが、ルームミラー越しに見えた。
「ふつうに歩けること、走れること、何不自由なく日常生活が送れてることのありがたみ」
北斗ははっとしたような顔になり、
「そうか……。なるほどな。なんで今までそう思わなかったんだろう」
口元に笑みが浮かぶ。
「ほんと、お前ってポジティブだな。いつも助かってるよ」
急にそんなことを言われたら、頬が赤くなってしまいそうだ。
「へへ、そっか」
二人で笑い合う。
そしてまたいつものように、俺だけが熱唱し、北斗は真顔。でもなぜか褒めてくれるんだ。
「やっぱお前歌上手いよな。絶対歌い手になれるって」
「えーでも俺は趣味がいいもん。楽しく歌ってればそれでいい」
「まあでもこの歌声を俺が独り占めできるの、最高だな」
「でしょ~? AHAHA!」
これからもこうして2人で楽しく笑っていたい。
北斗の障がい者としての苦しみは全部わかりきれないけど、友だちとして寄り添ってあげることはできる。
俺はいつまでも隣にいたい。
心配するな。
俺らなら大丈夫だよ、北斗。
終わり