その後、逃げるように家を飛び出した私は、行く宛もなく、ただ遠く、遠くへ走っていた。
あまりのショックと動揺で、周りの様子などまったく見えなかった。
わきめも振らずに走っていると、夜の店が立ち並ぶ繁華街で、私は一人の男に危うくぶつかりそうになった。男は背後から前も見ず全速力で走ってきた私をいとも簡単に避けると、私の腕を掴んで引き留め、
「心慌意乱。どうした。何かあったのか。」
と言った。
最初の方は何を言っているのかよく分からなかったが、金色の長髪に赤い上衣、黒いズボンを身に着けたその男は、田舎者の私でも一目でそれとわかるような、裏社会の男であった。
「ご、ごめんなさい!!」
急いで謝ったものの、男に何をされるか分からず、ただ恐怖でガタガタ震えていた。
すると男は怒るどころか、反対に優しそうな目をすると、私の顔をじっと見て、何かを感じ取ったようで、声を潜めて、もう一度、
「何があった。」
と聞いた。私は首を横に振ったまま黙っていた。
「家はどこだ。」
男はさらに質問を重ねる。私は、ただ、黙って首を振り続けていた。すると男は、私の目をじっと覗き込み、すべてを察した様子で、
「万事如意。怖がるな。おまえさんの家のことはなんとかする。その代わりおまえさんは、ここで面倒を見てもらえ。」
と言い、私に一枚の紙切れを手渡した。
コメント
3件
この優しい人はまさか和中の兄貴…?…泣けてきた( ; ; )(感動…)好きです←突然すみません( ; ; )