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「これ人…よね?」
「あたしにもそう見えます」
ぼんやりと人の形をしているのが中でふわふわと浮いているのが分かったが、近くに寄るにつれて輪郭がはっきり見えはじめきた。
胴体、頭、両手足のあるシルエットは、それ自体は動く事は無く、ただゆったりと浮かんでいる。そしてよく見てみると……
「子供なのよ?」
「小さい子? 中見れないかな?」
アリエッタと同じくらいの身長に見える。
3人は色々な方向から覗くように見てみるが、中を見る事は出来ない。
『あのクラゲっぽいの、なんだろうね』
『ぱひー達が調べているから、もう少し待ってみましょ。ほら、あっちでまとまって漂ってるの、綺麗じゃない?』
少し時間がかかりそうだなと思ったエルツァーレマイアは、アリエッタと一緒にふよふよと浮かんでいる生物の観察を楽しむ事にした。
(えっと、いいのかな……)
アリエッタは申し訳なさそうにチラリとミューゼを見たが、今は邪魔しないようにと、大人しく遠くを眺める事にした。
「う~ん……刺さらないのよ」
中にいる人影を傷つけないようにフォークで幕を突くパフィだが、ブヨブヨしていて刺さる気配が無い。試しに上の部分をナイフで斬ったりもしているが、生物は無傷のままユラユラと動くだけである。
同じくミューゼとネフテリアも、それぞれの魔法で動かそうと色々試しているが、何の効果も見られない。
「炙っても反応無し、冷やしても駄目、斬れない、持ち上がらない、他何かある?」
「食べるのよ?」
「読む?」
「いや食べたくないし、読むって何!?」
進展の無さからか、意味の無いボケとツッコミが飛び交い始めた。3人の間では誰がボケ担当かなどは決まっておらず、だいたい最後まで飽きずに真面目なままだと、ツッコミ役になってしまう事が多い。
それはともかく、成果無しのまま時間が過ぎ、3人とも疲れたところで、一旦調査を中断する事にした。
「今回はコレ無視するしかないかなぁ。次回があるかは分からないけど」
「こういうのがあるって報告は出来るのよ」
このドルミライトの生物らしきモノについては、今回はここで諦める事にした。無理な物は無理と見切りをつけ、ドルネフィラーから出る前に、出来るだけたくさんの事を調査しようという考えである。
この場はここまでと、ミューゼは後ろにいるアリエッタ達に声をかけようとした。
「待たせてごめんねアリエッたあああああああ!?」
振り向いた先にいたのは、アリエッタとエルツァーレマイア……と戯れる巨大なドルミライトの生物だった。
『おお~ビロンビロンでブヨブヨだ~』
『なかなか面白い子ねー。変な力を使ってるみたいだけど、何かしら? 精神干渉かな? まぁ気にする程でもないか』
アリエッタは生物の下部分の膜を出たり入ったりして遊んでいる。エルツァーレマイアも娘の安全に気を配りながら、生物をつついたり引っ張ったりして様子をみていた。
「えっ、えっ、何やってるの!?」
自分達が先程まで動かす事も傷つける事もできなかったソレを、2人は当たり前のように動かしている。喋っていたついでに叫んだミューゼとは対照的に、パフィとネフテリアは驚いて固まっている。
『あら、アリエッタ。みゅーぜが呼んでるわよ?』
『え? 終わったのかな? じゃあこれも調べるよね。ちゃんとみんなの手伝いしなきゃ』
『なんて良い子なのっ……頑張るのよアリエッタ!』
『はいはい……』
驚いているミューゼに向かって、アリエッタは歩き出した。両手で半透明の生物の体の端を掴んだまま。
「みゅーぜー!」(これあげるー)
「ってわああああ!? アリエッタちょいまちちょいまちー!」
浮いている生物の大きな体には重さが無い為、簡単に引っ張る事が出来る。
だんだん近づいてくる大きな物体は、ミューゼ達から見れば威圧的だった。思わずアリエッタを止めようとするが……
(なんか真剣に叫んでる? 早くしろってことかな? よし)
止まるどころか、ちょっぴり駆け足になった。
「いやー! 違うのアリエッタ!」
(あれ? 驚いてる? なんで?)
走りながら首を傾げた時、事件は起こった。
「うやっ!?」
足を地面にひっかけてバランスを崩し躓いてしまった。その拍子に掴んだままのドルミライトの生物が思いっきり振り上がり、
「ぶべっ」
「へっ?」
アリエッタが転ぶと同時にその巨体はボーっとしているネフテリアへと振り下ろされ、
ずにゅん
「!?」
そのままネフテリアをドルミライトのある上部分で呑み込んでしまった。
呑み込まれたネフテリアは、呑み込まれた瞬間のままのポーズで、固まっている。
(ちょっと息がっ……苦しくない? でも動けない!? 声も…出せない。なにこれどーゆー状態!?)
意識ははっきりしていて目も開いている為、目の前の転んだアリエッタ達の姿はよく見える。ただ石になったかのように全く動けず、物音や話し声も全く聞こえないのだ。
辛うじて冷静さを維持しながら現状把握をしようとするネフテリアの前では、別の事件が起こっていた。
「アリエッタ大丈夫!?」
『アリエッター!』
転んだアリエッタに慌てて駆け寄るミューゼ、パフィ、エルツァーレマイアの3人。一番近くにいたミューゼが慌てて抱き起し、顔を覗いた。
「っく…えぐっ……」(みゅーぜの邪魔をしてしまった……)
「あー痛かったね~大丈夫~?」
「だい…じょ……ごめっ…ふえぇぇん!」(ごめんなさい…ごめんなさいぃ)
転んだ事ではなく、ミューゼへの罪悪感によって泣き出してしまったアリエッタ。
その涙が溢れてきた顔を見て、ミューゼとパフィが心配をし、エルツァーレマイアが興奮しだした。
(可愛い! アリエッタの泣き顔可愛い! このまま全力で甘やかしたい!)
「よしよし……頑張ったね~でも何かを持ったまま走ると危ないからねー」
「ほら顔拭いてあげるのよ」
のんびりとアリエッタを泣き止まそうと、3人で甘やかしている。その背後で固まっているネフテリアには全く気付かずに。
(ちょっと誰か!? わたくしに気付いてー! っていうかエルさんこっち向いてたわよね? アリエッタちゃんしか見えてなかったの!? ミューゼさーん! パフィさーん! おーい助けてー!)
音も声も出せないので、近くにいるのに全く気付かれない。心の中で叫びながら、気付いてくれるのを待つ事しか出来ないのだった。
(うぅ…夢なら覚めてほしい……あ、これ夢だっけ。だから苦しくないんだ。そういうところは都合が良いというか…でもわたくしの夢じゃないから出来ない事は出来ないと。ややこしい事にはならないのは良いんだけど、こういう時は都合が悪いわね)
動けない恐怖と気づいてもらえない寂しさから逃げるように、ネフテリアは現状把握やドルネフィラーの事について考える。
(しっかし、これ何なんだろ。頭?の中心にはドルミライトがあるから、関係してる生き物? 見た目透明でジェリーみたいで……よし、これの名前はジェルミラ。わたくしの権限で決定。たまには名前つけてみたかったのよねー)
ドルミライトの生物の名前は、取り込んで動けなくなった王女の暇つぶしによって『ジェルミラ』という名前に決定した。
その後も、引き続きドルネフィラーについて考え、アリエッタとエルツァーレマイアについて考え、なんとなくピアーニャへのイタズラを考え始めたその時だった。
ずっとアリエッタの事を宥めていたパフィが振り向き、ジェルミラの中にいるネフテリアを見て驚いた顔をした。
(遅いよ!! いーかげんわたくしも泣くぞチクショウ!)
すぐにパフィは全員に声をかけ、全員驚き、なにやらミューゼと相談し始めた。
(もしかして救助の仕方を考えてくれてるのかな? ジェルミラ内外の事が両方分かるから、こうやって囚われているのはいいんだけど、わたくしも外からの救助の方をしたかったなぁ。動けないのって結構怖いし)
すぐに相談が終わり、パフィとミューゼが前に出た。ネフテリアには少し困ったような顔をしているように見えている。
ちなみにパフィ達から見て、ジェルミラの中のネフテリアは少しぼやけて見えている。しかし一緒にいた事もあり、それがネフテリアだという事は一目で分かった。
対してネフテリアからは、外の光景がハッキリと見える。パフィ達が何をしようとしているかまでは分からないが、行動は全て把握出来るのである。
つまり、ジェルミラを壊そうとして、ナイフとフォークで斬りかかってくる本気顔のパフィを、間近で正面から鮮明に捉える事ができるのだ!
(えっ待って待って待って怖いいやあああああああ!!)