テラーノベル
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リビングの灯りが、少し落とされたあと。
家族はそれぞれの部屋に戻っていって、
赫だけが、ソファに座ったまま動かなかった。
テレビはついてる。
でも、内容はまったく頭に入ってこない。
「……」
赫は、
膝の上で指を組んだりほどいたりしながら、
以前、担任から言われた言葉を、何度も思い返していた。
——証拠がないと、処分は難しい。
学年主任。
担任。
会議室。
はっきり言われた。
「証拠がなければ、退学まではいかない」
それなのに。
「……全員、退学?」
ぽつりと、独り言が漏れる。
早すぎる。
決定が。
学校って、こんなに動き早かったっけ。
赫は、
無意識に、視線をソファの端へ向ける。
そこにはもう、翠はいない。
部屋に運ばれたあとだった。
でも、
さっき見た姿が、頭に焼き付いてる。
顔色。
力の抜け方。
呼んでも、反応が鈍かったこと。
「……疲れてるっぽい」
桃は、そう言った。
でも。
赫の胸の奥に、
小さな引っかかりが残る。
「……証拠」
その言葉を、
もう一度、噛みしめる。
俺は、出してない。
出せるようなもの、持ってない。
みんなも、
「ない」って言ってた。
なのに。
「……じゃあ、誰が?」
心臓が、
とくん、と鳴る。
思い浮かんだ名前を、
赫は、すぐに否定しようとした。
——まさか。
翠は、
ずっと、
俺のそばにいたわけじゃない。
保健室の日も、
途中で別れた日も、
あった。
赫は、
自分の手を強く握る。
「……俺の知らないところで」
脳裏に、
妙な記憶が浮かぶ。
・翠が肌の露出を避けてたこと
・理由を聞いても、笑って流したこと
・“大丈夫”を何度も繰り返してたこと
「……あれ?」
点と点が、
ゆっくり、線になりかける。
赫は、
立ち上がった。
音を立てないように、
廊下を歩く。
翠の部屋の前で、
足が止まる。
ドアの向こうは、静か。
寝てるのか。
それとも———
(……翠にぃ)
声に出さず、
名前だけ、口の中で転がす。
胸が、
ざわざわする。
安心したはずなのに。
救われたはずなのに。
「……なんでだよ」
赫は、
額をドアに軽く預けた。
この退学処分は、
本当に“俺だけ”を守った結果なのか。
疑問は、
もう、引っ込まなかった。
コメント
1件
赫っちゃぁぁん!!!! 翠っちゃんを救ってくれぇ