とうとう、新入生を歓迎する日を迎えた。
これまでに用意していた材料の飾りつけをしていく生徒たちを見ながら廊下を歩いていく。
折り紙でリングを作っては壁に飾る者、自分たちで手掛けた「桜」をベースとした作品を展示する者、「ようこそ」と大きく書かれた看板を教室の入口で立てかける者。
女子生徒や男子生徒が一丸となっている様を見るのは、とても気持ちがいいことだった。
「おい青井、こっち手伝ってくれよ」
呼ばれた方向へと体を向けると、そこは自分の教室だった。尚、声をかけた張本人は石山君で、材料片手にいそいそと張り切って準備をしている。
「えぇ〜俺忙しいから無理ぃ〜」
「嘘つくなよお前が手を動かしてるとこ一回も見てないからな」
笑顔の奥で光る怒りの炎を見た瞬間、悪寒が走った頃には片手に飾り付けの材料が握らされていた。
面倒なことに巻き込まれない為には、今日という日を休日にしてしまえばよかったのだけれど、生憎出席日数の関係(単位を落としたくないだけ)で残念ながら実行不可。
こき使われる体を動かし、やっとの思いで一年生全員が校内を回り終えた。
「この後は部活動見学だってさ。部活ない人は帰って良いらしいから」
職員室へと使用済みの材料たちを納品、準備に関してのお礼を貰い、その場を後に教室へと戻る。
石山くんはテニス部のキャプテンをしているため何かと忙しいようだが、責任を感じているのか、はたまたただのエゴ精神が無意識に働いているのかして最近では引っ張りだことなっている。
スポーツ万能、成績優秀と来て顔も良い石山くんは何かと青春にも忙しいようだ。
教室へと足を踏み入れると、誰かが俺の席前に立っているのが一目散に目に飛びこんできた。
僕自身が普段使用する机に、指をそっと触れさせながら、まだ賑わう青い窓の外を見る。
「あのぉ〜…」
声を掛けると肩を震わせる目の前の人。反射的に振り返った胸元に付属するバッジは綺麗なもので、光が反射し金に輝いていた。
「あ、ごめんなさい」
可愛らしくも整った容姿の彼は、珍しい赤毛をしていた。
最近では珍しい髪色を見すぎているせいか、黒髪や茶髪がとてつもなく安心する色素に見えてくるほどになっていた。また、自身の髪色も彼らと似たような、いや、同じにしない方がいいか。
「どうしたの?そこ俺の席なんだけど、なんか用だった?」
続けて声を掛けると、ポケットに手を突っ込む目の前の彼。
初対面で喧嘩腰なのかと少し考えたがそんな素振りを見せるわけでもなく、彼は何かを探しているようだった。
「あの…これ」
彼がポケットから出したのは3年生のバッジだった。正直、付属型生徒手帳みたいな役割を担うこのバッジは、付けていないと生徒としての認識から外されてしまう為、最悪、校内に出入りできなくなってしまう。
入学早々、こんなものを拾ってしまったが為にこんな場所まで足を運ばされるとは、この上ない思い出となっただろう。
しかし、周りとあまりコミュニケーションを取らない自分は人望が無に等しい。
「…知り合いに、同じ学年で失くした人が居ないか探して貰うよ。ありがとね」
彼の手の中で光っていた鈍い光は、後日、石山くんに聞けば、幾らか離れたクラスの奴が失くしたものだったらしい。
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