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──屋敷に、火が放たれる。
どうやら、皆、考えは同じのようだった。
晴康《はるやす》は、橘《たちばな》を通じて、新《あらた》達が、火をどう防ぐか、考えてくれていると聞くと、碗を置いて、立ち上がった。
「あっ、橘様、どうも馳走になりました。常春《つねはる》、塗籠《ぬりごめ》で、待ってるから、ゆっくり食べて」
それだけ言うと、晴康は、急ぎ足で、髭モジャ一家の小屋を出た。
晴康の後を追うと、粥をかきこむ常春に、橘が、言う。
「常春様。ゆっくりと、召し上がれ。それが、晴康様のお望みでしょ?」
「はい?」
「何か、調べ物があるのではないでしょうか?」
「ならば、私も、手伝えば、いえ、あの、室《むろ》へ移すというのは……」
「ええ、私も、とっさに、室、と、思ったのですけどね、それは、天災など、人の力が及ばない時のこと。そして、良く良く聞けば、守近様宛の荷の記録が、邪魔な、だけなのです」
「……守近様宛の?その様な荷は……私には、記憶がございませんが」
「それは?常春様、いったい……」
「あ、あの、橘様、もう少し、荷の、子細を聞いてみては……」
常春の視線が、水瓶に向けられた。
「お前様っっ!!」
叫ぶ橘に、おぉーなんじゃ!と、水瓶から、髭モジャの声が、返って来る。
「常春様が言うには…………」
橘は、髭モジャ達に、事を告げた。
「うーん、なんだかのおーーー」
水瓶からも、困惑の声しか戻ってこない。
「こりゃあ、女房さん、理屈は、もう、忘れましょうや!何を守るか、それを、見つけましょう!」
「そうですね。新殿。もう、理屈や思惑なんて、捨ててしまいましょう!結局、私どもは、何の為に、動いているのか、そこなのですね」
「そりゃあ、決まっとるぞ、ワシは、大事な女房殿を、守る為じゃ!!」
ひゅーひゅーと、冷やかしの指笛が、水瓶から流れてくる。
「全く、お前様ときたら、もう少し、場所を、わきまえなされませ!!」
「まあまあ、女房さんも、そう、照れんでも!!」
新のからかいに、ははは!と、男達の笑い声が続いた。
「あの!!皆様!!」
「常春様?」
碗をもったまま、常春が、立ち上がっている。しかも、非常に険しい顔をして。
「髭モジャ殿は、橘様を守りたい。では、この屋敷ならば……守恵子《もりえこ》様!!!」
「常春殿、それを言うなら、お方様じゃろう?」
「それは、守近様と、お方様が、夫婦《めおと》と、言う話しで、屋敷、とすれば、守恵子になりませんか?!」
あーーー!!!と、水瓶から声が上がる。
「紗奈、お前も、そう思うか?」
取り乱した妹の声に、常春は、確信を持った。
「何故なら、守恵子様は、入内を期待されているからです!いや、違う!我々すら知らない水面下で、既に、決まっているのです!だから、そうだ!だから、守近様が、今日に限って、早くお戻りなった。それも、牛車《くるま》を、使わずに……」
と、言って、常春は、ああ、と、呻いた。
「……あー、なんで、守近様は、牛車《くるま》を使わなかったんだろう?それで、守恵子様は??なんだか、肝心なところが、抜けているような!!!」
「長良殿!今日の牛は、若、じゃったのか?」
髭モジャが、常春に問うてきた。
「違います。髭モジャ殿が、おられないので、戻ってくるまでは、若を使わない事にしていました」
おいおい、若ってなんだよ、と、水瓶の向こう側は、沸いていた。
「おう、屋敷の、牛車用の、牛じゃ。妙に、扱いにくくてのぉ、ワシが、いつも、発破をかけておるのよ」
発破をかけてって?!
と、またまた、向こう側は、ざわめいている。
「はい、癖のある牛で、要するに、髭モジャ殿の言うことしか聞かず、若、を、使う時は、髭モジャ殿が、牛飼い役になられるのです」
常春の、説明に、ほおおーー、と、水瓶から、感心する声があがった。