コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
二人は予定どおりにパスタのお店に入った。冴子はペペロンチーノを注文した。良彦はまたもや決めかねていたが、結局トマトソースの普通のパスタを選んだ。
「私は、結婚してから今まで、あなたのような素敵な人に出会ったことがありません。」
「あら、ありがとうございます。でも、どうして結婚しているのにこんなふうに私を誘うのですか?」
「・・それはあなたが魅力的だからです。」
(いえ、そうじゃなくて)
そんな言葉を冴子は飲み込んだ。そしてまた嘘をつく。
「ありがとう、嬉しいです。」
食事を終えると、そのまま別れた。
「ごちそうさま。今日はありがとうございました。」
「いいえ、こちらこそ。デートできて嬉しかったです。」
また彼はずっと遠くなるまで見送ってくれている。後ろを振り返って、そっと手を振る。
相変わらず毎日メールが届く。『逢いたくてたまりません』とか、『いつも思ってます』とか。そのたびに、冴子も返信をするのだが、いつもあいまいな返事しかしない。どんどん辛くなってくる。まるでじらしているみたいだ。でも本当は違う。面倒くさいだけ。それなのに、良彦はそんな冴子の態度にますます心を奪われていくのだった。すぐに自分のものにならないものは、ますます欲しくなるものなのかもしれない。そして、そんな駆け引きのうまさが冴子には、もともと備わっているような気がした。