テラーノベル
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土曜日の昼下がり。
シェアハウスのリビングには、和也・謙杜・流星、そして恭平が集まっていた。
謙杜:「なあなあ、今日の夕飯さ、恭平が作ってくれへん?」と謙杜。
恭平:「ええ〜、俺やんの? 今日の俺、料理できる顔ちゃうで?」
大吾:「いやそれ毎日言うてるやろ」
丈一郎:「顔で作るんちゃうわ。ちゃんと腕で作って」
流星:「てか恭平のカレー、地味にうまいんよな〜」と流星がさらり。
恭平:「……うまい言うな、ちゃんと“天才的に美味い”って言って?」
なんて軽口を叩きながらも、恭平は内心ちょっと嬉しかった。
恭平:(俺の“中身”で評価されるの、ほんま久しぶりかも)
その夜。
夕飯のカレーを食べ終わったあと、真理亜がふと声をかけてきた。
真理亜:「恭平くんって、昔から“明るい子”だったの?」
その一言に、恭平の手がピタリと止まる。
恭平:「……え?なんで急に?」
真理亜:「いや、さっきキッチンで洗い物してるとき、口ずさんでた歌が、“僕は誰にも気づかれない影だった”って……ちょっと気になって」
一瞬、空気が止まったような気がした。
恭平:「……たまたま流れてきた曲やから。歌詞とか知らんし」
真理亜:「そっか。ごめんね、変なこと聞いちゃった」
恭平は笑ってごまかした。
でもその夜、寝室でふと思い出していた。
小学生の頃、クラスで目立たなかった自分。
何かを言ってもスルーされるのが日常で、
親からも「どうせお前には無理やろ」と期待されなかった。
恭平:「“目立てる何か”がないと、誰にも見てもらえへん」
そう思ったのは、あの頃だった。
だから、いつからか自分で「明るくて天然のキャラ」を演じ始めた。
――誰かに気づかれるために。
その夜、珍しく恭平はリビングに戻り、スケッチブックを開いた。
恭平:「……誰も見てへんし、ちょっとぐらいええやろ」
そう呟いて、鉛筆を走らせる。
描きあがったのは、小さな男の子が笑いながら空を見上げるイラスト。
恭平:(こんな絵、誰にも見せられへん。“意外”って言われるのが、怖い)
でも――
その瞬間、背後から声が聞こえた。
和也:「……え、なにそれ。めっちゃうまいやん」
振り返ると、和也が立っていた。
恭平:「えっ!? ちょ、お前いつからおったん!?」
和也:「いや、トイレ行こうとして降りてきたら、なんかすごい集中して描いてたから」
恭平は慌ててスケッチブックを閉じようとするが、和也がそっと止める。
和也:「それ、お前の“本音”やろ?なんで隠すん?」
恭平:「だって……“お前が絵とか描くん意外〜”とか、“キャラちゃうやん”って言われんねんで。そんなん、めんどいし……恥ずかしいし……」
和也:「でもさ、それって、“ほんまの恭平”やろ?」
恭平:「……そやけど」
和也は笑った。
和也:「俺は、キャラとかより、“素の恭平”のほうが、断然好きやけどな」
静かな夜。
恭平は初めて、誰にも見せなかった“自分の好きなこと”を、人に受け入れてもらった。
ほんの少し、肩の力が抜けた気がした。
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