定正にプロポーズされてすぐに鈴子は自分が定正の子供を妊娠していることに気付いた、そしてそれを聞いた定正はなんと泣いて喜んだ
そして一ケ月後・・・定正が百合との離婚届けを持ってきた
「妻とは別れたよ、君は私の本屋敷に移って、屋敷を整えて欲しい、私と君と子供が楽しく過ごせる屋敷に」
鈴子はニッコリ笑って言った
「承知しました」
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初めて鈴子が定正の本屋敷を見た時は、驚きが隠せなかった、彼が所有する、奈良の生駒山の丘の上に建つ壮麗な館は玄関柱にギリシャ風の彫像が幾体も立ち並ぶ、いかにも定正の豪邸だった
鈴子はとても嬉しくなった、昔自分もこんな屋敷に住んでいたからだ、まさしくここは鈴子が住む家だった
リビングに入ると三人の家政婦が待ち構えていた
「奥様、ご結婚おめでとうございます、私どもは奥様専用の使用人でございます」
召使い達が深々と鈴子に頭をさげた
懐かしい・・・かつては自分にも召使が沢山いた、あの人達は元気かしら・・・
鈴子はニッコリ微笑んで言った
「今日からここが私の家なんですね、旦那様の命令でここを家族が安心して暮らせるように住みやすくしたいので、協力してくださいね」
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鈴子は奥の衣裳部屋に佇んでじっとその部屋を見つめていた、天井まであるキャビネットにはエルメスのバッグがぎっしり並んでいた、そしてクローゼットには数百のエルメスのドレス・・・百貨店の店舗でさえもこんな品数はないだろう、百合は何もかもを置いて出て行っていた
まるでここでの生活をなかったことにしたかったように・・・
「あ・・・あの・・・これは前の奥様が残して行ったものです・・・私どももどうすればいいか・・・」
しどろもどろと一人の家政婦が鈴子に言った、あきらかにここの家政婦達は自分に警戒している、今度自分達が仕える主人はどういう人間なのかとビクビクしているのだ
鈴子は幼い頃を思い出していた、父も母も自分に感心がなく・・・心を開けるのは子守りで雇われた家政婦達だけだった・・・鈴子は知っていた、自分は後妻だ・・・ここで自分らしく生きていくためには、まずは定正に雇われている、この家の従業員達の心を掴まなければいけない
ニッコリ・・・「そうね、教えてくれてありがとう、私はブランド物には興味ないから、この部屋の物を処分したいと思うわ、手伝ってくれると嬉しいんだけど・・・」
家政婦達がパッと顔を輝かせた
「ハ・・・ハイ!奥様!」
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またある日鈴子が一人の暗い顔をした家政婦を呼び止めた
「早崎さん(家政婦の名前)お子さんの大学卒業おめでとう、よかったわね」
暗い顔をして家政婦が言う
「ハイ・・・ちゃんと卒業してくれたのは良いのですが、あの子に200万も奨学金を背負わせてしまって・・・これから新社会人になっていくら利息がないからって借金返済なんてかわいそうで・・・」
「そう・・・親としては辛いわよね・・・その奨学金私が持つわ」
「ええ?奥様・・・そ・・・それはいけません」
家政婦が驚いて背筋をピンッと伸ばした
「大丈夫よ、その代わり私も赤ちゃんが生まれて、少ししたら主人の仕事を手伝いと思うので、その時は赤ちゃんを一緒に育ててくれる人が必要なの!」
「奥様・・・」
「私も早崎さんがここで何も分からない私を助けてくれるのがどれほど助かっているか・・・これからも私を支えてね」
グスッ・・・「奥様・・・私・・・私・・・何て言っていいか・・・」
家政婦は泣きながら鈴子に感謝をのべた
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