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「お母さん、お父さん、見てみて! 今日のテストね、百点だったの」
小さい頃、私は両親に認めて貰いたくて構って貰いたくて、勉強も習い事も一生懸命に頑張った。
私の両親はそれはそれは、優秀な人達で海外出張も多く家にいることなど殆どなかった。まだ小学校の頃はご飯を作り置きしてくれていたが、それもだんだんとなくなっていき机の上にお札が置いてある日が続くようになってきて、完全に両親と会話をすることがなくなった。
忙しい人だって分かっていたし、じゃまをしないようにと我慢してきた。
そして、優秀な両親を持つ子供として優秀でなければならないと私は努力をしてきた。
そしたら、私もお母さんやお父さんみたいに優秀であれば振向いてくれると、褒めてくれると思ったからだ。
でも、現実はそんなに甘くなかった。
「忙しいの。それに、その年でその点数は当たり前よ」
「そうだ、お父さん達は常に百点を取っていた。珍しいことではない」
両親から返ってくる言葉は全て冷たく刺々しく、幼い私の心をえぐった。
何でだろう。
何で、努力しても褒められない、認められないのだろう。
ねえ、何で。
私はこんなに頑張ってるのに……一言だけでもいいから、凄いねって褒めて欲しい。頑張ってるねって褒めて欲しい。
ただそれだけなのに。
「夜にピアノなんて弾かないで。こっちは仕事で疲れてるっていうのに」
「そんなことも分からない子だったのか」
「違う、違うのお母さん、お父さん」
夜、小さな音でピアノを弾いていると両親に怒られてしまった。
確かに、夜中にピアノを弾くのは非常識かも知れない。だけど、それでも両親がいるときに聞いて欲しかった。
上手だねってその一言が欲しいあまりに。
その行動が馬鹿だった。
両親の冷たい顔、憐れみの目。それで、全て察した。子供ながらに。
「褒めて、欲しい……だけ、なんです」
「ピアニストになれるわけでもないのに、練習しても意味ないでしょ」
そう、母親は私に吐き捨てた。
別に、ピアニストになろうだなんて思っていなかった。でも、もしかしらあの時淡い期待を抱いていたのかも知れない。
けれど、母親に言われた一言でその全てが崩れ去った。
これまでの努力を全て否定されたのだ。正面から全てを。
「そう……です、ね。お母さんの言うとおりです。ごめんなさい」
私は泣きそうな気持ちを必死に抑え、部屋へと戻ろうとする。すると、後ろから両親声が聞こえてきた。
「才能があるわけでもないのにピアノなんて練習して、そんな時間があるなら勉強をすればいいのに」
「現状で満足しているんだろう。向上心がないんだ」
「そうね、あなた。あんなのが娘だと思うと恥ずかしいわ。まあ、どうでもいいれど。私達には私達の仕事があるし」
「ああ、全くだ。あれで努力しているつもりなのか」
「……っ!」
その会話に私は足を止めてしまう。
そして、気がついたら走り出していた。涙を堪えながら、何もかも忘れようと無我夢中で走った。そして、部屋に駆け込みベッドに飛び込んだ。
どうして……なんで。
私だって、私だって頑張っているのに。
私はただ、誰かに認めてもらいたかった。褒められたかった。それなのに、両親は認めてくれなかった。
私の努力を認めてくれなかった。努力しても、もう無駄なんだ。
全部、全部、全部――――!
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そこで、私は目が覚める。
「……ッ!」
酷く呼吸が乱れ、汗も尋常じゃないほどかいており、体が震えていた。
「……最悪」
私は起き上がり、額の汗を拭う。…………本当に、最悪だ。
私は、まだ心のどこかでは両親に認めて貰えると思っているのかも知れない。でも、そんなことは絶対に無いと分かっているはずなのに。
そもそも、元の世界に戻れる保証なんて何処にもないのに。戻ったところで、親友もいないし……
きっと、この夢を見たのはグランツに努力する意味は無いと突きつけられたからだろう。
本当に最悪だ。
「…………負けない」
そうだ、私は誰よりも努力してきた。それは、これからも変わらない。
私が努力するのは両親のためなんかじゃなく、自分自身のためにやるんだ。
あの時、両親の言葉で暗示にかかってしまったかのように努力することは無意味だと、何かを継続することは意味がないとやめてしまった。ピアノはやめてしまったが、勉強は継続した。だって、それを取ったら自分から何も残らない気がして。
勉強は努力というよりかは習慣だったため、苦痛に感じなかった。
そう、だから私は努力する。努力することは意味がないって言われようと。例え、それが無意味だと分かっていても。
そう心に決め、私は今日もグランツの所に向かうことにした。
彼に否定されようが、好感度が上がらなかろうが関係無い。
やるって決めたんだからやろう。
素振りだって、何回だってしてやる。
グランツだって、分かっているはずだ。努力はし続けることに意味があるって。
じゃなかったら、平民だからって理由でハブられ訓練に参加できなくても一人で鍛錬を続けなかっただろうから。
「よーし!」
気合いを入れ直し、私は部屋を出た。
「どうしたの、エトワール様!?」
「あ、リュシオル! 頼んでた服ってもう出来た?」
廊下に出ると、ばったりリュシオルに会った。私は早速彼女にお願いしていたものについて聞いてみることにする。
「ええ、ばっちりよ! 今届けに行こうと思っていたの。じゃーん!」
と、彼女は抱えていた白い布を広げ胸をはった。
そこには、私の要望通りのドレスが出来上がっていた。
色は白を基調としていて、ところどころに金糸で刺繍が施されている。
修道女の服のアレンジをと頼んでいたが、その型枠から大きく外れており、可愛らしいワンピースのようなデザインになっていた。
これはこれでとても可愛いのだが、ちょっとだけ不満な点があった。
それは、スカート丈が短すぎることだ。
膝上の長さになっており、少し屈むだけで下着が見えてしまうのではないかと不安になる。
けれど、それ以外に欠点はなく動きやすそうな服装であり、可愛らしさと動きやすさが調和したいいデザインであった。
早速、私はリュシオルに着せて貰うことにした。
「ど、どう?」
「サイズもぴったりだし、たまにがに股歩きになるエトワール様にぴったりね!」
「なんか最後の余分じゃない?」
似合う。と言いながら、一言多いリュシオルを見ながら、私は鏡の前でくるりと回ってみせる。
ふわりと舞うスカートに、ひらひらと揺れるレース。裾にはオレンジの花の模様が描かれ、動くたびにフリルが舞い踊る。
そして、背中には大きなリボンがあり、その下はコルセットのように腰回りを締め付けている。そしてそこから伸びる細いベルトは、ウエストをキュッと引き締め、私のお腹周りを隠してくれている。
そして、腕は袖が膨らんでいて、肘の辺りまで覆っている。
また、仕上げにとリュシオルは純金のオレンジの花のブローチを付けてくれた。
「うん、完璧」
「ありがとう、リュシオル。凄く動きやすいし、何にも文句ない」
「腕利きの職人が作ってくれたものだしね、防御魔法もかかっているから耐久性もあるのよ」
と、リュシオルは誇らしげに話してくれた。
これなら、魔法の特訓も剣術の訓練もドレスよりかは楽にこなせるだろう。
私は、リュシオルにお礼を言うととある場所へと向かった。
私がずっと引きずっていると思ったら大間違いなんだから!